頼もしく刺激的な方を紹介されました
と、ちょっと驚いたようにした彼が、「へえ」と笑みを浮かべた。
「新メニューに加えるにあたって"ご令嬢"の意見を伺いたいのですが、ベリーのチョコと薔薇のジャムは余計ですかね? この国では"ミルフィーユ"自体が目新しいので、ちょっと悩んでて」
「そうですね……こちらのレストランでは、視覚的要素も重要視されているように感じます。ですので一見して特別な見栄えは残されたほうが良いとは思うのですが……。この、薔薇のジャムをミルフィーユにかけてしまうのではなく、添える形にするのはいかがでしょうか。ケーキに合わせるでもよし、紅茶に混ぜるでも良しと、選択の幅が広がりますし」
「なるほど、それならミルフィーユ自体を味わいつつ、お客様の好みで変化をつけられますね。一度目はそのままで、二度目はジャムと共にって風に数度に渡る注文も見込めますし……。うん」
彼は目尻を緩め、人好きする爽やかな顔でにぱっと笑う。
「助かりました! その案、使わせていただいてもいいですか?」
「もちろんです。私こそ、素敵なデザートを味わわせていただき、ありがとうございました」
(こういうのを"人懐っこい"というのかしら。晴れやかな空気を作ることが上手な方ね)
それまで沈黙を保っていたマルガレット様が、どこか嬉し気にしながらフォークを皿に置く。
「気が合ったようで良かった。紹介しよう、リアナ嬢。彼が私の愛する甥、ルーベンス・ネラケリツだ。昨日、帰国してな。これから顔を合わせる機会が増えるだろうから、そのつもりでいてほしい」
「昨日ですか……!? それは、お疲れのところありがとうございました。マルガレット様にお世話になっております、リアナ・クレコと申します」
「気軽にルーベンスと呼んでください。叔母様から事前に手紙は受け取っていたのですが、話しやすい方で安心しました。叔母様が気に入るのも納得です」
ルーベンス様がちらりとマルガレット様を見遣ると、二人して笑みを深めた。
なんだか言葉なしに意図を示し合わせたように見える。
それから再び私へと視線を向け、右手を差し出した。
「僕も"キリコグラス"の事業を、お手伝いさせていただきます。ぜひ、仲良くしてください」
(昨夜は本当に、刺激的だったわ)
いつもよりも早く目覚めてしまったのは、その興奮の余韻が残っているからかしら。
カーテンを開き、窓を少し開ける。朝の心地よい香りが冷えた空気と共に忍び込んで来て、その清々しさから伸びをする。
マルガレット様のレストランでルーベンス様との対面を果たした後、そのままルーベンス様も同席し、三人でデザートを堪能した。
その時に伺ったケルシュバイン帝国の話は、本当に興味深くて……ついついあれこれと尋ねてしまう私にも、ルーベンス様は嫌な顔ひとつせずに教えてくれた。
(ルーベンス様が優しい方で良かったわ)
ううん、優しいだけではない。
溌溂とした爽やかさと、自信のある振る舞い。
頼りある雰囲気も相まって、もしかしたら私よりも年上なのかもしれないと思い始めていたら、実際は三つ下の二十一歳だった。
ケルシュバイン帝国には二年いたというから、十九の時には一人で他国に渡っていたということになる。
(凄いわ。私なんて首都に来ただけなうえに、生活のほとんどを侯爵邸の方々に手助けしてもらっていながら、あんなに思い詰めてしまったのに)
ともかく、これからはルーベンス様と一緒になることも増えると聞いたから、彼から学べることは学ぼう。
私も事業を始めると決めたのだから、頑張らなきゃ。
「――失礼いたします、リアナお嬢様」
控えめなノックの後に入室してきたのは、毎朝の支度を手伝ってくれているメイドの一人。
目覚めの紅茶と洗面用のお湯が乗せられたワゴンも、私の「おはよう」もいつも通り。
なのに、いつもならば笑んでくれる彼女は、緊張に強張った面持ちで「お嬢様」と切り出した。
「フレデリック様が、ご朝食をご一緒にしたいと申し出ております」
「フレデリック様が? なら、急いで支度をしなければいけないわね」
長期任務から帰ったばかりだから、報告や事後処理でお忙しいはずだもの。
それでもこうしてわざわざ時間をとってくれたということは、よほど重要な話があるに違いないわ。
("剣姫選定の儀"のことかしら? 昨日は簡単な報告だけで、家を出てしまったものね)
着替えなければと窓を閉めた刹那、メイドはぱっと顔を輝かせ、
「ご朝食に出てくださるのですね……! お任せください、リアナお嬢様。私達が完璧に! 手早く! お支度をさせていただきます!」
「私達……?」
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