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婚約者に放置されたので異世界で日本酒を楽しみます~本当に好きなお相手とどうぞお幸せに~  作者: 千早 朔


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7/12

美しいサシミと合わせて

 三樹様は「良かったね」と労わるように瓶を撫で、


「品のある香りと、純米大吟醸らしい透明感。そして柔らかく優雅な米の甘みがたっぷりと味わえるのが、この"ロろまん"の名がついた日本酒の中でも原点と言われるこのお酒の特徴なんだ」


「あの、三樹様」


 私はうずうずとした好奇心に口を開く、


「なぜ、こんなにも美しい透明なお酒になるのですか? そちらの"米"は、白く色づいていますのに。もしかして、この国では魔法でお酒を……?」


「残念だけれど、この国に”魔法”は存在しないはずだよ。この透明感も、たくさんの人の手によって生み出されててさ」


 そう言って三樹様は、”米”をひとつまみ掌に乗せ、


「ワインも日本酒も発酵させるのは同じなのだけれど、ワインの原料になるブドウの果実には水分も、糖分も豊富でしょ? 対してお米はこの通り、乾燥しているうえに糖分も含んでいないから、"こうじ"っていう米の成分を糖化させる菌と、お水、発酵のための酵母を加えるんだよね。そうすると、"もろみ"っていう状態になるのだけれど、そこから絞ったり、上澄みだけをすくったり、濾過をしたりなんかもして、液体と固形分を丁寧に分けていくんだ。で、そうして極限まで固形分を取り除くと、この透き通った日本酒になるんだよ」


「すごい……、とてつもない手間暇をかけて生み出されるお酒なのですね」


「そうそう。そもそも、このお米を原料として使うにも手間がかかるのだけれど……それは、またの機会にしようか。今回は、日本酒の美味しさを楽しんでほしいしね」


「――お待たせいたしました」


「あ、亀さん、ありがとうございます」


 現れた亀さんは「おや」と三樹様の前に置かれた瓶を見て、


「なるほどなるほど、本日の刺身によく合いそうですね」


 ささ、どうぞ。そう言って置かれたお皿には、白く細い糸状のものをくるりと丸めた小さな山と、ギザギザとした緑の葉。

 その上に角度を付けるようにして、四角く切られた切り身が数枚乗っている。

 柔らかそうな身は白く透き通っていて、端はほんのりと赤みがかった美しい見た目をしているけれど。


(お肉とも違う、この感じは……)


「あの、"サシミ"とは、もしかして生の魚のことでしょうか……?」


「ええ、そうですが……もしや、刺身は初めてでしたか」


 尋ねる亀さんに、私は「はい」と頷き、


「私の国では、魚は必ず火を使った調理をしてから食べます。生のままではお腹を痛めるだとか、臭いが強いだとか理由はいくつかありますが……なによりも貴族の間では、血の通う生物を調理せずに食べることは、野蛮な行為だと認識されていて」


 すると、三樹様が「ああ、そうだったね」と思い出したようにして、


「ロイドさんが刺身を好いていたから、すっかり忘れていたよ。どんなに美味しくても自分の国ではとても食べられないって、教えてもらったのだった。ごめんね、別の料理にしようか」


「……いえ」


 私は飾られた”サシミ”を凝視する。


(生の魚の身というのは、こんなにも美しい色をしていたかしら)


 実家では手伝いのためにと、厨房も自由に出入りしていた。

 調理のために魚が捌かれていた時もあったけれど、こうも美しく見えた記憶はない。

 それに――。


「とても、興味があります。この美しい"サシミ"そのものにも、日本酒との相性も。お爺様も好いていたそうですし、私も、食べてみたいです」


 そうよ。ここでは私が貴族だと知るのは、三樹様だけ。

 “普通に”食事をする行為を野蛮だと責める人だっていないのだから、躊躇う必要もないわ。

 すると、三樹様と亀さんは互いに顔を見合わせた。

 微笑まし気に目元を緩め、


「もちろん! 特に今日の鯛はね、この春の時期ならではのだから、きっと気に入ってもらえると思うよ」


 そう言って三樹様は、二本の棒を私の前に置く。


「他のお客様を見てもらうとわかると思うんだけれど、この国ではこの"箸"を使って食事をするんだ。こう、利き手の指先に引っ掛けるような形で持つのだけど……どうかな? 難しいようなら、フォークもあるからね」


 そう言って目の前で持ち方を教えてくれる三樹様の手元と必死に見比べながら、なんとも細い棒を指にかける。

 お、お上手ですねえ、なんて亀さんも褒めてくれるけれど、なんとか持てたところでどう見ても動きがぎこちない。


(こんなにも苦労する方法で食事をとるなんて、この国の人達は指先が器用なのね)


 それとも、こうして常に指先の訓練を行わなければならない理由があるのかしら。

 たとえば……そう、この国に魔法はないけれど、魔法に代わる特別な”術”を使うために必要だとか――。


「いいですね。では、実食といきましょうか」


 亀さんの声にはっと視線を上げると、何やら黒い液体の入る小皿が"サシミ"の皿の横に置かれる


「これは"醤油"です。この国でよく食べられる"大豆"という豆を加工した、調味料ですね。色々な料理の味付けに使われるのですが、刺身にもちょこっとつけて食べるんです。あまりじゃぶじゃぶ浸すと塩辛いもんで、気を付けてくださいね」

ここまでお付き合いくださり、ありがとうございます!

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