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婚約者の騎士様に放置されたので異世界で日本酒を楽しみます~本当に好きなお相手とどうぞお幸せに~  作者: 千早 朔


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証拠にならない絵空事

 ざわりとしたどよめきに気を良くしたのか、ゼシカ様は得意げに笑みを深めると声高らかに、


「フレデリック様とのご婚約で実家への支援を求めるほど、困窮していらっしゃるのでしょう? 侯爵家の庇護を受けている間に財の立て直しをはかろうと必死になのは理解できますけれど、だからといって、このような密貿易に手を染めるだなんて……!」


「お待ちください、ゼシカ様。密貿易だなんて、私にはさっぱり――」


「図々しい! これほど証拠を披露して回っているにも関わらず、しらばっくれるつもり!? 社交界で注目を集め羨望を得てから、この奇妙なモノを秘密裏に売りさばく計画を企てているのでしょう?」


「いったい、何を……」


「違うというのなら、商人の名を明かしてはいかが? 出来ないのでしょう? 近頃ベスティ侯爵家と取引のあった商人を調べさせましたけれど、どれも妙な陶器など取り扱った形跡などありませんでしたもの。表に出来ないような相手から手に入れて来た証拠ですわ」


 ゼシカ様は「ふん」と腕を組み、"サカズキ"を見下ろすと、


「いったいどれだけ仕入れているのやら。秘密裏に買い集めた品を高額な値で売り付けて、得たお金をこっそりと実家に流そうだなんて、立派な密貿易ですわ!」


 ゼシカ様はなんとも満足げな様相で笑んでいるけれど、並べ立てられた叱責はどれも的外れなものばかり。

 どうしたものかと思考を巡らせながらご令嬢方の様子を伺うと、彼女たちからも衝撃よりも困惑が強く見て取れる。


(せっかく楽しんでいたというのに、申し訳ないことをしてしまったわ)


 私は「ゼシカ様」と歩を進め、その眼前に立つ。

 ゼシカ様は勝ち誇ったようにして、


「謝罪をする気になりましたの? ああ、でも。フレデリック様には言わないでほしいというお願いでしたら、残念だけれど――」


「大変恐縮なのですが、ゼシカ様は大きな勘違いをなさっているようです」


「……なんですって?」


「商人の名を明かしていないのは、その方が他国を拠点にしている、お爺様の"ご贔屓"だからです。次にいつ会えるともわからない方ですし、私の事情でご迷惑をおかけしてはならないと、名を伏せているのです。そしてこの陶器ですが、私の手元にはこの一つしかありません。大切な方に譲っていただいたものですので、手放すつもりはありませんわ。どれだけ望まれてもこの"サカズキ"を得ることは出来ないと、今回のお茶会に限らず、同席してくださった皆様にお伝えしてあります」


「なんですって?」


 ゼシカ様が勢いよくご令嬢方へと顔を向ける。

 と、彼女たちは肯定するようにして、おずおずと頷いた。

 怒りに燃えた眼が私に向く。


「売りさばくつもりもないのなら、どうしてあちこちのお茶会で自慢して回っているというのよ!?」


「今、ご自分で答えを口にされたじゃない」


 発したのはアシェル様。

 彼女は誰もが見惚れてしまうような優美な笑みを浮かべると、


「"自慢"のために披露してほしいと、私が頼みましたの。何も珍しいことではないでしょう? アナタだって、よく身に覚えがあるでしょうに」


「……っ!!」


 私は出来るだけ冷静に、


「もちろん、披露することでお金を頂戴したことなどありませんし、これからも同様です。ですのでご心配いただいているような”密貿易”には、あたらないかと」


「なっ……! わ、わかったわ! 売買が目的ではなく、これは"魔道具"なのね! "あの方"の収集癖は有名だもの。見た者を"魅了"する魔力が宿っていて、こうして少しずつ社交界を乗っ取る画策を――」


「良い加減になさい、ゼシカ嬢。見苦しくてよ」


「!!」


 パチ! と音を立て扇子を閉じたアシェル様が、笑みを消し瞳に怒りを露わにする。

 と、エステラ様が「ゼシカ嬢」と口を開き、


「空想の武勇伝を披露したいのでしたら、招かれてもいない他者のお茶会を乗っ取るのではなく、ご自分の邸でなされたほうがよろしいかと。どうぞ、お引き取りくださいませ。それと、"証拠"という言葉について、今一度学び直されるようお勧めいたしますわ」


「――っ!!」


 ゼシカ様が助けを求めるようにして周囲を見渡すも、ご令嬢方はゼシカ様に歩み寄るどころか、毅然とした眼差しを向けている。

 その光景が少々意外だったけれども、ゼシカ様の振る舞いを考えれば当然なのかもしれない。

 ゼシカ様も分が悪いと悟ったのか、


「そ、そもそも! 疑われるような行動をなさるべきではありませんわ! 今回は反逆行為がなかったと知れましたので、失礼させていただきますわ。……ああ、それと、もう一つ。重要な用事を忘れるところでしたわ」


 これをリアナ嬢に、お返ししなければ。

 そう言ってゼシカ様は、小さな装飾品を取り出した。

 私の眼前に掲げ、


「フレデリック様のカフスボタンですわ」


「フレデリック様の?」


 何やらざわめく周囲に、ゼシカ様がニヤリと口角を上げる。


「先日の晩、我が家にお越しでしたでしょう? "わたくしと二人きりのとき"に上着を脱がれたのだけれど……その、随分と性急に脱がれたせいか、落としていかれたの。お返しするのが遅くなってしまって、ごめんなさい?」


 きらりと光るそれは、よくよく見れば確かに見たことがある……ような気がする。


(こんな大勢の前で言うのだから、きっとフレデリック様のもので間違いないのね)


 けれど、どうしてわざわざ私に?

 二人の仲なら、直接渡したほうが早いと思うのだけれど。

 不思議に思いながらも、私はにこりと笑み、


「そうでしたか。ご面倒をおかけして、申し訳ありません。フレデリック様にお渡ししておきます」


 ありがとうございます、と感謝を込めて受け取ると、なぜかゼシカ様は笑みを苦々しいものに変え、


「それと、あの夜はとても楽しかったと伝えてくださるかしら……っ!」


(あ、もしかして、フレデリック様が長期任務に出られていることをご存じないとか?)

ここまでお付き合いくださり、ありがとうございます!

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