彼女に好いてもらうために変わりたい
「セド、緊急任務だ。女性に好かれる方法を教えてくれ」
「ちょちょちょ、その機動力で詰め寄ってくるのはホンキで怖いって……!」
騎士団の本部に到着後、報告の業務を済ませた俺は急ぎセドを探し、やっとのことで捕まえた。
どうやらセドは訓練場で鍛錬に励んでいたらしい。
訓練場へと繋がる通路で捕獲した彼は、落ちてしまったタオルを拾い上げながら、
「だいたい、何もしなくたってお前に憧れる令嬢はいくらだって――」
「リアナ嬢が、ルーベンス卿のエスコートで建国祭のパーティーに参加するらしい。事業を始めたのも、俺との婚約破棄が目的で、上手くいくよう応援してほしいと。俺には……心から愛する人と結婚してほしいとまで」
「それは……手遅れってヤツじゃないか?」
「セド、頼む……っ!」
なりふり構っている場合ではない。
頭を下げた俺に、セドは「ったく」と頭を掻きつつ、
「言っておくけど、玉砕覚悟だからな」
「構わない」
「んじゃ早速だけど、お前が好かれたいのは"女性"というより婚約者ちゃんに、だろ? そもそもの考え方から改めろ。それに、とっくに婚約破棄のための行動を始めている相手に"好かれたい"だなんて、のんきすぎる。婚約者ちゃんの誤解を解いて、心を掴む。誠意を込めたこれまでの謝罪に、婚約の破棄を思いとどまらせるための説得も全部まるっとやるんだ」
「わ、わかった」
「つーか、ちゃんと否定したのか? そもそも自分には、初めから婚約破棄の意志なんてないって」
動揺に肩が揺れたのを自覚しながら、「……いや」と目を逸らし、
「次々と明かされた彼女の現状に、頭が真っ白になってしまって……」
「おっまえなあ、まずはそこからだろ? だいたい、これまで格好つけて最低限しか言葉にしてこなかったのが原因で――」
「ここにいらしたのですね、フレデリック様……っ!」
「!?」
届いた声に、跳ねるようにして視線を遣る。
(どうしてここに、彼女が……!?)
ドレスの裾をなびかせ、嬉し気な笑みで駆け寄ってくるのはゼシカ嬢。
俺達の眼前に辿り着くなり、「あっ」とよろめいた。
倒れこんで来る身体を咄嗟に支える。
「大丈夫ですか、ゼシカ嬢」
「ええ。フレデリック様に早くお会いしたくて、急いてしまいましたわ」
これまでならば彼女が体制を整えるまで、大人しく待っていた。
が、今の俺は以前とは違う。
両の肩を掴んで密着していた身体を離し、更には一歩を下がって距離を取る。
「俺に急ぎのご用事でしょうか」
「あ……第一騎士隊の副隊長への就任、おめでとうございます。どうしても直接お伝えしたくって、探しておりましたの」
「ありがとうございます。与えらえた責を全うするべく、精進する所存です」
「っ、それと、聞いてくださいな。わたくし、今回も"剣姫選定の儀"に選出されましたの」
「そうでしたか。おめでとうございます」
笑みを作ることもなく、事務的な口調で述べる俺に、ゼシカ嬢は悲し気な顔をした。
これは俺なりの線引きだ。
彼女にも周囲にも、何よりリアナ嬢に、不要な勘違いはさせたくない。
すると、ゼシカ嬢は気を取り直したようにして髪をかき上げた。
顎先に指を添えにこりと微笑み、
「リアナ嬢も選出されておりましたわね。もう一名には、前回の"剣姫"であるアシェル様が。わたくしたちが隣におりますので、どうぞ気負わずに楽しんでくださいと、リアナ嬢にお伝えいただけますか」
「お気遣いいただき、ありがとうございます。リアナ嬢もきっと心強く思われるでしょう。お話が以上でしたら、仕事に戻らせていただきます」
「……ええ。頑張ってくださいませ」
いくぞ、セド。
二人で頭を下げて、その場を離れる。
歩きながら、セドはチラリと後方を盗み見て、
「こっえ~~……まだ見てるぞ、ゼシカ嬢。俺のことなんて眼中になかったのにな。つかあの様子、お前のこと全然諦めてないじゃんか。あんな嫌味まで言われて、婚約者のことちゃんと守ってやれよ?」
「……嫌味など言われたか?」
「おまっ……! あれは自分達を差し置いて婚約者ちゃんが"剣姫"に選ばれるなんて絶対にないから、ただ楽しみにこいって意味だよ……!」
セドは大きなため息と共に顔を覆う。
「鈍感もここまでくると庇いようがないっていうか、婚約者ちゃんに見限れたのも当然っていうか……。フレデリック、せめて婚約者ちゃん関連のことだけでいい。もっと察しが良くならないと、状況の改善は絶望的だぞ」
「リアナ嬢に関することは、もっと思慮深くなる必要があるってことだな。他に俺がすべきことは?」
「ぐっ……婚約者ちゃんのことだけは素直になりやがって……! まず、そもそも婚約を破棄するつもりはないってちゃんと伝えろ」
「その後は?」
「お前の頼れる"親友"である、俺の指示に従え。いいか、絶対だからな!」
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