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婚約者の騎士様に放置されたので異世界で日本酒を楽しみます~本当に好きなお相手とどうぞお幸せに~  作者: 千早 朔


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まるで魔法のような道具

「この時間に部屋に戻ってこられたのも、久しぶりだわ」


 自室の窓から見える夜空を横目に、庭作業用だと誤魔化して購入してきた簡素なワンピースに着替える。

 建国祭が目前に迫り、私もフレデリック様も慌ただしい日々が続いているものの、以前と比べれば断然に顔を合わせる機会が増えた。


 特に、朝食。フレデリック様はどんなに遅くなっても帰宅しているようで、毎朝現れる。

 それだけでも充分妙だというのに、どうにも様子がおかしい。


「久しぶりの長期任務で、よほど寂しい思いをされたのかしら」


 この二年間、必要最小限の会話しか好まない様子だったのに、突然口数が増えた。

 それどころか、これまでは決して口にしなかったような、"らしくない"詩的な言い回しまで。


「どう考えても、私のご機嫌取りよね?」


 婚約の破棄が正式に決まるまでは、これまで通り"婚約者"としての仕事をこなすと伝えた。

 そして現状、その約束を守り続けている。

 なのに、私が役目を放棄するのではないかと、そんなにも不安なのかしら。


「私って思っていた以上に、信用されていないのね」


(こんなブローチまで用意するなんて)


 化粧台に置かれたブローチは、先日フレデリック様から贈られたもの。


『建国祭で身につけてくれませんか。俺も、対となるブローチをつけますので』


『私は構いませんが……フレデリック様は騎士団の任務のため、当日は制服でいらっしゃいますよね?』


『問題ありません。制服に付けます』


(そういうものなのかしら……)


 フレデリック様がつけると宣言したもう一つのブローチは、私のそれと中心の宝石が異なっていた。

 見比べて、気が付く。

 私に贈られたブローチの宝石は、フレデリック様の瞳の色を。フレデリック様側のブローチは、私の瞳の色を模している。


(これではまるで、"本当に互いを想い合う婚約者"だわ)


 私達が特別な仲なのだと周囲に知らしめるため……なんて言っていたけれど、今の社交界で私達の婚約関係を知らない人などいない。

 そしてその実が、一種の契約関係であることも大方広まっている。


(これ以上に、何を主張したいというのかしら)


 そもそもどんな意図であれ、こんなブローチを私と身に着けてしまったら、ゼシカ様がお怒りになると思うのだけれど。


(ゼシカ様へはすでにドレス等を贈られていて、ブローチの件も事前に話してあるとか?)


「……考えるだけ無駄ね。どうせ分かりっこないのだし」


 そうよ。それに今はブローチよりもペンダントだわ。

 引き出しに入れておいたペンダントを久しぶりに手に取り、


(皆様、いらっしゃるかしら)


 ドキドキとした高揚感に急かされるようにして呪文を口にすると、あの黄金の扉が現れた。

 迷わず開く。馴染みある居酒屋『縁』の店内に、ほっと息が漏れたのは無意識。


 いつもならば出迎えてくれる三樹様や亀さんの姿が見えないけれど、お客様が入っているということは、忙しくされているのね。

 二人の姿を探して歩を進めようとしたその時、カウンター席に座る香穂様と辰彦様の姿を見つけた。


(お二人とも、いつぶりかしら……!)


 嬉しさに足を早めた刹那、顔を上げたお二人が私に気がついた。

 瞬時に顔を輝かせて手を振ってくれた香穂様に、私も右手を上げ――、


「リアナちゃん! 久しぶりっ! 来てもらって早々でホンット申し訳ないんだけど、この後って時間ある!?」


 それこそ風のような早さで眼前に現れた香穂様に驚きつつ、こくりと頷く。


「は、はい。今夜は問題ありませんが……」


「お願い!」


 香穂様はパチリと盛大に両手を合わせ、頭を下げた。


「アタシを助けると思って、一緒に来てくれないっ!?」


 そうして三樹様と亀さんへの挨拶もそこそこに、香穂様と辰彦様に連れられ店を出たのだけれど――。


「みてみてリアナちゃん! この! このターンの直後の一瞬目を細めて笑うこのっ……ああーー最高ですっ!!」


 部屋のほとんどを占めるほどの四角いテーブルと、それを取り囲むようにして配置された布とも皮とも異なるソファ。

 歩くスペースがほとんど存在しない薄暗く奇妙な部屋で、香穂様が色の変わる"ペンラ"という光る棒を激しく振る。


 振動を感じるほどの音量で流れる歌と音楽に合わせ、窓のごとく大きな"モニター"の中で踊るのは、香穂様が"推し"の龍ヶ崎ノア様が所属する"スター★エンジェル"の青年たち。

 更には部屋の中までも、様々な色の明かりが点いたり消えたり……。


(これが、"カラオケ"……!)


 私は抑えきれない興奮を自覚しながら、香穂様に貸していただいた"ペンラ"の色をカチカチと変え、


「なんて美しく便利な灯りなのかしら……! それに、"クルマ"や"デンシャ"さえ魔法ではないなんて……っ!」


(これまで居酒屋の外に出たことはなかったけれど、想像以上の異世界だわ……!)

ここまでお付き合いくださり、ありがとうございます!

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