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第2話:第7部 1LDKの監獄

友人が夏休みに旅行へ行こうと誘ってくれたとき、僕は久しぶりに外の空気を吸えるような気がして胸が高鳴った。彼女も賛成してくれ、少しずつ準備を進めていたが、問題はすぐに浮かび上がった。――犬をどうするか。彼女は「任せるわ」とだけ言い、僕に一任した。必死で一時的に預かってくれる人を探したけれど、結局、出発の当日まで決まらなかった。


結果、旅行は中止になった。僕自身も残念だったが、彼女の怒りは想像以上だった。数日で収まると思っていた苛立ちは、二週間もの間、僕に向けられ続けた。話しかけても無視され、食卓に座っても冷たい沈黙だけが支配した。狭い1LDKの部屋は逃げ場のない監獄のように感じられ、家にいることが息苦しくてたまらなかった。


彼女の怒りは言葉だけでなく、態度にも現れた。些細なことで責められ、時には殴られ蹴られることもあった。それでも僕は、妙な意地と殻に閉じこもったプライドのせいで謝ることもできず、ただ沈黙で返すことしかできなかった。二人の間に流れる空気は重く、部屋の壁がじわじわと迫ってくるような圧迫感に耐える日々が続いた。


「もう出て行こう」と思い立ったこともあった。だが玄関に向かうと、彼女がドアの前に立ちはだかり、「どこにも行かせへん」と言う。その視線には怒りと執着が入り混じっていて、恐怖すら感じた。自由を奪われたような感覚に陥り、外の世界が途方もなく遠くに感じられた。


会話が消え、暴力と沈黙だけが残る生活は、やがて狂気じみた展開を迎えた。ある晩、彼女は突然電話を取り上げ、「同棲してる人に暴力を振るわれてます。逮捕してください」と警察に訴え出したのだ。その声を聞きながら、僕は足元が崩れ落ちるような恐怖を感じた。何もしていないのに、僕が悪者として世界に突き出される――そんな想像が現実味を帯び、体が震えた。


やがて、三週間が過ぎたころ。彼女が買い物に出かけた隙を狙い、僕はついに部屋を飛び出した。玄関のドアを開けた瞬間、胸いっぱいに流れ込んでくる外の空気は、自由そのものの匂いがした。同時に、背後に残したものの重さと虚しさが、冷たい影のように心にまとわりついていた。


――あの夏、旅行には行けなかった。けれど、もっと遠く、二人の間に決定的な距離が生まれたことを、僕は痛感していた。

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