第3話:最終部 一方的なお別れ
転職活動は思ったよりもうまくいかなかった。何社も応募したが結果は振るわず、貯金は徐々に底をつき、焦燥感と不安が胸を締めつける。プライドの高さも相まって、こんな状況を彼女に打ち明けることはできなかった。毎週のデート代も自分が出し続けており、財布の紐を気にしながらも、笑顔を見せ続けるしかなかった。
そんな折、彼女からまた旅行の提案が舞い込む。「行きたい」と目を輝かせる彼女の姿に、表面的には微笑みを返すものの、心の奥では苛立ちと焦りが渦巻いていた。家賃すら危うい状況で、これ以上お金を使う余裕はなかった。彼女の無邪気な希望が、どうしても重荷に感じられたのだ。
心の中で「もう無理だ」と呟きながら、私は徐々に距離を取るようになった。LINEの通知を無視し、電話にも出ない日々が続く。彼女は必死に連絡を取り、「なんで電話出ないの?」「会って話したい」と懸命に問いかけてくる。その文字を読むたびに、胸が痛むと同時に、逃げたい気持ちが募った。
彼女の温かい気持ちを知りながらも、私は自分の中の不安や劣等感、そして経済的な現実に押しつぶされそうになっていた。正直に話せば理解してもらえるかもしれない。しかし、プライドが邪魔をし、言葉にすることができない。心の中で葛藤が渦巻き、理性よりも恐怖が勝っていた。
最終的に、私は一方的に連絡手段を断ち、彼女との関係を終わらせる決断を下した。LINEも電話も無視したまま、沈黙の壁を築くしかなかった。後悔と安堵が入り混じる不思議な感覚。胸の奥には痛みが残り、同時に、自分の弱さとプライドに押し潰されそうになるのを感じた。
春の京都の街角で交わした最初の笑顔、嵐山でのささやかな幸せ、城崎での距離の近さ――それらの記憶が、静かに心の奥で揺れている。けれど現実は、逃げるしかできない私を待っていた。こうして、私たちの関係は、静かに、そして一方的に幕を閉じたのだった。