第2話:第6部 疑われなかった罪
彼女が正式に旦那と別れることになった。私たちが同棲を始めてから、彼女は徐々に旦那への連絡を絶ち、最後のほうは完全に無視していた。そんな中、ある日突然届いた一通のメール。「離婚しよう」――その短い文面は、予想していたはずなのに胸に重く響いた。
彼女はほとんど迷うことなく了承した。「もう愛情なんて残ってない。形だけの夫婦生活に意味はない」と、まるで他人事のように静かに言った。私はその言葉に安堵した。これで彼女を傷つけながら続けていた曖昧な関係に、ようやく終止符が打たれたのだと。だがその直後、思いもしなかった感覚が自分を包んだ。「彼女は俺を選んだ」という現実の重みだった。
離婚の話が進む中で、私は慰謝料や責任のことも頭をよぎらせた。もし浮気が露見すれば、彼女にも自分にも重い代償が降りかかるかもしれない――そんな不安を抱えた。だが、旦那は最後まで浮気を疑わなかった。ただ「すれ違い」や「心が離れた」という理由で、静かに彼女を手放した。その誠実さに、かえって胸が痛んだ。
彼女もまた、静かに揺れていた。夜、食器を片づけながら「これからどうなるんやろね」とつぶやいた声はかすかに震えていた。その横顔を見て、私は答えを出せず、ただ「大丈夫やって」と笑ってごまかした。けれど心の奥では、仕事も収入も未来も曖昧な自分に、本当に彼女を幸せにできるのかという不安が膨らんでいった。
それでも日常は待ってくれない。朝、彼女が台所で味噌汁を温める匂い、洗濯物を畳む指先、ベッドで無邪気に眠る寝顔――そのすべてが「彼女は俺を選んだ」という証拠だった。嬉しさと責任がないまぜになって、胸の奥にずっしりと沈んでいく。
離婚は、二人の距離を確かに近づけた。だがそれは甘さだけではなく、責任と不安をも連れてきた。彼女の隣にいるたびに、その重みと向き合わざるを得なくなった。




