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婚約者の騎士様に放置されたので異世界で日本酒を楽しみます~本当に好きなお相手とどうぞお幸せに~  作者: 千早 朔


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優しく頼もしい二人のご令嬢

「先ほどの殿方って、フレデリック様よね? 帰してしまってよかったの?」


「あのご様子、急ぎの用事だったのではありませんか? 騎士団の制服をお召しでしたし。わたくし達でしたら、日を改めても……」


 ガゼポで私を迎え入れてくれたアシェル様とエステラ様が、心配気な様子で訊ねてくる。

 優しく頼りあるこのお二人が私の"友人"でいてくれるだなんて、正直なところ、今でも信じられない。


 バレンティン侯爵家がアシェル様は、幼い頃より幾度もお茶会の主催を務めていらっしゃるほどの、社交界における有力者。

 首都に拠点を置く貴族ならば、アシェル様を知らない人はいないはず。


 レクト伯爵家がエステラ様は、伯爵家といえどもその資産は国政に多大なる影響力を持つと言われているほど。

 彼女も一目置かれるご令嬢のひとり。


 そんなお二人と出会ったのは、首都の社交活動に参加をするようになってからすぐの、お茶会の席だった。

 フレデリック様の婚約者という重大な立場かつ、嫌でも耳に届くゼシカ嬢との噂。

 ベスティ侯爵家で必死に覚えたマナーだって、幼い頃から訓練と実践を積み重ね続けた首都の貴族の目にはさぞ滑稽だったに違いない。


 頼れる人もなく、周囲から注がれる品定めをするような好奇の眼差しに耐えながら、脚の震えを祈る心地で誤魔化していた、あの日。

 寄り添ってくれたのが、アシェル様とエステラ様だった。


『ごきげんよう、リアナ嬢。今の社交界で一番に注目を集める方にご挨拶ができて、本当に嬉しいわ。それにしても……ベスティ侯爵家も、非情なものね。こんな小鹿ちゃんを一人で狩場に放り込むなんて。それとも、その噛みしめてばかりのお口には、獰猛な牙を隠しているのかしら?』


『あちらで一緒にお紅茶をいただきましょう。ふふ、安心してくださいな。わたくし達、可愛らしい方を放っておけない性格ですの』


 それからお二人は首都の暗黙のマナーを教えてくれたり、社交界での人間模様もこっそりと耳打ちしてくれたり。

 当然、私の出席した全ての会場にお二人がいたわけではないけれど、この二年、フレデリック様がいなくともなんとか続けてこれたのは、アシェル様とエステラ様が手助けしてくれたから。

 だから私は、迷わず「平気です」と答える。


「一時的に立ち寄っただけだとおっしゃっていました。フレデリック様には以前、好きにして構わないと言われていますし、今の私にとってはお二人との時間がなによりも大切なんです。ですのでどうか、お帰りにならないでください」


 と、アシェル様が「ふうん?」とどこか驚いたようにして、


「あれほど、フレデリック様のご都合に合わせてばかりだったのに、心境の変化でもあったの?」


「そうですね。もっと、自分の気持ちも大切にしてあげようと思いまして」


「なんて素敵な心掛けでしょう。わたくしも賛成いたしますわ」


 小さく手を上げて、エステラ様がクスクスと笑う。

 それにアシェル様が「私だって賛成よ」と挙手してみせるものだから、私もつい噴き出してしまう。


(それにしたって、フレデリック様ったらいったいどうしたのかしら)


 昨日は珍しく夕食前に帰って来ていたそうだし、ゼシカ嬢とのディナーだって、帰宅は日をまたぐか翌朝になっても不思議ではないと思っていたのに。


(今朝の朝食の件といい、どうにも行動がおかしいような)


 緊急の話があるのなら、私に会えずともノイマンに言づけるだろうし……。


(ま、私が考えたところで無意味よね)


 脳裏に浮かんだフレデリック様の姿をふつりと消して、


「それでは、お待たせいたしました。お二人にぜひ見ていただきたい陶器を、お披露目してもよろしいですか?」


 私が布に巻いた"それ"を掲げると、アシェル様とエステラ様は好奇に弾んだ瞳をした。

 先ほど私が庭園を歩いていたのは、部屋から"これ"を運んでいたからだ。


 お二人の期待の眼差しを受けながら、布を取り払う。

 すると、アシェル様は真剣な面持ちで口元に扇子を添え、


「白い……小皿? それにしては高台こうだいが高く、随分と小さいけれど……底に書かれた黒い線は、私の見立てが正しければ葉のない木かしら」


 同じくまじまじとそれを観察していたエステラ様が、


「小山を逆さにしたような、あまり見ない形ですのね。白磁もうっとりするほど艶やかで……こちら、他国のものではありませんか?」


「その通りです。これは"サカズキ"と呼ばれる、お酒を飲むための酒器だと聞いています。アシェル様のお見立て通り、描かれているのは枯れ木ですわ」


「お酒を……!? こんな大きさでは、一口しか飲めないじゃない!」


「ワインよりもアルコールの強いお酒を、少量ずつ嗜むそうです。そして、この酒器の驚くべき箇所は……見ていてくださいね」


 私は用意していたグラスを傾け、"サカズキ"にそうっと水を注ぐ。

 途端、枯れ木に鮮やかなピンクの花々が浮き上がった。

 お二人は驚愕に声を上げ、


「絵が変わったわ! どうなっているの?」

ここまでお付き合いくださり、ありがとうございます!

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