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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

辺境伯である私の所に悪女と噂される令嬢がやって来るので全員で話し合った

作者: 黒澤 白

「んー」


「いかがなさいましたか、セドリック様?」


 辺境の屋敷に住む辺境伯セドリックが難しそうな顔をしているのを心配してその屋敷の執事長トマスが声を掛ける。


「トマス、これを見てくれないか」


「では、失礼します」


 セドリックが先程読んでいたと思われる手紙を受け取り内容を確認するとトマスも難しそうな顔をする。


「セドリック様、これは」


「お前もそんな顔をするか?」


「ええ、急ですから」


「どうしたものか」


「他の者達の意見も聞いた方がよろしいかと」


「そうだな、私一人だけでなくこの屋敷に住む者全員に関係するからな、トマス、至急皆を呼んでくれ」


「承知しました」


 それから少ししてトマスが屋敷にいる他の執事やメイドがセドリックのいる仕事部屋へと集まるのだった。


「皆、仕事をしているところ急に呼び出してすまない、だがこれから話すのはこの屋敷にいる者達全員に関わる事だ、聞いてほしいのは私の元に王都から手紙が来た、差出人は国王陛下だ」


 王からの手紙に執事もメイドも驚く。

 一体何があったのかと不安になっている者もいた。


「陛下からの手紙にはこう書かれている、この屋敷に一人の令嬢が来るそうだ、その令嬢の名は、ヘレン・リーフェンだ」


「セドリック様、ヘレン・リーフェンって噂になっているあの」


「そうだ」


 メイド長のマイヤーが聞くとセドリックは頷き、執事やメイド達も困惑する。


「ヘレン・リーフェンと言えば悪女と噂されている令嬢ではないですか」


「そうだ、その噂の悪女と言われている彼女がこの屋敷に来る」


「しかし、その令嬢は確か王太子の婚約者だったはずでは?」


 トマスが疑問を口にする。


「そうだ、そして一週間くらい前に婚約を破棄された、理由は彼女に問題があったそうだ」


 セドリックは手紙に書かれていたその理由を話す。

 簡単に言うとその令嬢が悪質ないじめを繰り返して、我儘で他人を見下し人格をも否定しさらには家族である義妹にまで悪質な事をして命の危険にも晒し、教養ができてすらいないなどが書かれていた。


「それで、そのヘレン嬢が私の所に来る事になったのだが」


「もしそうなら、王族は厄介払いをこの辺境に押し付けたと言う事ですか?」


「そうなるな」


「何て事ですか!! そのような問題のある令嬢なら自分達でどうにかしていただきたい!!」


 マイヤーは主であるセドリックに対する侮辱と捉えて怒りを露わにするがセドリックが落ち着かせる。


「まあ落ち着け、それでこの令嬢が明日こちらへ来る事になるのだが、正直どう対応すれば良いのかがわからない」


「悪女なら別に気遣う必要ないんじゃないですか?」


 メイドの一人、ファイが言う。

 彼女はハッキリと物事を言う性格である。


「こんな辺境にまで届くほど噂になってますし、そんな人にこっちが気遣う理由なんてないじゃないですか、雑に扱っても良いのでは?」


「でも、私達は噂しか聞いていなくて実際にその令嬢と会った事はありませんから、本当に悪女かどうかはわからないじゃないですか」


 メイドの一人、イスカが言う。

 彼女はファイと違って冷静に物事を考える性格である。


「何言ってるのよ、こんな辺境にまで噂が届いていて、しかも陛下がそう言ってるなら、もう決まりじゃない」


「でも、私達はその令嬢に実際に会って言葉も交わしていませんし、それに噂なんて当てにならないと言うじゃないですか」


「陛下が嘘をつく理由もないじゃない」


「何かの勘違いでそう見えてしまったと言うのもありますよ」


「あなた達!! セドリック様の前でみっともない喧嘩はやめなさい!!」


 二人が言い合いになっているとマイヤーが注意をして二人は黙る。

 ファイとイスカは意見が分かれるとこうやって言い合いになる事もある。


「まあ、確かにファイの言う通り悪女なら丁重に扱う必要もないが、イスカの言う事もわかる、私も噂しか聞いた事がなく実際に会ったわけではない、だからどのような性格をしている令嬢なのかもわからない」


