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婚約者の騎士様に放置されたので異世界で日本酒を楽しみます~本当に好きなお相手とどうぞお幸せに~  作者: 千早 朔


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手遅れだとしても諦められない

 そうして俺はセドのアドバイス通りに、白い薔薇の花束を抱えて邸宅に戻った。

 赤ではなく白なのが重要らしい。

 俺にはよく分からないが、リアナ嬢にはどんな色の薔薇も似合うと思う。


(疑うよりも実行あるのみ。でないと、待つのは彼女との婚約破棄だ)


 出迎えに現れたのはノイマンだけで、リアナ嬢の姿はない。

 問題ない。想定済だ。


「ノイマン、リアナ嬢はどこに?」


 と、ノイマンは俺の抱えた花束に気づくと目を輝かせ、


「お嬢様は庭園にいらっしゃいます」


「わかった。少し出て来る」


(突然こんな花束を渡したら、驚くだろうな)


 心臓が不安と緊張に押しつぶされそうだ。

 なのにどこか、彼女の笑顔を期待してしまっている自分もいる。


(――いた)


 少し腰をかがめ花を眺めているリアナ嬢は、手入れもしていたのだろうか。

 帽子を被った軽やかなワンピース姿が愛らしい。


(っと、花束はいったん背後ろに……)


「フレデリック様?」


 顔を上げたリアナ嬢が、ふわりと目尻を和らげる。


「戻られたのですね。おかえりなさいませ」


 わかっている。わかっているんだ。

 彼女にとっては、ただの習慣的な挨拶なのだと。それでも。


(か、可愛らしい……っ)


 緩みそうになった表情を奥歯を噛んで必死に取り繕いつつ、「ただいま戻りました」と彼女に近づく。


「手入れをされていたのですか?」


「ええ、キースと一緒に。私だけ、もう少し散歩をしていたんです」


「そうで――」


 刹那、セドの"指令"が脳裏に過る。


『とにかく褒めろ! ささいな行動、仕草、身に着けているものでもいい! 俺の目に映るのはキミただ一人! キミの全てに心を奪われていますってことをアピールするんだ』


(俺の目に映るのは、キミただ一人。キミの全てに心を奪われています、か)


 昔観た、女性に人気だった歌劇の数々を思い出す。

 俺はすうと薄く息を吸い込み、


「――リアナ嬢に手間をかけてもらえる花々は幸運ですね。だからこのように、あなたに相応しくあろうと美しい姿で咲くのでしょう」


「……はい?」


「軽やかなその姿も、とても愛らしいです。春の妖精も、あなたの可憐さを前にしては、頬を染め花の影に隠れるに違いありません」


「えと、フレデリック様……?」


 俺を見上げるリアナ嬢の瞳が揺れる。


(よし、響いている……!)


 歌劇を見た時には、妙な台詞ばかりをポンポン投げかける男も、それを喜ぶ女性も心底不思議に思ったものだが、なるほど確かに、実際に発してみればしっくりくるものだ。

 それはもちろん、相手が恋しいリアナ嬢だからこそなのだが。


(俺の"心から愛する人"はリアナ嬢なのだと、知ってほしい)


「リアナ嬢」


 期待に高揚する心音を自覚しつつ、後ろ手に隠していた花束を彼女に捧げる。


「これまで誤解をさせてしまい、申し訳ありませんでした。俺が心から恋い慕っているのは、リアナ嬢です」


 激しく胸を叩く心臓とは反対に、これまで秘め続けていた胸の内はするりと口から滑り出た。


(こんなにも簡単ならば、もっと早くに伝えれば良かった)


 今となってはこれまで躊躇していたことに、馬鹿馬鹿しさすら感じる。


「婚約破棄など、考えたこともありません。いままでもこれからも、俺の望む婚約者は、リアナ嬢ただ一人です」


「っ!」


 驚愕に見開かれた緑の瞳に、夕陽の朱が交じる。


(――綺麗だ)


 どんな宝石よりも美しいその輝きに誘われるようにして、彼女の頬に手を伸ばそうとした、刹那。


「フレデリック様のご不安は、よく分かります。女性が事業を成功させるというだけでも難しいというのに、私が……なんて、とても上手くとは思えませんものね。現状、目に見えた成果をご報告出来ているわけでもありませんし」


(ん? どうして事業の話が?)


「でも、必ず成功させてみせます! もちろん、婚約の破棄が決まるその日まではこれまで通り、"婚約者"としてのお仕事もこなしますわ。ですのでそう、これ以上ご自分を追い詰めないでください」


「リ、リアナ嬢?」


「あ、このお花は受け取らせていただいますわ」


 彼女はあまりにもあっけらかんとした調子で俺から花束を受け取り、


「こちらは屋敷に飾ってもらうよう、お願いしておきます。ゼシカ様も、他の女のためにと買われたお花を贈られるのはお嫌でしょうから。陽も傾いてきましたし、屋敷に戻りましょう」


「リッ――」


 歩きだした彼女を引き留めようとして、飲み込む。


(今は、いくら言葉を尽くしても駄目だ)


 何を言っても、そのままの意味で彼女の心に届くことはないのだろう。

 手遅れ。脳裏に浮かんだ絶望の文字に、ぶわりと冷や汗が吹き出る。


(落ち着け。こんなことで怯んでは駄目だ)


 なんとしても、彼女の信用を得なくては。

ここまでお付き合いくださり、ありがとうございます!

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