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第4話:第4部 心と体の壁

キスを交わすようになってから、私たちの距離はどんどん縮まっていった。

デートの帰り道は必ず手を繋ぎ、別れ際には抱きしめ合ってキスをする。その瞬間、胸の奥で何かが熱くなるのを感じた。彼女もまた、私を求めるような目を向けてくれて、それが嬉しくてたまらなかった。


けれど、心が近づけば近づくほど、身体的な欲求も強まっていった。もっと彼女を知りたい。もっと触れたい。抑えきれない気持ちが、ある夜、帰り道で言葉になった。

「…ホテル、行かない?」

声に出した瞬間、自分の声が震えているのがわかった。

彼女は笑って首を振る。「それはちょっとハードル高いわ」

笑顔に拒絶はなくても、その一言で胸の奥に小さなひびが入った気がした。恥ずかしさ、気まずさ、勇気が空回りした虚しさ。夜はもう、その話題を出せなかった。


それでも関係は続いた。私が引っ越したとき、彼女は新しい部屋に遊びに来てくれた。狭い部屋なのに、彼女が座るだけで空気が柔らかくなり、そこが一気に「居場所」に変わる。心の中にじわじわと「今なら…」という期待が膨らんだ。


思い切って彼女を抱き寄せ、キスをする。そっと胸に手を伸ばすと、彼女は一瞬目を伏せ、静かに呟いた。

「ごめん、今日は無理…」

生理だから、と。嫌悪や拒絶は感じられなかったけれど、私の中にはまた「拒まれた」という感覚が生まれた。心と身体のズレに苦しみながらも、その夜は何もせず、彼女を家まで送った。


そんな日々が続き、彼女は泊まりに来るようになった。布団に入るときの無防備な笑顔、寝起きの乱れた髪、腕の中で眠る温もり。彼女の存在がますます愛おしくなると同時に、「もう一度、今度こそ」という気持ちも強くなった。


そしてある夜――私は彼女を抱き寄せ、キスを重ね、服を一枚ずつ脱がせていった。彼女も何も言わず受け入れてくれ、その穏やかな空気に背中を押されるように進んだ。胸に手を伸ばし、肌のぬくもりを感じる。心は高鳴り、彼女も目を閉じて緊張と期待が混じった表情を見せた。


だが、いざその瞬間を迎えようとしたとき、身体は裏切った。

熱くなるはずの身体が固まる。何度試しても、彼女の柔らかさに触れても、思うように反応してくれなかった。

焦りが喉を締め付け、心臓の鼓動が耳にうるさく響く。彼女の優しい視線が、余計に自分の無力さを突きつける。

「またか…」

前の恋愛で味わったトラウマと無力感が鮮やかに蘇った瞬間だった。

「…ごめん」

かろうじてそう口にした。


彼女は微笑んで首を振る。「大丈夫だよ」

その一言に救われるはずなのに、胸の奥にはどうしようもない敗北感と惨めさが残った。あの瞬間、自分が何もかも壊してしまったように感じた。


それ以来、私たちは身体を重ねることはなかった。

触れ合うたび、彼女の優しさを感じるたびに、心の奥に「男としての自信のなさ」が膨らんでいく。

愛しているのに抱きしめきれない――その苦しさは言葉にならず、静かに心を侵食していった。

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