第3話:第3部 キーホルダーが映す微かな影
嵐山の川沿いを歩いたとき、春の光が水面にやわらかく反射していた。彼女の笑顔はいつも通り明るく、少しはにかんだ仕草が風に揺れている。私の胸は、そんな彼女の存在でじんわり温かくなるのを感じていた。
ふと彼女はかばんをごそごそし、
「似合うと思ったから、思い切って買ってみた」
差し出された小さな箱の中には、アニメのキャラクターのキーホルダーが入っていた。初めて見る種類に少し驚きつつも、彼女の心遣いが嬉しく、私は自然と笑顔を返した。
しかし、後日、共通の友達との食事の際に偶然見てしまった彼女のSNS投稿が、私の胸をざわつかせた。そこには、私がもらったキーホルダーの写真と共に「友達にあげるキーホルダー…いらんって」と書かれていた。
頭が一瞬真っ白になった。脳内で文字を何度も反芻する。理解は追いつかない。私にくれたものを、他の人には拒絶された…?
好意は本当に私だけに向けられたのか――胸の奥で、静かに疑念が膨らんでいく。
以前の恋で受けた傷がよみがえる。人を信じることの怖さ、依存することの不安。あの感情が、今、彼女との関係に微かな影を落としている。
「聞いたら、きっと余計に壊れる」
私はそう思い、彼女に直接尋ねることはできなかった。信じたい気持ちと疑いたい気持ちが絡まり、胸のざわめきは消えない。
夜、布団に入りながらも、あのキーホルダーとSNSの文面が頭をよぎる。彼女はただ喜ばせたくて選んだのだとわかっているのに、心は臆病になり、彼女との関係に微かな影が差したことを実感していた。