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婚約者の騎士様に放置されたので異世界で日本酒を楽しみます~本当に好きなお相手とどうぞお幸せに~  作者: 千早 朔


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社交界の高貴な薔薇に気に入られました

 た、大変なことになってしまったわ。


「頼む、リアナ嬢! この摩訶不思議な酒器を、私に譲ってはくれないか!」


 私の眼前で勢いよく頭を下げたのは、オリオル公爵夫人ことマルガレット様。

 細部まで拘られた唯一無二のドレスはもちろん、日ごとに結い方が変わる、薔薇の花弁を思わせる艶やかなピンクの髪。


 男女共に魅了する高貴な色香と、対して豪快な性格が人を惹きつけてやまないこの方から、社交界の流行が始まるといっても過言ではない。

 ご結婚前から現在まで、長らく社交界の頂点に君臨し続けているマルガレット様の新しいモノ好きは有名だけれど……けして、私などに頭を下げていい方ではない。


「いけません、マルガレット様! どうか頭をお上げください……!」


「だがどうしても、どうしてもこの酒器が欲しいのだ……!」


 どうやら"サカズキ"の噂を耳にしたらしいマルガレット様から、招待状が届いたのは先日のこと。


 ――"噂の酒器を見せてほしい"。


 お相手がお相手だけに断るわけにもいかず、"サカズキ"と共にオリオル公爵邸へ赴くと、どうやら招待されたのは私一人のよう。

 マルガレット様みずから丁重にもてなされ、頼まれるままに"サカズキ"を披露したところ……このような事態になってしまった。


「頼む! 金ならいくらでも出す! きちんと大事に扱うと約束する!!」


(よほどお気に召されたのね)


 社交界におけるマルガレット様自身の影響力はもちろん、夫であるオリオル公爵は、国政において多大なる発言力を持つお方。

 フレデリック様の婚約者として、更には後の"ベスティ侯爵夫人"としての対場を考えれば、"サカズキ"を献上してマルガレット様に気に入られておくべきだと理解は出来るのだけれど。


(この婚約がどうなるかもわからないし、私にとって大切なモノは、諦めたくはないわ)


「……申し訳ありません、マルガレット様」


 私は深く頭を下げる。


「これまでのお茶会でも話しておりますが、この"サカズキ"は私の大切な方々から贈られた品ですので、誰にもお譲りする意志はないのです。皆様にとっては物珍しい酒器でしかありませんが、私にとっては、たくさんの真心が込められた"絆の証"なのです」


 どうか、ご容赦くださいませ。

 そう告げ頭を下げ続けていると、肩に優しい手が触れた。

 マルガレット様のお手だ。


「頭を上げてくれ、リアナ嬢」


 おずおずと頭を上げると、マルガレット様はルビー色の瞳を優しく緩め、


「そういう話なら、諦めるしかないな。思い入れのある品を取り上げては、蛮族となんら変わらん」


「ご理解いただきありがとうございます、マルガレット様。お譲りすることは出来ませんが、この酒器をご覧になりたい時には、いつでも呼びつけてくださいませ。何度でも参上いたします」


「ああ、そうさせてもらおうか。それにしても……リアナ嬢。私は貴女を少々見くびっていたようだ。これほどまでに芯のある女性だったとはな。"あの"アシェル嬢とエステラ嬢が目をかけているのも納得だ」


 気に入った!

 マルガレット様はパンッ! と手を鳴らし、


「権力に媚びず、金にも揺るがず、真心を貫く貴女のなんたる美しいことか! 困り事があれば、なんでも頼ってくるがいい。そうだな、手始めに良さそうな男でも紹介しようか? 今の婚約を破棄した後の、新しい婚約相手を探していると聞いたが」


「! もう、広がってしまっているのですね」


「現状、特定の範囲の水面下で……といった段階だな。だがまあ、事が事だけに広まるのは早いだろう。近々、直接行動に移す者も出るだろうから、よく吟味するといい。面倒な輩がいたら、私に報告してくれ。美しいモノのためならば、"掃除"も厭わない主義でね」


 にこりと笑むマルガレット様は、それこそどんな花よりも美しい。

 本当に、眩いほどに素敵な方。


(こんな機会、きっともう二度とないもの。頼っていいとおっしゃってくれている間は、甘えさせていただこう)


 差し伸べられた手を信じ、掴む勇気も必要なのだと。

 たくさんの"友人"が、教えてくれたもの。


「心強いお言葉をありがとうございます、マルガレット様」


 会釈して、慈愛の滲む双眸を見つめる。


「今はまだ、フレデリック様の婚約者としての責務を果たしながら、これまでの御恩に報いたいと思います。ですがご存じの通り、社交活動にはほとほと疎く……。どうか、お力添えいただけますと幸いです」


 こうしてマルガレット様と私的な手紙のやり取りをする仲になり、慌ただしくも充実した日常に戻った、はずだったのだけれど。


(よくある一過性の話題で終わると思っていたのに……。やっぱり、マルガレット様の影響力は大きいわね)


 どうやらマルガレット様が"サカズキ"と私を気に入ってくださったという話が、想像以上に社交界に広まっているよう。

 これまで以上に、様々なお相手から丁寧な招待状が届いている。


 その中にはマルガレット様の"忠告"通り、男性からも。

 時には花まで添えてられているのだから、その意図がどこにあるのかわかりやすい。

ここまでお付き合いくださり、ありがとうございます!

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