表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約者の騎士様に放置されたので異世界で日本酒を楽しみます~本当に好きなお相手とどうぞお幸せに~  作者: 千早 朔


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

43/57

夫人との取引

 興奮気味に叫ぶ工房長が、馬車から降り立った私とマルガレット様のそれぞれに一つずつグラスを受け渡してくれる。


(これが……!)


 柄は細くワイングラスに近しい形をしているそれは、ボウルの部分が、透明なガラスに深紅のガラスを重ねた意匠になっている。

 細かく刻まれた直線的な彫りの下から透明な部分が覗くのは、あの"キリコグラス"の特徴と同じ。

 この工房が得意とする上品な佇まいながら、なんとも印象的で存在感のあるグラスに仕上がっている。


(目が離せないわ)


 最初に話をしに行った際、"キリコグラス"を見た工房長はその彫りを絶賛しつつも、そっくりそのまま再現することは出来ないと断言していた。

 この国で、これほどの彫りをガラスに刻める職人は、いないだろうと。けれど。


 グラスを動かすたびにキラキラと陽の光を反射する様は、まるで宝石のよう。

 落ちた影すらも二色で構成された彫りが透けて、幻想的な木漏れ日のごとく美しい。


「本当に素晴らしいです……! こんなにも美しいグラスを生み出してくださるなんて、工房長は間違いなく天才です!」


「そうでしょう、そうでしょう! ですがね、やっぱり職人としては、悔しさも拭えないってもんですな。お嬢様がお持ちになったグラスの域に到達するにためには、もっと年月をかけた鍛錬が必要なようです。いやあ……これほどまでに高い彫りの技術を持つガラス職人がいるとは……俺もまだまだ成長の余地があるということですな」


 眉根を寄せながらグラスを睨んでブツブツと呟く工房長の顔は、本当に悔しそう。


(こうした職人さんの情熱のおかげで、私たちはあらゆる最上の品を手にすることが出来ているのね)


 本当にありがとうございます、工房長。

 そう低頭した私に、工房長ははっとしたようにして、


「いやはや、なにはともあれ、喜んでもらえるのが一番ですな。とはいえ! 時間がかかっても必ずやあのグラスを越えてみせますぞ! でないと己が納得できませんからな! よろしいでしょう、マルガレット様!」


 まさしく炎の宿る勢いで工房長が叫ぶと、それまでグラスを頭上に掲げてうっとりと眺めていたマルガレット様が「その前に」と瞳を光らせ私を見る。


「リアナ嬢、はっきりさせておきたいのだが、このグラスはこれきりではなく、量産化してビジネスをする計画なのだろう?」


「は、はい! 月の製造数は少数で構いませんので、マルガレット様のお力を借りれないかご相談をさせていただくつもりでした」


「それでは駄目だ、リアナ嬢」


 マルガレット様はグラスを指先で撫でつつも、カッと両目を見開く。


「"ご相談"ではなく"交渉"! 好条件はもぎ取れるだけ取る!」


「はいっ!」


「工房長、このグラスを製造できるのは貴殿だけか?」


「弟子も日々鍛錬を重ねておりますから、少し練習させれば戦力になれるはずですぞ。難しい箇所は、俺ともう二人ほどかと」


「よろしい。ならば、予定されている通常の製造は作業を止めて構わない。この新たなグラスを最優先として、一か月後の建国祭までに可能なだけ量産してほしいのだが、頼めるか」


「妙なことをおっしゃいますな。我々がマルガレット様の意向に反するはずもないと、よくご存じでしょうに。お任せください! 我々が魂を込めたこの新たなグラスで、建国祭のダンスホールをお二人の宝石箱にしてみせましょうぞ!」


 そうと決まればさっそく取りかからせていただきます!

 そう、飛び跳ねる勢いで工房へ戻ろうとした工房長の後から、マルガレット様の従者が小箱を抱えてついていく。

 彼らは私とマルガレット様が乗っていた馬車の後ろに並んだ、もう一台の馬車に乗っていたのだけれど、パンや果物、卵といった様々な食材を運んできている。


 マルガレット様の話では、ガラス工房の職人たちはのめり込むと食事を面倒くさがるので、こうして時折新鮮な食材を差し入れているそう。

 すると職人たちは、マルガレット様から頂いた食材を腐らせるわけにはいかないと、ちゃんと食べるのだとか。


「さて、リアナ嬢。私と取引をしよう」


「取引……ですか?」


 戸惑う私に、マルガレット様は「ああ」と頷き、


「このガラスグラスを事業として継続していくための資金は、ベスティ侯爵家から捻出する予定か?」


「はい。お恥ずかしながら、私用にと割り当てていたただいている予算がありますので、まずはそちらを使って製造をお願い……"交渉"させていただくつもりでした。売れたなら、その利益を再び製造にまわし、少しずつ規模を広げていけたらと」


「悪くない案だが、それでは弱い。私が投資しよう」


「……え?」


「ただし、条件がある。このグラスの製造は、私の工房だけに任せてほしい。それと、これまでの製品と並行しての作業となってしまうので、ひと月当たりの製造数は都度相談となる」

ここまでお付き合いくださり、ありがとうございます!

気に入りましたら、ブックマークや下部の☆→★にて応援頂けますと励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