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婚約者の騎士様に放置されたので異世界で日本酒を楽しみます~本当に好きなお相手とどうぞお幸せに~  作者: 千早 朔


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招かれざるご令嬢の来訪

 そうして体調を気にかけながらも、丁重に招待されたお茶会で"サカズキ"を披露する日々を送っていた。


(正直なところ、少しでも好転すればくらいの気持ちでいたのだけれど)


「リアナ嬢、こちらにおかけになってくださいませ。ドレスの相談に乗ってくださいませんか? わたくしもリアナ嬢のように、もっと軽やかで動きやすいデザインを仕立てたいのです……!」


「リアナ嬢は、お菓子はお好きですか? 我が家の料理人が作るお菓子は見目こそ素朴ですが、優しい甘さで小さい頃からの好物ですの。よろしければ、ご招待させてくださいませ」


「リアナ様! 今度はリアナ様がお好きな、ピクニックに行くのはどうですか? 美しい湖を知っていますの! あまり大きな声では言えませんが、湖畔の野原で寝ころぶととっても気持ちがいいんですのよ」


 まさか、こんなに多くのご令嬢と笑顔で話せる日がくるなんて。


(お茶会でもほとんど話さずに帰ってきていた日々が、嘘のようだわ)


 私はご令嬢方の輪から抜け、他のご令嬢との歓談を終えたアシェル様とエステラ様の元へ向かう。

 休息用とされているテーブルに三人で腰かけ、お紅茶をもらうと、アシェル様は扇子の先を口元に添え、「ほら、言った通りでしょう?」と双眸を綺麗に細めた。


「リアナ嬢ならちょっとしたきっかけさえあれば、すぐに社交界の新しい"華"になれると思ったわ。壁の花ではなくてね」


「お疲れではありませんか? 今のリアナ嬢は選ぶ側ですし、全てに応じ続ける必要はありませんわ」


「本当に……何から何まで面倒を見ていただき、ありがとうございます。アシェル様、エステラ様」


「あら、お礼を言いたいのはこちらだわ。おかげで耳障りな"噂"も、随分となりを潜めたもの。……それに」


 アシェル様はご令嬢方を見つめる瞳を、ふと優しく緩める。


「私では、こんなにも穏やかな時間の流れるお茶会は作れなかったのよ。ご令嬢達が、これまでならば安易に口に出来なかったような"ささいな"会話を楽し気に話せるようになったのは、他の誰でもない、リアナ嬢が中心となってくれたからだわ」


「そんな、私はそんな立派なことなど……」


「わたくしも、アシェル様のご意見に同意ですわ。リアナ嬢が他者をよく気にかけ、どんな些細な話でも耳を傾けてくださる真摯な優しさを持ち合わせていたからこそ、ご令嬢方は臆することなく、胸の内を言葉に出来るのですもの」


「そう! それに、美しく上品な所作も、威圧感がなくて良いわ」


「おまけに愛らしさと強さを兼ね備えていて……。ふふ、お友達が増えるのは素敵なことですけれど、わたくし達の愛情も忘れないでくださいましね」


「忘れるなど、あり得ません! それに、お優しいのはエステラ様とアシェル様です。何も持ち合わせていなかった私に目をかけてくださり、こうしてきっかけを下さったからこそ、お茶会を楽しいと思えるようになれたのです……!」


 感謝がうまく言葉に出来なくて、もどかしい。

 けれどもお二人は、わかっていると示すようにして微笑み、


「本当、あの顔ばかりの甲斐性無しに任せるには勿体ない子ね」


「わたくし達は何が起きようと、リアナ嬢の味方ですわ」


 頭を撫でる優しい指先を、くすぐったいような心地で受け入れていた、その時。


「――ごきげんよう、皆様」


「!?」


 この場にいるはずのない知った声に、跳ねるようにして顔を向ける。と、


「素敵なお茶会をお過ごしのようですわね?」


(ゼシカ様……!?)


 今回のお茶会も、招待客のリストは事前に目を通させてもらった。

 ゼシカ様は招かれていない。

 見ればご令嬢方は誰もが困惑と驚愕を露わにしているし、主催のご令嬢なんて、遠目でもわかるほどに青ざめている。


 周囲のざわめきをものともせず、私を見つけ口角を上げたゼシカ様は、きょろきょろと周囲を見渡した。

 それから「ああ」と笑みを深め、歩を進めていく。


 向かった先は――自由に観察できるようにと水を注ぎ置いていた、"サカズキ"の乗るテーブル。

 ゼシカ様は一歩を引いたご令嬢方を一瞥もせず、"サカズキ"を覗き込み、


「近頃、奇妙な品を披露して回っていると耳にしていましたけど、本当でしたのね。リアナ嬢は実のところ、旅芸人にでも憧れを抱いているのかしら?」


(もしかして、目的は"サカズキ"?)


 嘲笑交じりに鼻を鳴らすゼシカ様に、ご令嬢方は怯えたように息をのむばかり。


(これでは皆に迷惑をかけてしまうわ)


 急ぎ立ち上がり口を開いた、刹那。

 アシェル様がバッと扇子を開き、優美に立ち上がる。


「ごきげんよう、ゼシカ嬢。招待状もなく参加なさるだなんて、不躾ですこと。ご立派なお父上から、礼儀作法は教わらなかったのかしら?」


(アシェル様、すっごく怒っていらっしゃる……!)


 すると、エステラ様も優美な笑みのまま「お可哀そうに」と口元に手を添え、


「ご自分はなかなか招待されず、話題の酒器を目に出来ないからと、我慢が効かなくなってしまわれたのですわね。だからと思いのままに振舞っては、駄々をこねる幼子よりも横暴ではありませんでしょうか」


(エステラ様も、とっても怒っていらっしゃる!!)


 明らかに温度の下がった空気にも、ゼシカ様は鋭い微笑みを携えたまま。

 私に向けた目を吊り上げると肩をすくめ、


「エステラ様のおっしゃる通り、奇妙なソレをこの目で確かめるために来ましたの。とはいえ、個人的な興味などが起因ではありませんわ。わたくしは、親愛なる友人たちがとんでもない犯罪行為に巻き込まれてはいけないと、救いに来たのですもの」


「犯罪行為、ですって?」


「ええ。密貿易は、立派な国家反逆罪ですわ」


(密貿易……!?)

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