不思議の国のアリスとテレス
広場の片隅、陽の光がやわらかく差し込む場所に、クロヤマアリの巣があった。
その巣には、他の働きアリたちとは少し違う、仲の良い二匹のアリが暮らしていた。
一匹は、好奇心旺盛でいつも何かに興味津々のアリス。
彼女はちょっぴりドジで、時々周りをハラハラさせることもあったが、その純粋な心と行動力でみんなを笑顔にしていた。
もう一匹は、アリスの親友で、冷静でしっかり者のテレス。
彼女はいつもアリスの失敗をそっとカバーする役目を担っていた。
二匹は他の働きアリたちよりも体が小さく力も弱かったが、その分、互いを支え合いながら毎日を懸命に過ごしていた。
毎日せっせと食料を運び、巣の手入れに励んでいたが、他の働きアリたちのように上手くできなかった。
「アリス、テレス、しっかりしなさい!」
二匹は、いつも女王アリに叱られてばかりだった。
「私たちは、みんなよりも力が弱いから…」
アリスは、しょんぼりとつぶやく。
「でも、いつか女王様に見直してもらえるようにがんばろうよ!」
テレスは、アリスを励ますように言った。
ある日、アリスとテレスは、食料を運んでいる途中、強い風に飛ばされてしまった。
「きゃあ!」
「大変!」
二匹は、風に乗り、あっという間に巣から遠く離れてしまった。
たどり着いたのは、人間の家だった。
「ここは…どこ?」
テレスは、辺りを見回す。
「まるで、不思議の国に迷い込んだみたい!」
アリスは、目を輝かせる。
「たぶん、人間の住処だわ。何て大きいのかしら」
テレスは、驚きを隠せない。
二匹は、人間の家の中を探検することにした。
人間の家は、アリスとテレスにとって、まるで異次元の空間だった。
巨大な家具はそびえ立つ山脈のようで、見たこともない道具たちは、まるで魔法のアイテムのようで、迷子の子供のようにキョロキョロと辺りを見回した。
そんな二匹の目に、一台の大きな箱が飛び込んできた。
「あれは何かしら?」
アリスが箱に近づくと、中から光が放たれて音が鳴っている。
「わあ!光ってる!何か動いてるよ!」
アリスは驚いて後ずさりした。
テレスも箱に近づき、見上げた。
「これは…何か生き物みたいだね。でも、動きが変だよ」
テレスは首を傾げた。
箱の中には、色とりどりの映像が映し出されていた。
「あれ?人間がいる!」
アリスは、箱の中に映る人間たちを指さした。
「でも、あんなにたくさんの人間が、どうやってこの箱の中に入っているのかしら?」
テレスは不思議でならなかった。
「きっと、これは人間の魔法の道具だよ!」
アリスは興奮気味に言った。
「魔法の道具…?」
テレスはまじまじと箱を観察すると、映像に釘付けになった。
アリスもテレスの隣に座り、映像をじっと見つめた。
箱の中には、人間たちが戦争をしている様子が映っていた。
「人間たちが争ってる…?」
アリスは、初めて見る光景に戸惑いを隠せない。
「あれは、人間同士が争っているのよ」
テレスは、テレビに映る人間たちの争いが、巣を奪い合うアリたちの姿と重なって見え、少し悲しそうな表情で言った。
箱の中では、様々な戦術が紹介されていた。
アリスは画面に釘付けになり、自分たちに置き換えて、いろいろとイメージしてみた。
「これって、私たちにも使えるかもしれない」
二匹はお腹が空いていることに気づいた。
「そうだ!何か食べるものを探そう!」
テレスは、立ち上がって言った。
二匹は、台所へ向かった。
台所に足を踏み入れると、二匹は未知の食べ物や道具に圧倒された。
「あれは何かしら?」
食品庫の棚には、色とりどりの野菜や果物が並んでいた。
甘酸っぱい香りが鼻をくすぐった。
色とりどりの野菜や果物が宝石のように輝き、二匹の目を奪った。
「わあ!美味しそう!」
アリスは、目をきらきらさせた。
「でも、私たちには大きすぎるから、どうやって食べようか?」
テレスは、困った表情で言った。
その時、アリスは砂糖の入った瓶を見つけた。
「砂糖だ!甘くて美味しそう!」
アリスは、瓶に近づき、砂糖を少しずつ舐めた。
「ん~、美味しい!」
アリスは、幸せそうな表情でつぶやく。
