表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/39

第2話:第4部 ひとつ屋根の下で

朝、同じベッドで目を覚ますと、隣に彼女がいる――その光景が当たり前になっていった。

幸せで充実した日々の中、時折ふと、ホテルで彼女を泣かせてしまった夜のことを思い出す。

罪悪感と、もっと彼女を大切にしなければという気持ちが、僕を彼女へと強く結びつけていた。


そんなときに同棲を提案したのは、意外にも彼女のほうだった。

「もう毎日一緒にいたほうがいいんちゃう?」

その言葉を聞いたとき、僕は一瞬息を飲んだ。驚きと戸惑いが入り混じったけれど、胸の奥で、心のどこかでそれを待っていた自分に気づく。


それから僕たちの日常は一変した。

朝、同じベッドで目を覚ますと、隣に彼女がいる。その温もりだけで、一日の始まりが特別に感じられる。

一緒に朝ごはんを作り、並んで食べる。彼女の笑顔に、自然と僕の心も和らぐ。

会社へ向かう道も、昼休みのランチも、帰宅しての夜ごはんも、すべてが二人で過ごす時間になった。

夜、ベッドで眠るときには、今日あった些細な出来事や会話を反芻しながら、互いの存在を確かめ合う。


毎日が詰まっていて、濃密で、楽しかった。

朝の光を浴びながら彼女がコーヒーを淹れる姿、キッチンで料理を手際よくこなす後ろ姿、疲れた僕を気遣う優しい声――どれもが新鮮で、胸を高鳴らせた。

彼女といる時間が長すぎるほど長く、幸せに満ちていた。


でも、密度が高すぎる生活には、少しずつ影も落ちていく。

一人になれる時間はほとんどなく、自由に考えたり気持ちを整理したりする余裕は減っていた。

「一人でぼーっとできる時間が欲しい……」

心の中でそう思う瞬間が増えていく。

でも、彼女の隣で笑顔を向けられると、言い出すこともできず、ただ微笑み返すしかなかった。


最初のうちは広々とした3LDKのマンションで暮らしていた。

家具を一緒に選びに行き、リビングに置くソファや寝室のベッド、観葉植物や雑貨――すべて二人で決めた。

日常の中に二人だけの世界が生まれ、毎日が新鮮で、生活のすべてが特別に感じられた。


しかし、同棲生活も2年を過ぎ、家賃を抑えるために1LDKに引っ越すことになった。

部屋は狭くなり、一人の時間はさらに減った。

お互いの存在が近いのは安心感でもあったが、同時に小さなストレスも生まれるようになった。

互いの動きや生活リズムが気になり、ささいなことが心に引っかかることもあった。


それでも僕は、彼女と過ごす時間を手放せずにいた。

幸せと不安が同居する、そんな日々。

密度の濃い日常の中で、僕たちは笑い、支え合い、時には小さな喧嘩をする。

でも、どんな日も、彼女がそばにいるというだけで、僕の世界は少しだけ色づいていた。


小さなすれ違いの兆し――それはまだ目立たないが、確かにそこにある。

穏やかな日々の影に忍び寄る、不安の種。

この幸せな生活は、いつか試練を迎えるのかもしれない――僕はそれを、薄々感じていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