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第2話:第9部 沈黙の再同棲

別居生活が1か月ほど続いたある日のこと、共通の友達から「一度ちゃんと話し合ったほうがいい」と連絡が入った。

会社でも別部署にいたため、久しぶりに会った彼女は、見るからに痩せていて、目の下には疲れがにじんでいた。その姿を見た瞬間、胸の奥に微かな後悔と罪悪感が湧き上がる。毎日一緒にいた生活が、こんなにも当たり前でかけがえのないものだったとは、離れてみて初めて実感した。


話し合いはファミレスで行われた。共通の友達も交え、状況を整理するように進められたが、二人の主張は平行線のままだった。

彼女は真剣な顔で声を震わせながら言った。「戻ってきてほしい!犬の世話はどうするの?」

その言葉に僕の胸は締め付けられた。まだ気持ちの整理がつかず、「すぐには帰れない」と答えるしかなかった自分に、もどかしさと自己嫌悪が混じる。目の前の彼女の瞳は期待と不安で揺れていて、言葉にできない感情が重くのしかかる。


共通の友達は状況を見て提案した。「同じマンションに住んでいるんだし、何かあったらすぐ駆けつけられる。だから、一度だけでも帰ってみるのはどう?」

その言葉に、僕の心にわずかな安堵が生まれた。彼女も同意したようにうなずき、二人の間に小さな沈黙が流れる。


こうして、1か月ぶりに僕は家に戻った。

出て行ったときと変わらぬ部屋。家具の位置も、犬の居場所も、そのままだった。違和感と緊張が胸の奥で混ざり合い、呼吸が少し乱れる。犬はしっぽを振りながら駆け寄り、僕の足元で静かに座った。その姿を見て、少しだけ心が和らぐ。


再び同棲生活が始まったものの、互いの距離感や言葉の間に、まだ見えない壁があることを感じた。彼女は何度も僕の顔を覗き込み、僕は気まずく視線をそらす。互いに無言の時間が長く続き、気まずさが部屋の空気に重くのしかかる。

それでも、少しずつ小さな会話を重ね、犬の散歩や食事の準備を通じて、ぎこちないながらも日常を取り戻していった。時間が解決してくれるだろう――そう自分に言い聞かせながら、僕は今日も彼女と同じ空間で、ぎこちなくも笑顔を作ろうとしていた。

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