「それならしばらく様子を見るって事で良いんじゃないですか?」


「そうですね、しばらく様子を見て本当に噂通りの令嬢だったらそれ相応の扱いをすれば良いですし」


「ファイとイスカの言う通りだ、それでは明日迎えるヘレン嬢がどのような人物かを見極めたいと思う、皆もヘレン嬢を見てどうするかを判断してもらいたい」


 セドリックの言葉に全員が頷きそれぞれの仕事場に戻って行く。


「さて、どうなるか」


「そのご令嬢が来てからでないとわかりませんね」


 トマスの言葉を聞きセドリックは不安でいっぱいだった。

 次の日、手紙に書かれていた通りに件の令嬢がセドリックの屋敷に到着しセドリックは迎え入れるために入口で待っていると、その令嬢が入って来た。


「やあ、よく来てくれたね、私がこの屋敷の主をしている、セドリック・スターリンだ」


「初めまして、ヘレン・リーフェンです、この度はご迷惑をお掛けしまして申し訳ありません、本日よりお世話になります」


 ヘレンが挨拶をするのを見ていた執事とメイドは早速、違和感を感じた。

 教養がなっていないと書かれていたが、普通に貴族令嬢としての挨拶ができていたからだ。


「長旅で疲れただろう? 部屋を用意してあるので今日はゆっくり休んでくれ」


「お気遣い感謝します」


 その日ヘレンは一日部屋でゆっくりして眠りにつくのだった。

 そしてその日の夜にセドリックの部屋には昨日と同じように屋敷の者達が全員いて話し合いをしていた。


「それで、お前達から見ての彼女はどうだった? 私は特に問題がないと思うのだが」


「正直に言いますと、本当に彼女があの悪女と言われていた令嬢なのかと思いましたよ」


「そうですね、教養がなっていないとありましたが、普通にできてましたし、私達執事やメイドに対しても気遣いをしてましたし」


「そう、お茶用意しただけなのにお礼言われたし、我儘で傲慢じゃなかったのって言いたくなりそうだったよ」


 ファイとイスカが言ったように他の執事やメイドも同じ事を言う。


「私も同じですね、とても悪女とは思えない礼儀正しさでした」


 執事長のトマスもセドリックと同じだがメイド長のマイヤーは疑いの目を向けていた。


「確かに礼儀作法は問題ありませんでしたが、まだ安心はできません」


「それは、どうしてだ?」


「彼女がセドリック様に取り繕うと演技しているだけと言う可能性です」


「演技? 彼女がか? そんな風には見えなかったが」


「セドリック様、失礼を承知で言わせていただきますが、男性は女性の演技を見破るのが苦手なのです」


「そ、そうなのか?」


「はい、男性は簡単に騙されます、例えば嘘泣きなんかにコロッと騙されたりします」


「あ、それ何となくわかるかも」


「確かに、男性って簡単に騙されますよね、特に貴族の令息とか」


 マイヤーの言う事にファイとイスカも思い当たる部分がある事を思い出し他のメイド達も頷く。

 それに対してセドリックにトマスに執事達男性陣は居心地が悪そうな顔をする。


「とにかく、まだ一日目だから演技の可能性があるって事なんだな?」


 居心地の悪い空気を払うかのようにセドリックが言う。


「はい、しばらく様子を見た方が良いでしょう、演技をしているだけならどこかで必ずぼろが出ますので」


「わかった、それじゃしばらく様子見と言う事で、皆もそれで良いな?」


 セドリックの言葉に全員が頷くのだった。

 それから一週間くらいが経った頃、セドリックはヘレンをお茶に誘うのだった。


「ヘレン嬢、一週間経つが屋敷での生活はどうだろうか? 君の家に比べると劣る部分もあるかもしれないが」


「そんな事はありません、皆さんとても良くしてくれていますし」


「そうか、なら良かった、君も突然の事で驚いているのではないか? 私は驚いているよ、まさか独身の私の家に十歳も若い令嬢が来るなんて思いもしなかった、君はどうかな? 親でもなんでもない知らない男性と一緒に暮らすのは、不満ではないか?」


「いえ、そんな事はありません、私はここでの生活、とても楽しいです」


 そう言って浮かべるヘレンの笑顔をセドリックは美しいと思った。

 そして自分に取り繕おうと演技をしているとは思えなかった。

 それからは毎日のように一緒にお茶をするようになり、セドリックにとって彼女とのお茶は何よりも掛け替えのない時間になっていった。

 

 それから一ヶ月が経った頃。


「ヘレン嬢、少し私の部屋に来てもらえないだろうか?」


「それは構いませんが、よろしいのですか? 私がセドリック様のお仕事部屋に入っても」


「ああ、むしろ君に聞きたい事があるんだ」


「はい」

 

