第2話:最終部 消えた日々、残された自由
極限の生活を送る中で、私たちの関係は静かに、しかし確実に崩れていった。
ある日、会社で彼女の虚言が広まっていたが信頼してくれていた上司の評価があったおかげで仕事は続けられたが、心の奥には常に不安と焦燥が渦巻いていた。そんな折、上司から転勤の話が持ち上がった。会社に残ってほしいという温かい言葉に、希望と不安が入り混じる。私は少し考えさせてほしいと答え、家に持ち帰った。
しかし、帰宅したその瞬間、現実は凄惨なものに変わった。ドアを開けると、彼女が猛然と走り寄り、首を絞めながら低くつぶやいた。「お前だけ幸せにならせんからな」――冷たい指先が喉に食い込み、血の気が引いた。心臓は暴れるように鼓動し、恐怖で体が硬直した。息をすることさえ忘れそうになる中、私は必死に彼女を振り払い、逃げ出した。その夜は友達の家に身を寄せ、震える心でただ生き延びることだけを考えていた。
それから数日間、残業で帰宅できない日々が続き、彼女とも連絡は途絶えた。やっと4日目、恐る恐る家に戻ると、そこにあったのは空っぽの部屋だった。家具も家電も、犬も彼女も、何もかも消えていた。まるで入居前の状態に戻されていたのだ。胸がぎゅうっと締め付けられ、頭の中は真っ白になった。二人で管理していた通帳もなくなっていた。電話をかけても出ず、共通の友達に聞いても何も知らない――私たちの関係は、あっけなく終焉を迎えたのだった。
その瞬間、心の奥底に重くのしかかっていたものが、すっと消えた気もした。恐怖と怒り、悲しみと苛立ち――それらが混ざり合った日々から、ようやく解放されたのだ。自由であることの安堵と、すべてを失った虚しさが同時に胸に押し寄せる。長く張り詰めていた感情が、静かにほどけていくのを感じた。
後日、会社の転勤は結局なくなり、生活は少しずつ元に戻った。貯金は失ったが、精神的に追い詰められた日々から解放された喜びはそれ以上に大きかった。共通の友達から「大金が入ったから遊ぼう」と聞かされたとき、小さな怒りと同時に、どこか安心した自分がいた。
あの時手にした自由は、恐怖の代償として得たものだった。しかし、もう二度とあの恐怖に縛られることはない――心の奥で確信できた。ぽっかり空いた穴はまだ癒えないけれど、少しずつ、前を向く力だけは戻り始めていた。