言葉にしないと伝わらない
ガタッ! とイスを揺らして片瀬さんが立ち上がる。
「本当に!? 間違いないのか!?」
「被害にあった同業者を教えるから、自分で確かめてみたらいい。……とはいえ、昔から"根回し"嫌いのお前が納得できるだけの情報を得られるかは、わからないけどな」
「なっ」
数度口を開閉して、片瀬さんは腰を下ろした。
山城さんの口振りは、とても嘘をついているように思えない。
片瀬さんも、真実だと判断したよう。
ままならない様子で頭を掻いて、
「だったらなんで……最初っから、そう言わなかったんだよ」
「亮も知っているだろ。俺の成績が落ちているのは事実だ。アイツは詐欺師だと説明したところで、信じたか? それこそ、俺が自分のために"横取り"しようとしているんだって考えるだろ。俺達は、ライバル会社にいるんだから」
「それは……」
「自分の中で結論付けたお前を説得するのは、難しい。だから俺が横取りを企んでいると思われてでも、あの男から手を引くよう言い続けるしかないと考えた。そうすれば、アイツが仕掛けてきた時に、少しでも疑いを持ってくれるんじゃないかと。……まあ、縁を切られるのは想定外だったけどな。まったく、"友人"を説得することも出来ないなんて、自分でも情けなくなる」
山城さんは紅茶の入るマグカップを掲げ、「酒じゃないから、酔ってないぞ」と茶化すようにして笑う。
途端、片瀬さんが、
「~~~~悪かった!!」
勢いよく下げた頭が、ゴンッと机を叩く。
片瀬さんはそれでもうめき声一つなく、
「俺は、俺はずぅーっとお前に嫉妬していたんだ! ライバル会社とはいえ、"花形"のお前となんとかしがみ付いているような俺じゃあ、雲泥の差がある! 友情だなんだと言って、お前自身を信用してなかったのは俺のほうだ!! 本当に……本当に、すまん!!」
「亮が謝ることじゃない。そう思われていると知っていながら、ろくに話し合おうともしなかったのは俺だ」
「それこそ俺だって同じだ! こんな自分勝手な俺を、"友人"だからって見捨てずにいてくれてたっていうのに……俺は、俺は! 友人を名乗る資格なんてねえ!!」
わんわん泣きだしてしまった片瀬さんが、腕で何度も目元を拭う。
私は「片瀬さん」とその肩に触れ、
「片瀬さんが"友情"を否定してしまっては、こうして山城さんが勇気を出して話してくださった意味がなくなってしまいます。山城さんは、片瀬さんと"友人"であり続けたいからこそ、これまでの想いを吐露してくださったのだと思いますよ」
「そうだ。なのにそれで"友人"ではいられないと言われては……俺の、告白し損じゃないか」
「栄治……俺を、許してくれんのか?」
「許すもなにも、俺は亮と縁を切りたいと考えたことなんて、一度もない」
「栄治……っ」
まさしく感動の和解に、様子を見守っていた周囲からも拍手が沸き立つ。
私も拍手をしながら、
「それでは、片瀬さん、山城さん。握手で仲直り、でどうでしょうか」
頷いた二人が、固い握手を交わす。
照れくさそうにしながらも満足げな二人は、私を見上げ、
「ありがとうな、ご令嬢さん。感情任せに、大事な友人を失うところだったよ」
「本当に助かりました。おかげで今後は、互いにもっと素直な言葉を伝えることができそうです」
向けられた晴れやかな笑顔に、安堵が胸中を占める。
(本当、誤解が解けて良かったわ)
互いを嫌っているわけでもないのに、誤解をきかっけにお別れだなんて、悲しいもの。
「仲直りが出来て本当に良かったです。また、お二人でご来店くださいね」
****
「いやー、今日はリアナさんに救われたよ……! 片瀬さんと山城さんのことも、私じゃあその場の喧嘩を止めるぐらいしか出来なかったから」
普段より早い時間に閉めた店内で、洗ったグラスを片付けながら三樹様が感心したように言う。
机を拭いていた私は少しくすぐったさを覚えながら、
「三樹様が私を信用して、任せてくださったおかげです。片瀬さんと山城さんも、今後は誤解ですれ違う機会が減るといいですね」
「そうだねえ。いくら近しい相手でも、言葉にしないと伝わらないままだものね」
何気ない言葉がなぜだか引っかかって、机を拭いていた手が止まる。
「ということで、リアナさん」
「は、はい。この後は何をお手伝いしたら――」
「これ、働いてもらった分です。本当にありがとうね」
「!」
差し出された茶封筒に、その中身を悟る。
私は慌てて「いえ!」と首を振り、
「受け取れません! 私から言いだしたことですし、お金をいただけるほどのお仕事は出来ていませんし……っ!」
「そんなことはないよ。リアナさんが手伝ってくれなかったら、今頃私はそこの床と一体化していたはずだよ。とまあ、カッコつけているけれども、こちらの基準で包んでいるから、リアナさんにとっては些細な金額だと思うんだ。それでも本当に感謝しているし、"ただ働き"をさせては、私も心苦しいから」
「それは……っ」
ね? お願いだから受け取って。
そうキラキラした瞳で小首を傾げる三樹様には、本当に魔法を使えないのか疑いたくなるほどの誘導効果がある。
(三樹様のお気持ちを無下にしないためにも、ここは受け取っておいたほうが……)
瞬間、はたと思い出した。
「あの、三樹様。それでしたら、報酬はお金ではないものでもよろしいですか?」
「うん? 何か欲しいモノがあるの?」
「いえ、相談に乗っていただきたいのです。やってみたい事があるのですが、三樹様の知恵をお貸りしたくて」
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