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女神の視界に入らないので、霧の鉱山で命令を奪って生き延びます  作者: いねむず
鉱山

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第二十一話:中間指揮官



回収屋は末端だ。


拾う。運ぶ。戻る。

それだけの命令しか受け取れない。


だから「停止」が通らない。

末端に、そんな裁量はない。


なら奪うべきは“中間”。


命令を翻訳するやつ。

合図を出し、隊列を組み替え、撤退線を引くやつ。


デスサージェント。


夜、霧の端で隊列の音がした。


いつもより遅い。

規則が細かい。

末端だけじゃない。


金属の擦れる音が混じる。

鎧だ。朽ちた鉄板が、骨の上で鳴る。


ボクは坑道の分岐に陣取った。

わざと“通れる道”を一本残す。

他は落盤で潰すか、滑り油で殺す。


規律がある敵は、最短を選ぶ。

最短を選ぶ敵は、誘導できる。


霧から現れたのは回収屋が六体。

その後ろに――一体。


鎧付き。

兜の額に、古い刻印。

腰に板状の金属。手には短い杖みたいな棒。


あれが中間指揮官。


デスサージェントが足を止め、棒を床に一度打った。


コン。


回収屋が一斉に止まる。


二度。


コン、コン。


左右二体が前へ。残りが後ろへ。

隊列が扇形になる。探索陣形。


……合図がある。


三度。


コン、コン、コン。


回収屋が一斉に膝をつく。

耳のないはずの頭蓋が、天井を“聞く”みたいに傾く。


命令の順だ。


合図→整列→行動。


ボクは冷えた息を吐いた。


こいつを落とせば、命令体系が手に入る。


でも食わない。

アンデッドは食わない。

奪うのは“物”だ。


腰の金属板。

号令板か指揮札。

あれに命令の書式が刻まれてる可能性が高い。


デスサージェントが誘導路に入った。


入った瞬間、床の金属片が鳴る。


ちりん。


それが合図になったのか、回収屋が一斉に止まった。

デスサージェントが棒を打つ。


コン。


隊列が再配置され、先頭が罠を探る。


……やっぱり厄介だな。規律が“罠対策”に進化してる。


なら先に、目を潰す。


ボクは鉄矢じりを番えた。

狙うのは頭じゃない。

声を出さない敵に“頭”は飾りだ。


狙うのは棒を持つ腕。

合図を出す手。


――すぅ。


放つ。


矢が鎧の隙間を抜け、肘の関節を砕いた。

骨が割れて腕が落ちる。

棒が床に転がる。


その瞬間、隊列が乱れた。


回収屋が止まり、次の命令を待つ。

待ちすぎて、動けない。


中間が落ちれば、末端は固まる。


……最高。


ボクは二本目を撃つ。

今度は腰の金属板を狙う。


刺さって曲がったら困る。

だから矢は外す。矢で“落とす”。


矢が鎧の腰紐を裂いた。

金属板が、がしゃりと床に落ちる。


回収屋が動いた。

棒が落ちたのに動く。

――別の合図が来た。


霧が重くなった。


音が消える。


迷霧王アダルバートの圧。


“上”が見ている。


デスサージェントが片腕を失いながら、頭を上げた。

空洞の眼窩が霧の奥へ向く。

まるで叱責を待つ兵みたいに。


そして、霧の奥から声が落ちた。


「よい」


短い。だが笑っている。


「……その腕を落とされて、なお立つか」

「兵としては上出来だ。だが指揮官としては――凡」


皮肉。

余裕。

歴戦の武将の匂い。


回収屋が再び動き出す。

今度は“回収屋”じゃない。護衛だ。

金属板の方へ真っ直ぐ来る。


アダルバートは命令体系を“上書き”した。

中間が落ちても、上官が直接動かせば隊列は回る。


ボクは金属板を拾うために前へ出た。

一歩だけ。二歩だけ。


その瞬間、霧の圧が変わる。


「……ほう。拾うか」


声が近い。

距離じゃない。意識が向いた感じ。


ボクは余計なことをしない。

金属板だけ掴む。五本指で、確実に。


そして撤退。


落盤誘導の支え棒を蹴った。

ごと、と天井が鳴り、岩が落ちる。


通路が塞がる。回収屋が足止めされる。

デスサージェントは瓦礫の向こうで、片腕のまま立っている。


逃げ切れる。


拠点に戻って、灯りの下で金属板を見る。


薄い鉄板。

表面に刻印。文字。陣形図。短い命令文。


読める。


共通語理解が、ここで刺さった。


「回収:優先」

「回収:中止」

「隊列:再編」

「撤退:段階一」

「撤退:段階二」


段階。

やっぱり順序がある。


命令は単語じゃない。

手順だ。文脈だ。階梯だ。


ボクは板を指でなぞり、頭の中で命令を組み立てた。


……これなら、「撤退」が通った理由も説明できる。

末端に刺さるのは“段階命令”だけだった。


そして、今なら次が見える。


合図→命令→復唱→行動。


“喋る順”を奪った。


でも、まだ問題は残る。


喋れば座標が割れる。

迷霧王は、混線点から逆算してくる。


だから次は――喋り方。


腹話術。音源ずらし。

命令点を分散させる技術が要る。


その夜。


霧の奥で、アダルバートが笑った。


「面白い」

「兵站を狙い、指揮を断ち、なお撤退する」


「敵にするには惜しいな」


声には、愉快さが混ざっている。

慈悲じゃない。評価だ。

駒が増えたと喜ぶ声。


「……だが学ぶのはお前だけではない」


「次は“拾わせぬ”」

「次は“逃がさぬ”」


霧が静かに揺れた。

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