第3話:第5部 沈む週末、揺れる心
付き合って1年が経とうとしていた。付き合った当初と変わらず、毎週末に会って食事をし、街を歩く日々が続いていた。表面的には穏やかで幸せな時間。しかし、心の奥では少しずつ不安が募っていた。
表面上は笑顔で彼女の話に耳を傾け、冗談に笑う。だが内心では焦燥感が絶えず胸の奥をざわつかせていた。毎回すべてのデート代を私が払うこと、彼女が財布を気にせず楽しそうにしていること――その無邪気さに安堵すると同時に、責任感とわずかな圧迫感が重なり、微妙な疲れも感じていた。お互いの家も知らず、外でだけ会う関係は自由で心地よい反面、どこか距離感を感じずにはいられなかった。
さらに、キャリアに対する焦りが胸を締め付ける。自分はこのままでいいのだろうか。もっと自分の力を試したい、人生を前に進めたい――そう思いながらも、言葉にする勇気はなく、彼女に相談することもできなかった。悩みは積もり、夜、一人で考える時間が増えるほど、心は小さく冷たく震えていた。
その焦燥感と不安は、やがて行動を促した。私は長い間考え続けた末、現職を退職し、フリーターとして新たな道を模索する決断を下したのだ。自由な時間が手に入ったはずなのに、社会との接点を失ったことで、孤独感と将来への不安はさらに増していた。毎週末のデート代も、以前より重く感じられた。表向きはいつも通りに笑っているが、心のどこかで、これからの生活や自分の存在意義に対する漠然とした恐怖が張り付いていた。
それでも彼女の前では、何も変わらないかのように振る舞った。彼女の楽しそうな声、目の輝きに触れると、ほんのわずかに心が温まる。けれど、その温かさは不安と交錯し、完全に安らぐことはない。目の前の彼女を愛おしく思う自分と、社会や将来に対する焦燥で胸が締め付けられる自分。二つの感情が複雑に絡み合い、笑顔の奥に隠れた葛藤を作り出していた。
結局、この1年の間、私は誰にも相談できず、自分の心の中だけで悩みを抱え続けた。自由を得たはずの体の軽さと、心の重さ――そのギャップが、私にとっての現実であり、彼女との関係の中にひそむ、静かな緊張でもあった。