魔法のようなお茶会
「え!? ……ですが、この酒器は気に入ってもらっても、購入は」
「いいえ、これは明確に"自慢"が目的よ。社交界では、奇特な"自慢"は強力な手札になるの。……今の社交界はすっかりつまらなくなってしまったし、リアナ嬢にとっても雑音が多すぎるわ。私達と一緒に、戦ってくれない? 社交界を変えるの」
「社交界を、変える……?」
呆然と呟く私の手に、エステラ様がそっと指先を重ね、
「リアナ嬢がこのままで、と感じるのでしたら、遠慮せずにお断りくださいな。こんな些事で、わたくし達の友情が壊れることなどありませんもの。けれども、もし。挑んでみたいと心が疼くようでしたら、わたくし達に力を貸してくださると光栄ですわ」
「エステラ様……」
(私なんかに、変えられるのかしら)
ごくりと喉が鳴る。
ちらりと視線を上げると、優美な微笑みを携え私の返事を待ってくれている、心強い"友人"が二人。
――大きな変化を望んでいるわけではない。
ただ、ほんの少しだけ。
人目に気を張り、飛び交う"噂"に耐えながら過ごす重苦しい場所を、お二人と一緒に、楽しめるようになれたら。
私は決意にぐっと顔を上げ、
「――ぜひ、ご協力をさせてください」
そうしてアシェル様が主体となり、エステラ様にも支えてもらいながら、運命のお茶会に向け慌ただしい日々を過ごしてのだけれど。
――今なら、あの時アシェル様が言っていた"自慢は強力な手札"という意味が、よく分かる。
「失礼いたします、リアナお嬢様。お手紙が届いております」
書斎の扉を開いたノイマンが、銀製のトレーを差し出す。
"手紙"と称された封筒は、複数枚乗っている。
全て受け取り、差出人を確認した私は、予想通りの結果に苦笑を零す。
「それこそまるで、"魔法"を使ったような気分ね」
アシェル様とエステラ様に協力してもらったお茶会は、一言でいえば大成功だった。
招いたのは、アシェル様とエステラ様が選抜された、"私"に友好的な印象を抱いているご令嬢方。
そのおかげか、会場はこれまでの緊張感の漂うお茶会とは少々異なる、穏やかさが満ちていた。
そんな最中、私が桜の咲く"サカズキ"を披露すると、ご令嬢方の興奮は最高潮に。
残念ながら同じモノを手に入れることは難しいと告げると、ならばぜひ自分の主催するお茶会に招待するので、そこで披露してはもらえないかと問われた。
(これも首都の"社交"の一環なのね)
そう思い了承を返したところ、あのお茶会に出席していたご令嬢方から次々とお茶会のお誘いが届くようになった。
アシェル様とエステラ様に力を貸してもらい、参加を決めたお茶会の招待客を確認しつつ、主催者のご令嬢と調整を重ねる。
一つに出席し、"サカズキ"を披露すると、また招待状が増える。
ありがたい状況なのだけれど、とにかく忙しい。
(居酒屋にも、しばらく行けていないわ)
ふう、と小さく息を零すと、ノイマンが眉根を寄せ、
「お嬢様。少し、お休みになられてはいかがでしょう。坊ちゃまも、お嬢様が無理をなさらないか心配しておいででした」
「フレデリック様が?」
「はい。お嬢様のご体調には特に気を配るよう、申しつかっております」
(あ、そうよね。フレデリック様が不在の時に私が倒れでもしたら、侯爵邸の使用人が悪く言われてしまうものね)
近頃なんだか様子が異なっていたフレデリック様は、突然の遠征任務が入り、家を空けている。
貿易港に到着する他国からの商船を狙った盗賊が頻発しているそうで、その討伐任務だとか。
急ぎ出立を伝えにきたフレデリック様に会えたので、見送りも兼ねて怪我のないよう祈っていると伝えると、彼は何度も頷き「約束します」と言ってくれた。
けれど。
(お茶会で小耳に挟んだけれど、渦中の盗賊はかなり荒々しい一派のようね)
彼らを捕らえるにも、戦闘は避けられないだろう。
いくら特別な愛情を持った相手ではないとはいえ、心配が募る。
忙しい日々をこなしながらも、時折フレデリック様の無事を祈る日々が続いていた先日、彼から手紙が届いた。
彼が任務中に手紙を送ってくるなんて、珍しい。
(まさか、大怪我を?)
嫌な予感に急ぎ中を確かめると、任務が難航していてまだしばらくは戻れないという報告と、約束通り、怪我はしていないと記されていた。
ただでさえ手紙など、珍しいのに。
私との"約束"まで、覚えていてくれたなんて。
私は急ぎ手紙の返事を書き、頭痛を鎮静化する作用がある薬瓶と一緒に送った。
怪我はなくとも、体調が優れないのかもしれないから。特に頭の。
(役に立っていればいいけれど)
ともかく、フレデリック様の頭痛をこれ以上悪化させてはいけないし、使用人の皆に悪評がたつのも申し訳がない。
私は心配げなノイマンに「わかりました」と笑みを向け、
「ご迷惑をおかけしないように、よく気を付けます」
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