意地が悪かったはずのゲーム
幼少期より"美しいモノ"が大好きだったマルガレット様は、理解のあるご両親とお姉様に温かく見守られ、その性分を隠すことなく様々な"美しいモノ"に囲まれ成長をした。
すると、婚約の話題が出始める歳頃には、"金のかかりそうな、結婚相手には向かない女"としてすっかり定着してしまっていたそう。
声をかけてくるのは何十も年の離れた方からの後妻の打診と、愛人の提案ばかり。
いっそ結婚は諦め、領地にこもるか他国に渡るか。
あれだけ好きだったパーティーにうんざりし、足が遠のきがちになっていた頃、今の夫であるオリオル公爵とのお茶の場が設けられた。
マルガレット様を心配した姉と、その婚約者が整えた場だった。
「オリオル公爵はパーティー好きの私でも、ほとんど目にしたことがない人でな。分かっていたのは歳は五つほど上で、社交の場にはほとんど現れないこと。見目は整っていて、無邪気に話しかけてくるご令嬢に笑顔で応対していたものの、その目はひどく退屈しているように見えたのが印象的だった程度だ」
腹の内の見えない、どちらかというと苦手な紳士。
とはいえ、もはや贅沢を言える立場ではない。
後妻や愛人は絶対に御免だ。彼が私を"娶ってやってもいい"と言うのなら、頷いてしまおうと心を決めてお茶会に挑んだ。
ところが彼はにっこりと笑んで、「"ゲーム"をしよう」と言ってきた。
場所の提供と初期投資をするから、商店をやってみないか。
六ヶ月で客足の絶えない有名店にできたら、結婚しよう。
「六ヶ月で有名店を……!?」
思わず声をあげた私に、マルガレット様は「酷い条件だろう?」と肩を竦める。
「おまけにその無謀ともいえる"ゲーム"に勝った対価が、結婚だ。初めから私との結婚などお断りだと言われるよりも、よっぽど頭にきたさ。だから、承諾した。お望み通り有名店にしてやってから、性悪な貴様との結婚などごめんだと一喝してやろうと思ってな」
そうしてマルガレット様はオリオル公爵の"初期投資"を一切の罪悪感なく使い、妥協なくドレスやジュエリーを買い付けた。
これまでありとあらゆる美しいモノを見て来たぶん、目利きには自信があった。
様々なパーティーを渡り歩き得た、"貴族女性"の好む知識も発揮し、"自分だけの宝石箱"をコンセプトに商店に自ら並べていく。
それ一枚で目を引く主役級のドレスから、小物で印象が変えられるもの。
ジュエリーは日常を特別な気分にしてくれるものや、パーティーで重宝する、イヤリングとネックレスのセットも。
夜会用、日中のお茶会用、街歩き用。
用途に合わせ、帽子やハンカチも変わってくるのが"令嬢"というもの。
仕立て屋にオーダーしなくとも、ジュエリーショップで悩まずとも、この店にくれば質が良い流行の品が全身揃えて購入できる。
マルガレット様は、そんな店を作ろうとした。
「結婚相手探しを始めてからは、出来るだけ"男性が好むような"ドレスと控えめな装飾をしていたのだがな。商店を仕掛けるにあたって全て止めた。代わりに店の品々で自身を飾り立て、パーティーやお茶会はもちろん、"見せびらかす"ためだけに王都を歩いたりもした」
もとよりそのセンスの良さから社交界で注目の的だったマルガレット様の商店は、最初こそ"話題性"による来店客が多かったものの、あっという間に商品の補充が追い付かなくなるほどの人気店となった。
次第に客だけではなく、ぜひうちの品を買い付けてほしいという商人や職人からの売り込みも増え、商店に置く種類も増えていった。
忙しくも充実した毎日。すると、あっという間に約束の六ヶ月が経ってしまった。
「たった六ヶ月だというのに、店もその日々も、とてつもなく愛おしくなってしまっていた。だから、ひどく悩んだものだ。"結婚"を断れば、あの店も取り上げられてしまうだろうからな。かといって、店を続けるためにとあの腹の立つ男と結婚したなら、"公爵夫人"だ。公爵家のために尽すべき立場の人間が商店など、許されるはずがない」
どちらを選ぼうとも、店は手放すことになる。
消沈しながら久しぶりに顔を合わせたオリオル公爵は、宥めるように笑みこう告げた。
『無理やり結婚などする必要もないと、よくわかっただろう?』
婚姻などに拘らずとも、マルガレットならその手腕と才でじゅうぶん金を稼げる。
かといって金の亡者でもないから、人望も厚い。
その商店はそのままあげよう。
家を出たいというだけなら、実家の支援とこれまでの利益で新たな"家"を買うことだって出来るはずだ。
キミは"美しいモノ"が好きなだけで浪費家でもないし、露店のパンを食べ、無防備にも店のソファーで眠ることすら出来る。
マルガレット。キミの美しさはその外見だけではない。
自分で道を切り開いていける強さを兼ねたその精神こそが、何よりも尊い美しさだ。
それを、忘れないでほしい。
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