二匹は、砂糖をかじりながら台所を歩き回った。
すると、テレスが何かを見つけた。
「アリス!あれ見て!」
テレスが指さしたのは、小さな黒い粒が入った袋だった。
「何かしら?仲間かな!?」
アリスは、袋に近づいた。
「あれ?違う…」
よく見ると、それはアリではなく、黒ごまだった。
「黒ごまか…」
アリスは、少しがっかりした。
「でも、これは何かに使えるかもしれないね」
テレスは、黒ごまをじっと観察した。
「人間はこれを食べるんだろうか?」
アリスは不思議そうに首を傾げた。
「それにしても、私たちに似ているね。一粒持って帰ってみようか」
テレスは、袋から黒ごまを一粒取り出して運び始めた。
「そうだね、何かの役に立つはずだよ」
二匹は黒ごまを巣に持ち帰ることにした。
二匹は、人間の家を出ることにした。
「さあ、冒険は終わり!帰りましょう!」
アリスは、弾むような声で言った。
「うん!巣はたぶんあっちの方向ね」
テレスは、方角を確認した。
「たぶん、あっちの方向だと思うけど…かなり遠いかもしれない」
アリスは、遠くを見つめながら言った。
「でも、頑張って帰ろう!」
二匹は、巣を目指して歩き始めた。
道のりは長く、アリスとテレスは何度も休みながら進んだ。
「もうどれくらい歩いたのかな…」
アリスは、疲れた様子でつぶやいた。
「まだまだ先は長いけど、きっと帰れるよ」
テレスは、アリスを励ますように言った。
しばらく歩くと、ようやく遠くに巣の姿が見えてきた。
「あれは…私たちの巣だ!」
アリスは、嬉しそうに叫んだ。
その時、二匹はバッタに出会った。
「やあ、こんにちは。ボクは旅をしているバッタです」
バッタは、二匹に話しかけた。
「こんにちは、バッタさん」
テレスは、挨拶をした。
「そういえば、ここに来る途中で見かけたアリの巣が、サムライアリに襲われていたんだけど、君たちの巣は大丈夫かい?」
バッタは、深刻な表情で言った。
「えっ!」
アリスは、驚いた。
「ひょっとしたら私たちの巣も、襲われるかもしれない」
テレスは、不安そうに言った。
「そうかもしれない。すぐに女王様に伝えて、対策したほうがいいと思うよ」
バッタは、二匹に忠告した。
アリスとテレスは、急いで巣に戻り、女王アリの元に向かった。
巣の中に入ると、他の働きアリたちが慌ただしく動き回っていた。
「アリス、テレス!どこに行っていたの!?」
女王アリは、二匹が現れると厳しい表情で問い詰めた。
「私たちは…」
アリスは、言葉に詰まった。
「ごめんなさい、女王様。私たちは強い風に飛ばされて、人間の家まで飛ばされていました」
テレスは、頭を下げて謝った。
「人間の家!?そんな危険なところに…」
女王アリは驚きと怒りを隠せない様子だった。
「それよりも女王様、大変なことが起こるかもしれません!」
アリスは、訴えた。
「サムライアリたちが、この巣を襲ってくるかもしれません!」
女王アリは、二匹の言葉に耳を傾け、表情を硬くした。
「それは本当なの?」
「はい、さっきバッタさんから聞きました」
アリスは、真剣な表情で答えた。
「備えをしておいた方が良いと思います!」
テレスも、力強く言った。
女王アリは、目をつぶってしばらく思案したのち、
「何か良い考えはあるかしら?」
女王アリは、二匹に尋ねた。
「はい!人間の家には私たちにそっくりな食べ物がありました。これです!」
アリスは、持っていた黒ごまを見せた。
「黒ごまです!この黒ごまをたくさん並べて、自分たちの数がとても多くいるように見せかけます。サムライアリたちは、きっと怯むはずです。そこへ投石と水攻めで追い込みます!」
テレスは、具体的な作戦を説明した。
女王アリは、アリスとテレスの提案に感心した。
「素晴らしい思いつきです!すぐに実行しましょう!あなたたちが他の働きアリたちに指示を出しなさい。」
アリスとテレスは、仲間たちと協力して、黒ごまを使った威嚇作戦の準備を始めた。
人間の家まで働きアリたちを率いて、みんなでせっせと黒ごまを運びます。
「見つからないように注意してね!」
そして、運んだ黒ごまを巣の入り口付近に並べた。
