第2話:第5部 倦怠と犬、二人の距離
同棲生活も3年目に入り、毎日一緒にいることが当たり前になっていた。朝は同じベッドで目を覚まし、並んで朝ごはんを作り、会社へ向かう道も昼休みも、帰宅しての夜ごはんも、すべてが二人で過ごす時間だった。最初は新鮮で楽しかった日々も、次第に倦怠感が忍び寄る。
朝、僕がペットボトルの蓋をちゃんと閉めずに置いたことを見つけて、彼女が声を荒げる。些細なことで怒られることに、家にいること自体が息苦しく感じる瞬間が増えた。生理の時は生理痛で体調がすぐれず、彼女はむちゃくちゃ怒っている。僕がそっと寄り添おうとしても「ほっといて!」と拒絶され、部屋を出たくなることさえあった。
そんな中、お互い犬好きだったこともあり、小さな子犬を迎えることになった。家に子犬がやってくると、彼女は目を輝かせ、僕も思わず笑顔になる。犬の名前を呼び、抱き上げ、遊び、夜には一緒に寝かしつける――犬との時間は倦怠感で重くなった日常に、新しいリズムと喜びをもたらした。
しかし、犬が中心になることで、僕たち自身の関係は次第に“家族ごっこ”のようになった。会話のほとんどが犬の話題で埋まり、互いの気持ちや不満は奥に押し込められる。夜、ソファで疲れを癒そうとしても、彼女は犬を抱えたまま「もっと構って」とせがみ、僕は手をつけられず戸惑う。互いに言葉にできない苛立ちが少しずつ積もり、夜中に小さな喧嘩になることもあった。
それでも、犬と過ごす時間は僕たちをつなぐ潤滑油だった。散歩に出かけ、無邪気に遊ぶ姿を見て笑顔を取り戻す。倦怠感は完全には消えないが、犬の存在が生活の空気を柔らかくし、互いの心の距離をわずかに縮める。犬は僕たちの関係の緩衝材であり、倦怠感を抱えつつも小さな幸せを実感できる日々の象徴だった。




