美食だけではないレストラン
華やかながら常よりも端正な印象のドレスに身を包み座するマルガレット様が、嬉々として口角を吊り上げ悠然と右腕を広げる。
「どうだ? リアナ嬢。気に入ったか?」
私は「勿論です」と即座に頷き、
「本当に、なんとお礼を申し上げればよいか……。私の知る全ての感謝の言葉を羅列しても足りないほどです……!」
革新的な"キリコグラス"の完成を祝しマルガレット様が連れてきてくれたのは、首都でも特にご令嬢やご婦人方に人気のレストラン。
デートはもちろん、特別な日の食事を楽しむ人々で満席となっている店内で、独立した個室を悠々と使い料理を堪能出来ているのは、このレストランのオーナーがマルガレット様だから。
(この店での食事はとにかく"特別"なんだとご令嬢達が熱弁していた理由が、よくわかるわ)
煌びやかな宝石箱のようだったマルガレット様の商店とはまた異なり、レストランの店内は色調が抑えられていて、調度品も優美で上品な印象のもので揃えられている。
だからこそ、なのかしら。一皿ごとに創意工夫がなされた鮮やかな料理がよく映え、眼前に置かれたそれ自体が絵画のよう。
(さすがはマルガレット様が運営なさっているレストランだわ)
見た目の美しさは当然ながら、なんといってもお料理がどれも美味しい!
特にそれぞれのソースが格別なのだけれど、このレストランではケルシュバイン帝国の調理法を取り入れているのだとか。
その関係で、先日お話されていたお姉様の次男である甥の方は、二年前からケルシュバイン帝国に留学されているという。
(本当、私ってばこんなにも食べることが好きだったのね)
これまでケルシュバイン帝国に、これといった興味を抱いたことなどなかったのに。
マルガレット様が認めるほどの美食が味わえると知った途端、こんなにも行ってみたい気持ちが湧き出て来るだなんて。
焼き加減が抜群な牛肉も、残念ながら最後の一口。
お皿に残っているソースは、ぷちっと小さな球体型のマスタードと蜂蜜を合わせたものだと教えてもらった。
もちろん、細かな調味料は秘密。
名残惜しくもお肉にしっかりと乗せ、口内へ。
(う~~~~ん、酸味のあるマスタードの辛さが甘い蜂蜜と合わさって、しっかりとしたお肉の味がより引き立つわ!)
「……喜んでくれたのは、大変嬉しいのだが」
マルガレット様が、どこか探るような目で私を見る。
「リアナ嬢が首都に来て、二年が経つだろう? たったの一度もフレデリック卿と来たことがないとは驚いた。このレストランは、貴族の子息令嬢の間では定番のデート場所になっているからな。二人はどこの店をひいきにしているんだ?」
「いえ、特にそういったお店があるわけでは……」
「だが、外出をすれば食事だってするだろう?」
("普通"は、そうでしょうけれど……)
「この二年間、フレデリック様と私的な外出をすることはほとんどありませんでした。おそらく、片手で足りる程度でして……最後にデートと呼べるような外出をしたのも、随分と前になります」
「な……っ!? "婚約者"であるリアナ嬢とのデートが、片手で足りる程度だと? だが、ゼシカ嬢とはあれほど……っ!」
途端、はっとしたようにしてマルガレット様が口を噤んだ。
私に配慮してくれたのだろう。しまった、という顔をしている。
私は「もう、割り切っていますので」と笑んで、ワイングラスを手にとった。
言葉通り、今の私にはちっとも深刻ではないから。
あのガラス工房で作られた薄い飲み口のグラスに唇をつけ、料理の余韻と共に楽しむ。
うん、美味しい。
(このレストラン専用のデザインなのよね。店の雰囲気によく合うわ)
はじめは、簡単には手に入らない憧れの品が使えるという高揚感が、レストランの集客に一役買っているのかと思ったけれど。
こうして実際に使ってみると、このグラスの良さを直接的に実感するだけではなく、"憧れ"がぐっと身近になってますます欲しくなる。
さらにはこのお店は特別な日に利用する方が多いから、この"特別"なグラスに素敵な思い出を紐づけることもあるだろうし……。
(これも、ワイングラスを売るための"策"なのだわ)
マルガレット様のワイングラスが一過性の流行で終わることなく、今でも人気を維持しているのは、こうした場があるからなのね。
「二人の目撃談が妙に少ないとは思っていたが、人目から守っているのだとばっかり……。いくら同じ屋敷に住んでいるとはいえ、二年だぞ? 片手とはあまりにも……いや、割り切ったというのなら、私にとっても好機か」
「あの、マルガレット様」
なにやら深刻な表情でぶつぶつと呟いていたマルガレット様は、私の呼びかけに顔を跳ね上げ、
「あ、ああ、どうかしたか?」
「私の"キリコグラス"も、こちらのレストランで使用していただけませんでしょうか。一時的な"流行"で終わらせないためには、常に他者の目に触れ続けることが重要だとよくわかりました」
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