まるで、大勢の軍隊がいるかのように見せかけるためだ。
次に攻撃の準備。
アリスとテレスは、仲間たちと協力して、巣への道の上にある木の枝に大きめの石を設置した。
「この石をサムライアリたちの頭上に落とすのよ!」
テレスは、木の枝に慎重に石を乗せながら言った。
「それに、少し離れた小川から水を引いてきて、せき止めておくよ」
アリスは、仲間たちと一緒に水をせき止める作業を進めた。
「これで準備万端!」
数日後、見張りがサムライアリの襲撃を察知した。
「サムライアリが来るぞ!全員、配置につけ!」
アリたちは、一斉に戦闘態勢に入った。
テレスたちは、木の枝の上に設置した石のそばに陣取り、戦闘アリたちは黒ごまと一緒に巣の周りを固める。
「みんな、落ち着いて。私たちの作戦は完璧だから!」
テレスは、仲間たちを励ますように言った。
「準備は万端。あとは彼らが罠にかかるのを待つだけだ」
アリスたちはせき止めたダムの所で、緊張しながらも冷静に周囲を見渡した。
そして、サムライアリたちが巣に近づいてきた。
ところが、サムライアリたちは、黒ごまで膨大な数に膨れ上がったアリたちを見て、怯んだ。
「な、なんだこの数は…」
サムライアリのリーダーは、躊躇した。
その隙に、テレスは仲間たちと共に、待ち構えていた大きな石を落とした。
石は、サムライアリたちの頭上へ隕石のように勢いよく降り注いだ。
サムライアリたちはパニック陥った。
ここで、アリスとテレスは仲間たちに合図を送った。
「今だ!水攻めよ!」
仲間たちは、せき止めていた水を一斉に放った。
水は、勢いよくサムライアリたちに押し寄せ、押し流していった。
再び水をせき止めて水が引くと、戦闘アリは一斉にサムライアリに突撃した。
「これは敵わん…、撤退だー!」
サムライアリのリーダーが叫ぶと、彼らは慌てて退却し始めた。
アリスとテレスは、サムライアリを撃退することに成功した。
「やった!勝ったわ!」
アリスは、喜びを爆発させるように叫び、テレスも安堵の表情を浮かべた。
「私たちの作戦が成功したのね!」
二匹は、勇ましい姿で女王アリの元に戻った。
女王アリは、サムライアリを撃退したアリスとテレスを、英雄として迎えた。
「よくやったわ、アリス、テレス!あなたたちは、私たちの誇りです!」
女王アリは、二匹を抱きしめた。
アリスとテレスは、初めて女王アリに褒められた。
「私たちは、まだまだ力不足だけど…」
アリスの瞳には、喜びと感動が入り混じっていた。
「これからも、みんなのために頑張る!」
テレスは、力強く頷いた。
女王アリは、アリスとテレスを、働きアリの隊長に任命した。
「あなたたちなら、きっと素晴らしいリーダーになれるでしょう」
アリスとテレスは、互いに顔を見合わせ、にっこりした。
二匹は、これからも力を合わせ、平和を守っていくことを誓った。
数日後、アリスとテレスは、女王アリに呼び出された。
「アリス、テレス。あなたたち二人は、今回の戦いで素晴らしい働きをしてくれました。 特に、アリスの奇抜なアイデアと、テレスの冷静な判断力は、私たちを勝利に導く上で欠かせないものでした」
女王アリは、二匹を褒め称えた。
「ありがとうございます、女王様」
アリスは、照れくさそうに言った。
「私たちも、みんなのお役に立てて嬉しいです」
テレスは、真面目な表情で言った。
「そこで、あなたたち二人に新たな任務を命じます。それは、まだ見ぬ土地を探検して、他の仲間と交流を深めることです。私たちの巣を守っていくために、もっと多くの仲間が必要です。あなたたちなら、きっと素晴らしい関係を築いてくれるでしょう」
女王アリは、二匹に期待を込めて言った。
「はい!頑張ります!」
アリスは、元気よく答えた。
「私たちに任せてください!」
テレスも、力強く言った。
二匹は、女王アリに別れを告げ、新たな冒険へと出発した。
「今度は、どんな出会いが待っているかな?」
アリスは、ワクワクした表情で言った。
「どんな困難が待ち受けているか分からないけど、二人ならきっと乗り越えられるわ」
テレスは、力強く言った。
アリスとテレスの冒険は、まだまだ続く。