美しきものへ感謝と敬意を込めて
「これだけ社交界を賑わせているのだから、当然だろう。それに、このままだと一年後には"ベスティ侯爵夫人"だ。ましてやあのフレデリック卿の奥方になるというのに、一度も"剣姫選定の儀"に選ばれずでは、今後の社交界でも何かと面倒が起こるだろうからな」
「あ……」
("剣姫選定の儀"にすら選ばれなかったのに、と陰口がたたないよう、気を使ってくださったのね)
確かに、フレデリック様が婚約の破棄を望み私が了承したとて、フレデリック様のお父様が認めてくださらなければ不可能なのが難しいところ。
その時は納得いただけるまで説明をするつもりだけれど、表向きは一度"ベスティ侯爵夫人"となってしまうかもしれない。
(事情はどうであれ、そうなってしまったら"ベスティ侯爵夫人"としての役割をおろそかにするわけにはいかないものね)
仮初とはいえ、社交の場に出ないわけにもいかない。そうすればゼシカ様とも顔を合わせることになるし、周囲は間違いなく彼女に同情的だろう。
マルガレット様は、そうした可能性も考慮してくださったのだ。
「ありがとうございます、マルガレット様」
「礼は不要だ。なぜなら当然、商機という側面でも、非常に重要な役目となるからな」
話題性だ、と。
マルガレット様は、にいと口角を吊り上げる。
「リアナ嬢とゼシカ嬢が選出者となったことで、"噂"好きの貴族たちはこぞって話題にするはずだ。おそらく騎士として選出されるであろうフレデリック卿が、どちらに剣を捧げるかとな。当日も、これまで以上の注目が集まるに違いない。そして、フレデリック卿の"選択"によって更なる熱が増したところで、夕刻から王城で執り行われるパーティーが始まる」
(あ……確か、そのパーティーを取り仕切っているのは、マルガレット様だったはず)
私は過った可能性に口を開く。
「パーティーで、あのグラスを披露するのですね……! 私への注目を利用して!」
「その通りだ! リアナ嬢には少々酷かもしれないが、そなたの"話題性"は大きな武器だ。あのグラスは本当に素晴らしい。強制的に興味を持たせてしまえば、間違いなくその虜になる者で殺到するはずだ」
生き生きと語るマルガレット様は、眩いほどに美しい。
それに、苦労の賜物であろう知識も、こうも惜しみなく授けてくださるなんて。なんて懐の広い方なのかしら。
(私も、マルガレット様のようになれるかしら)
はっきりと感じた憧れに、胸がドキドキと高鳴る。
絶対に、成功させたい。そのためならば、どんな"噂"がたとうと怖くない。
「ありがとうございます、マルガレット様。建国祭は、可能な限り着飾って参加させていただきます」
「良い心がけだ。ときに、グラスの販売はどのような方法で行う予定なのだ?」
「購入を希望される方にお声がけいただいて、私が直接お渡しさせていただこうかと……」
「それでは寝る間もなくなるぞ。リアナ嬢さえよければ、私の商店に置いてはどうだ?」
「マルガレット様のお店にですか……!?」
あらゆる女性の憧れであるマルガレット様の商店に置かれることは、一級品の証。
それに、私も一度アシェル様とエステラ様に連れていってもらったことがあるけれど、あのお店はまさに"宝石箱"そのものだった。
大きすぎない店内に品よく並んだ、ドレスやジュエリーといった服飾品に、香水やガラス製品。
その一つ一つが輝いていて、見ているだけでもどれだけ心躍ったか。
あの時は、可憐な刺繍がされたハンカチだけを買って帰ったものだけれど。
(誰もが魅了される特別な空間に、並べてもらえるだなんて)
「本当に、夢のようで……。ぜひ、お願い致します」
感動に滲んだ目尻を指先で拭う。
マルガレット様は「喜び泣くには、気が早いな」と私の頭を撫で、
「出資をする以上、私も損をするわけにはいかないからな。最初こそ策を与えるが、あのグラスの販売権はあくまでリアナ嬢のものだ。そなたが主導していくのだぞ」
「はい、必ず成功させてみせます……!」
「リアナ嬢なら出来るはずだ。楽しみだな」
さて、と。
マルガレット様は手を打って、
「やる事も山積みだが、まずは無事にグラスが完成したお祝いをしなければ。それと、同じガラス工房の作品とはいえ、このグラスはリアナ嬢が手掛けたのだと明確になるよう、特別な名があったほうが良いと思うのだが」
「あ、それなら」
ここはあの居酒屋のある世界とは、異なる場所。
新たな呼び名に変えてしまうことも、可能だけれど。
こんなにも美しいグラスを生み出してくれた先人たちと、技術を継承し、守り続けてくださる職人の方たちに心からの敬意を込めて。
「"キリコグラス"、とお呼びください」
ここまでお付き合いくださり、ありがとうございます!
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