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婚約者の騎士様に放置されたので異世界で日本酒を楽しみます~本当に好きなお相手とどうぞお幸せに~  作者: 千早 朔


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20/42

熟成酒は熱燗でほっこりと

「あ、リアナちゃんこっちこっち!」


 扉をくぐり見知った店内の光景が現れると、カウンター側の四人掛けの席から香穂様が笑顔で手を振ってくれる。

 その対面に座る辰彦様もまた、挨拶をするように片手を上げ会釈をしてくれた。


 当然のように受け入れてくれる二人に心が温まるのを感じながら歩を進めた私は、「お久しぶりです」と香穂様の隣に腰かける。

 二人と知り合ったあの日から、店で会えた日はこうして席を共にするようになった。

 気付けば当然のように二人の姿を探している自分にも、少々驚いてしまう。


(自国の社交界ですら、未だに決まったご令嬢としか仲良くなれていないのに)


「いらっしゃいませ、リアナさん。おしぼりをどうぞ」


「ありがとうございます、亀さん」


 こちらもすっかり慣れ親しんでしまった温かなタオルを受け取り、手を清めていると、


「ご注文はいかがしましょうか。今夜も三樹さんのオススメでお任せしますか?」


「あ、えと……」


 今日、香穂様と辰彦様に会えたら、言おうと決めていた。

 私は勇気を出し、既に飲み始めている二人へと顔を向け、


「ご迷惑でなければ、今夜は香穂様と辰彦様に選んでいただきたいのですが……お願いできますか?」


「え!? いいの!? もちもちもち全力でオススメの一杯を選ぶよ! ああ……緊張から嬉しさへと移り変わる純真無垢な笑み……推しが今日もカワイイ!」


「日本酒、それなりに慣れてきたんだっけ?」


 顔を合わせる機会が増え、それぞれ話しやすいようにと取り決めてから口調が砕けた辰彦様の問いに「はい」と頷く。

 すると、香穂様が「はい!」と手を上げ、


「ぜひぜひリアナちゃんに味わってほしい日本酒があるんだよね。亀さん、『くせものじゃ』が一女をお願いします!」


「あー、なら、つまみは"焼き味噌三種”なんてどうだ? 味噌合わせで」


「おけ、採用」


 いつもながら息の合った掛け合いに頷きながらペンを走らせた亀さんは、復唱すると「ご用意しますね」とカウンターへ戻っていく。

 店内を見渡すと、三樹様は別のお客様とお話し中のよう。

 私の視線に気づき手を上げてくれたので、会釈を返す。


 何度か通い気が付いたけれど、このお店は常連さんが多いみたい。

 近頃ではすっかり、私へと向けられる好奇の視線もなくなっている。


「そういえば、リアナちゃんご飯は食べた? まだなら食事系も追加するよ?」


「いえ。実をいうと、街に出かけると言って出て来ているので、夕食時には戻らなくてはならないんです」


「そうなんだ……うう、悲しいけれど、少しでも会えて嬉しい! 帰る時間になったら遠慮なくいってね!」


 と、辰彦様は「へえ」と考えるようにして、


「食事は絶対に家で、みたいな取り決めがあるのか?」


「取り決めというほど厳格なものではありませんが……習慣、のようなものです。ですが今、少しずつですが、もう少し自由に行動してみようと思っていまして。今日は、"夕食前にお酒をいただく"を実行中です」


 刹那、香穂様はすんと笑みを消し、


「……あのさ、リアナちゃん。年齢って訊いても大丈夫?」


「年齢ですか? 二十四になります」


「二十四!? リ、リアナちゃん!」


 香穂様は必死の表情で私の両手をぎゅっと握りしめ、


「お家で虐げられたりしてない? 帰りたくなかったら、ウチに来てくれても平気だよ? ちなみにアタシは二十五です!」


「そうなったら、俺も弁当を差し入れすっかな。俺も同じく二十五です」


(お二人とも、近いお歳だったのね)


 安堵に似た、気が緩む感覚をおぼえながら、


「ありがとうございます、香穂様、辰彦様。お屋敷の皆さんには本当に良くしていただいているので、お気持ちだけで――」


「お待ちどうさま。亀さんから聞いたけど、いやあ、これまたいいのを選んだね」


「三樹様」


 お盆を手に現れた三樹様は、にこにことしながら「はい」と私の眼前に小さな花瓶の陶器と蓋のようなものを置き、


「くせものじゃ 一女 どみそ』、熱燗でご用意しました」


「さっすが三樹さん、分かってる! リアナちゃん、熱燗はもう試した?」


「いえ、"アツカン"とは……?」


「ざっくり言うと、日本酒を温めて飲むってこと! 温め方もいくつかあるみたいだけれど、よく見るのはこの徳利に日本酒を入れて湯煎ってやり方かな。で、この小さい……おちょこっていうコップで飲むんだよ。カワイイでしょ? このお酒はねー、熟成酒だから熱燗にするのがオススメで……あ、熱いから気をつけてね」


「"燗"も温度で呼び名が変わるのだけれど、"熱燗"は五十度程度のことを指すからね」


 言いながら三樹様が、"オチョコ"に注ぐ。

 ふわりとあがる湯気と共に、もったりとした独特な香りが。それに。


「色が、茶色い……!」


「この日本酒はね、発酵のために混ぜ込んでいる麹に、味噌麹を使っているんだ」


「"ミソ"、ですか?」


「そうそう。醤油や豆腐の原料と同じ、大豆で作った熟成調味料のことでね。このお酒自体も、醸造年度から数年寝かせた熟成酒なんだけど、温度に負けないんだよねえ。だから、熱燗がオススメ」

ここまでお付き合いくださり、ありがとうございます!

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