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婚約者の騎士様に放置されたので異世界で日本酒を楽しみます~本当に好きなお相手とどうぞお幸せに~  作者: 千早 朔


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喧嘩も不仲も噂でしかないはずなのだが

 経験とは財産だ。

 騎士団の書庫には大戦時代の戦歴書から直近の事件まで、騎士団で処理をした多数の報告書が収められている。


 騎士であれば誰でも閲覧が可能だが、持ち出すには申請書と部隊長以上の許可が必要だ。

 大量の承認作業を連日願い出るには申し訳がないので、騎士団の宿舎に泊まり、戦歴書を読みながら夜を明かすことも多い。


 はじめた頃は重要な事件だけを確認するつもりだったが、小さな事件が連なっていたりして、結局、まだ納得のいくところまで読み込めていない。


(何事も簡単にはいかないものだな)


 新たなファイルを手に小さく息をついた、刹那。


「――あ、やっぱりここにいたか」


 ノックもなく開かれた扉から、爽やかな水色の頭がひょこりと覗く。リヴィオ伯爵家の次男であるセドだ。

 俺と同時期に騎士団に入団した彼は、共に鍛錬や職務に励む間柄なのだが。


「お前、婚約者ちゃんと喧嘩した?」


「…………」


 こうしてセドが突拍子もないことを言いだすのは、珍しくない。

 華やかな顔面と軽やかな話術を持つ彼の"社交好き"は有名なもので、それを分かった上で関係を持つ女性も多いと聞いている。


 軽薄な者は苦手だが、セドは有事おける"勘"が抜群なうえに、職務には真摯だ。故に嫌悪感はない。

 ともかく、社交界の事情通である彼は耳が早い。

 今回の意味の分からない質問も、どこからか"仕入れて"きたのだろう。


「彼女と争った覚えはないが」


「ええー、ハズレ? んー、となるとー……わかった、無言の抗議ってヤツじゃん?」


 決まった、とでも言いたげに勝ち誇ったような笑みで片目を瞑っているが、やはり検討もつかない。


「いったい何の話だ? 喧嘩だ抗議だと……また新しい不仲説か?」


「今回に関しては"説"じゃないでしょ。実際、婚約者ちゃんがあの公開訓練以降、めっきりお茶会に顔を出さなくなったわけだし」


「……なんだと?」


「え? お前が驚いていることに驚きなんだけど。彼女、一緒の邸宅に住んでるよな?」


「……リアナ嬢からも、執事からも、特別な報告は受けていない」


「いや、報告なんかなくったって気が付くだろ。一緒に住んでいる"婚約者"なんだからさ」


「…………」


 押し黙った俺に、セドは「お前さあ、まさかとは思うけどさあ」と疑いの眼差しを向け、


「公開訓練ん時、彼女がゼシカ嬢とひと悶着あったことも知らないなんて言わないよな?」


「……彼女からは、挨拶をしたと」


「はあー、フレデリック。お前、本当に剣以外にはダメッダメだな?」


 瞬きの間にぐいと距離を詰めてきたセドは、俺が手にしていたファイルを強引に奪い取り、


「仕事熱心なのはいいけれど、こんな体たらくじゃ婚約者ちゃんに愛想尽かされるぞ? 根回しもなく首都に嫁いできた彼女の頼れる相手なんてお前くらいだっていうのに、ろくに家にも帰らず古びたファイルを見つめるばかり! お前が見つめるべきは可愛い婚約者ちゃんの美しい瞳! その頭に叩き込むべきは、 彼女の傷ついた心だろ!?」


 歌劇のような文言を叫ぶようにして連ねながら、セドは俺の制止の声も無視して部屋から追い出そうと背を押す。


「セド、なにを……っ」


「今すぐ帰れ。お前の親愛なる友として俺がしてやれるのは、これくらいだ」


「いや、俺は」


「断言する!」


 セドはビシッと俺の鼻先に指を向け、


「フレデリック、お前は数時間後、俺に感謝することになるぞ。わかったら今すぐ家に戻って、悲しみに打ち震える婚約者ちゃんを抱きしめてやるんだな。あ、もちろん、謝罪はしっかりしておけよ」


 言いたいことだけを連ね、バタリと閉じられた扉には反論の余地すら与えられない。


(いったい、突然なんなんだ)


 一つだけわかっているのは、この扉は俺の気配が消えるまで開かないだろう。


(……挨拶をしただけではなかったのか?)


 リアナ嬢本人がそう言っていたから、そうなのだと気にも留めていなかった。

 だが、セドの口振りからして、すでに社交界では"ひと悶着"の事実が広まっているのだろう。

 これまで週に一度は必ず出席していたお茶会に出なくなったという話も、気になる。


(事実ならば、ノイマンはなぜ報告をしてこなかったんだ?)


「……帰るか」


 近頃は泊まり込みが続いていたうえに、見れば窓の外も日が暮れ始めている。

 ここでいつまでもセドと無言の根競べをしているくらいならば、屋敷に戻ってリアナ嬢に直接訊ねたほうが早い。


(久しぶりに、夕食を一緒にするか)


 そうして浮ついた心中に急かされるようにして、屋敷に戻ったというのに。


「お嬢様なら、お出かけになられてからまだ戻られておりません」


 屋敷で俺を出迎えたノイマンは、自室で着替える俺を手伝いながら、淡々と告げる。


「街にてお買い物をされると聞いております」


「……そうか」


(なにをこんなにも動揺しているんだ、俺は)

ここまでお付き合いくださり、ありがとうございます!

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