第4話:第3部 迷いの先の唇
「少し考える時間がほしい」と言われてから、彼女の返事はなかなか返ってこなかった。毎日スマホを確認するたびに、届いていない通知に胸がざわつく。もしかしたら、やっぱり無理かもしれない――そんな不安が頭をよぎる。友達以上、恋人未満の関係が長く続いていただけに、私の心の中では期待と恐怖が入り混じり、押しつぶされそうになっていた。
ある日のこと、彼女からLINEが届いた。「会いたい」――たった一言。その短いメッセージに、心臓が一瞬止まるほどの衝撃を覚えた。迷いと戸惑いが消え、同時に安堵が胸に広がる。私はすぐに返信をし、約束の時間にファミレスで落ち合った。
会ってすぐ、緊張しながらも笑顔を交わす。彼女は少し赤くなった頬で、私を見つめる。その瞳の奥には、期待と不安が入り混じった光があった。会話を交わすうちに、彼女は少しずつ打ち解け、やがて勇気を出して口を開いた。「…付き合ってもいい」と。その言葉は静かに、しかし確かに私の心を満たした。
付き合うことになった瞬間、胸の奥が温かくなり、緊張と高揚が入り混じる。初めての彼氏である私に、彼女も戸惑いや不安を抱えていることは明白だった。時折、恋愛の距離感にバグが生じて、戸惑う場面もあったが、それも少しずつ調整できるようになっていった。
そんなある日、ファーストキスの話題になった。彼女は大学時代にストーカー被害に遭い、無理やりキスされた経験がトラウマになっていた。私は優しく手を握り、「それは一方的な愛の押し売りで、ファーストキスじゃないよ。今度、本当のファーストキスをしよう」と告げた。彼女は小さく頷き、次のデートを楽しみにするような微笑を浮かべた。
当日、私たちは夜景が見える展望台へ向かった。しかし人が多く、キスをするには気が引ける。都会の夜はどこも人で溢れていた。結局、終電が迫り、家に帰ることに。少し残念な気持ちを抱えながらも、私は彼女を家まで送り届けた。玄関前で立ち止まり、互いに見つめ合う。静かな空気の中で、ゆっくりと唇を重ねる瞬間、久しぶりの彼女の温もりが胸に伝わった。短い時間だったが、心が震えるような幸福感に包まれる。
そのキスを通して、私たちは言葉以上の距離を縮めた。初めての恋愛の不安と、互いを思う気持ちが交錯する中、少しずつ確かな絆が生まれていくのを感じた。




