第5話:最終部 静かに消えた日々
彼女との関係は、嵐のような激しさもなければ、大きなトラブルもなかった。会えば酒を飲んで笑い合い、泊まって夜を過ごし、また次の週末に同じことを繰り返す。
一見すれば安定していた。周囲から見ても「順調そう」だと思われていただろう。
しかし、心の奥ではどこか温度差を感じていた。
私の方から連絡をすれば返ってくる。会おうと誘えば応じてくれる。けれど、彼女の方から連絡をくれることは少なかった。
「これって、俺がいなくても成り立つ関係なんじゃないか?」
そんな疑念が頭をかすめていた。
忙しい日々が続き、こちらから連絡しないまま数日が過ぎる。けれど、その間、彼女からの連絡は一度も来なかった。既読すらつかないまま、時間だけが流れていく。
最初は気になっていたが、やがてその「何も起こらない空白」に慣れてしまった。
一緒に過ごした日々は、決して嫌なものではなかった。むしろ、心の隙間を埋めてくれた時間だったと思う。彼女の甘えん坊な一面や、無邪気に酒を楽しむ笑顔は、確かに私を救ってくれた瞬間もあった。
けれど「本当に好きだったのか」と問われれば、胸を張って「そうだ」とは言えなかった。
会わなくても、驚くほど平気だった。
連絡が来なくても、不思議と焦りはなかった。
そして気づけば、互いに一言もやりとりをしないまま、数週間、数か月が過ぎていた。
「自然消滅」という言葉がある。まさにそれだった。
最後に会った日のことも、最後に交わした言葉も、もう思い出せない。ただ、曖昧に終わった。
そして、終わったことすら実感できないまま、私は次の季節を迎えていた。




