濃厚ミソでおかわりが進みます!
さ、冷めないうちに。
そう促され、指先で"オチョコ"を取り、そうっと唇をつける。
火傷に気を付けて少量を舌に迎えると……。
(これは……! 旨味が凝縮されたスープを飲んでいるようだわ……!)
お酒の落ちたお腹の奥からじんわりと温まる感覚にほう、と息を吐きだすと、香穂様が「わかるわー」と頷き、
「思わずため息が出ちゃう美味しさだよねえ。ほっこりするっていうか。お出汁っぽい味わいも沁みるし」
「本当に、独特の深みが心地よいお酒ですね。それに、思っていたよりも柔らかで……」
「ではでは、お酒の美味しさを味わってもらったところで、今度はおつまみとのペアリングを堪能しちゃってください!」
ニっと口角を上げた香穂様の視線の先を追うと、にこやかな亀さんが。
「お待ちどうさまです。"焼き味噌三種"、本日は柚子、山椒、蟹味噌でご用意しました」
コトリと置かれたお皿の上には、小さな木製のスプーンが三本。
それぞれの先端にはぷっくりと、焦げ目のついた、ムースのようなものがついている。
香ばしさがあるけれど、この匂いはもしかして……。
「先ほどの"ミソ"とは、これのことでしょうか? 色も似ているような」
「さっすがリアナちゃん! これはね、その味噌にそれぞれ違った具材を混ぜて、炙ってあるんだよ」
すると、辰彦様が、
「正直、焼き味噌には炊き立ての米が欲しくなる。けど、その日本酒と合わせるってなると、米なしでじっくり味わいたくなるんだよな」
(ど、どれほど味わい深いのかしら)
期待にゴクリと喉が鳴り、三樹様の指し示す"ユズ"のスプーンを口に含む。
「! "ユズ"とは、柑橘系の果実でしたのね」
コクリとお酒を嚥下すると、深みのある旨味と共に爽やかな香りが鼻を抜ける。
次いで勧められたのは、"サンショウ"。崩れた"ミソ"が舌に広がると、先ほどとは違ったピリッとした刺激が。
「っ、"サンショウ"は、香辛料のことですのね。刺激はもちろん、なんて清々しい香り……」
こちらもこくっとお酒を含むと、新しい変化が加わってよく合う。
(たしか、最後は"カニミソ"よね)
「これはカニを混ぜてあるのですね。カニは自国でも時折食べています。身がわからなくほど細かく刻んであるようですが……色も香りも、他の二本と少し違っているような気がしますわ」
「ごめん、リアナちゃん」
突然、香穂様が深刻そうな顔で謝罪を口にする。
いったい何事かと尋ねる前に、
「蟹味噌は、蟹を混ぜた味噌じゃありません」
「え……?」
「でもでも! 本当にお酒とよく合うし! ちょーっとクセがあるけれど、ハマる人はがっつりハマるくらい人気もあってね?」
「まあ、正体を聞くよりも先に食べちまうのをオススメする」
同じく深刻そうな辰彦様に、三樹様と亀さんも同調する。
(い、いったいこの"ミソ"にはどんな秘密が隠されているのかしら)
不安も過るけれど、この四人が"食べてはいけないモノ"を勧めるはずがないもの。
勇気を出して、ぱくっと食む。
(こ、濃い……!)
これまで味わったことのない、濃厚なカニの旨味。
確かに少々独特ながら、とろりとした舌触りと炙られた焦げの風味がそれ以上の感動を生み出す。
お酒を含む前からわかる。
(これは、最高の相性だわ……!)
くっと一気に"ニホンシュ"を煽る。
ああ、やっぱり。ううん、想像以上に。
「~~~~駄目です。あまりに美味しすぎて、おかわりが進んでしまいます……っ!」
「リアナさんがどんどん日本酒を好きになってくれて、本当に嬉しいねえ。さ、おかわりどうぞ」
「ねー! いくらでもいけちゃうよね!? リアナちゃんも気に入ってくれて良かったー!」
「この二人は……。乗せられて飲み過ぎないよう、気を付けてな」
「お水も飲みながらがいいですよ」
かいがいしい辰彦様と亀さんに礼を告げ、お水で一息。
小さい"オチョコ"は簡単に飲めてしまうから、気を付けなくちゃ。
「ところで、この"カニミソ"は一体どういったお料理なのでしょうか? カニの旨味が凝縮されていて、色も独特ですし……」
と、三樹様が「それはね」と人差し指を立て、
「蟹味噌は、蟹の内臓なんだ」
「な……っ、ないぞう、ですか」
「ほんっとゴメンねリアナちゃん! リアナちゃんの国では内臓食べない系だった!?」
「いえ、私の国でも生物の内臓は保存食にもなりますし、高級食材として扱われている物もあります。ただ、カニの内臓を食べることはないので、こんなにも美味しいのかと驚いてしまって……」
「肝の据わったお嬢様で助かったな」
「肝は肝でも、これは"ミソ"だけどね」
「お、これは三樹さんに一本とられましたね」
朗らかに笑い合う三樹様と亀さん。
辰彦様は物言いたげな顔でお酒を嚥下し、
「いいんですけど、三樹さんはギャップがエグイんですって」
「お客さんウケはいいんだよ?」
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