 真剣な顔をしているセドリックを見てヘレンはセドリックの仕事部屋に入るとそこには既に執事やメイドがいた。


「あの、セドリック様、これは?」


「とにかくまずはそこに座ってくれ」


 セドリックに言われてヘレンは座る。


「ヘレン嬢、実はここ一ヶ月くらい私達は君の様子を見させてもらったんだ」


「私の様子、ですか?」


「ああ、君は自分の噂については知っているか?」


「そう言う事ですね、はい、もちろん存じております」


「そうか、実は陛下から君が来ると言う手紙を貰った時にこのような事が書かれていたんだ」


 セドリックはヘレンに手紙を見せる。


「このような事が書かれていたのですか、それなら私の様子を見るのも仕方ありません」


「やはり君は賢い、この手紙に書かれている事は全くのデタラメだと言う事がよくわかる、そうだろマイヤー?」


「はい」


 マイヤーが前に出てヘレンに頭を下げる。


「ヘレン様、私はあなた様が旦那様に取り繕おうと演技をしているのではないかと疑い、ここ一ヶ月様子を見て難しい仕事をさせてみてはいかがかとセドリック様に提案したのです」


「難しい仕事ですか? 私は特に難しいとは思いませんでしたが」


 ヘレンは確かに仕事をしていたが難なくこなしていた。

 マイヤーはもしヘレンが手紙に書かれている通りの人物なら難しい仕事などできるはずがないと思いヘレンに教育ができていなければできない仕事をここ一ヶ月でヘレンにやらせてみてはとセドリックに提案したのだ。

 ところがヘレンは難なくこなしていたのでマイヤーも演技ではないと確信したのだった。


「教養ができていないと書かれていたのにあの仕事を難なくこなすヘレン様が演技をしているだなんて思えません、例え演技だったとしても一ヶ月もぼろを出さずに演じるのは難しい、ですのでヘレン様は教養がしっかりできている御令嬢だと確信しました、メイドと言う立場でしかない私が試すような真似をしてしまい申し訳ありませんでした、お許しください」


「あの、頭を上げてください、こんな内容の手紙だったらセドリック様を守るためにするのは当然です、私は特に気にしていませんので」


 マイヤーが頭を下げるのをヘレンは慌ててやめさせる。


「やはり、所詮噂は噂でしかなかったと言う事だな、そこでヘレン嬢に聞きたい事がある、何故君は悪女と噂されている?」


「わかりました、お話します」


 ヘレンは自分の身に何が起きたのかを説明する。

 彼女の話によるとこんな感じであった。

 二年前に母が亡くなり父が新たな女性と結婚してその女性には娘がいてヘレンの義妹にあたる子だった。

 しかしそこからおかしな事が起きた。

 何故か義妹の言う事を父がよく聞くのであった。

 父だけでなく執事やメイド達も何故か彼女の言う事を聞き、いつの間にかヘレンが義妹をいじめていると言われるようになっていた。

 義妹が学園に入ってからもマナーがなっていないのに何故か周りは注意すらしないどころか何故か義妹の味方をする態度を取り、ヘレンが何故か義妹をいじめていると思われるようになった。

 その話を婚約者である王太子も何故か婚約者であるヘレンの話よりも義妹の話を信じてヘレンを責めるのだった。

 そして卒業式のパーティーで何故か身に覚えのない罪に問われて、しかも国王陛下や王妃までその話を信じるのだった。

 そして追放されて彼女は今セドリックの所にいるのだった。


「な、何だその話は」


 ヘレンの話を聞き終えたセドリックはあまりにもありえない内容に唖然とする。

 それは他の者達も同じだった。


「ヘレン嬢の話が本当なら、教養がなっていない義妹の話を信じるなんてどうかしてるとしか思えないぞ」


「はい、しかもその義妹が何故か私の代わりに殿下の新たな婚約者となりました」


「それを陛下と王妃は良しとしたのか?」


 セドリックの問いにヘレンが頷くとセドリックは片手で頭を押さえる。


「ありえない、私は陛下と王妃とお会いした事があるが、そんな愚かな事をする方達ではなかった」


「私も同じです、あの方達が義妹の事を認めるなんておかしいと思いました、ですが事実です」


「何が起きているんだ」


 あまりにもありえない話だと思うがセドリックにはヘレンが嘘をついているようには思えなかった。

 だがそれでも信じられない話だった。


「あのー、ヘレン様、いくつかよろしいでしょうか?」


 話を聞いていたイスカがヘレンに問う。


「はい、どうぞ」


「身に覚えのない罪を言われた時、ヘレン様に味方した人はいなかったのですか?」


「はい、誰も信じてくれませんでした、親も友人も執事もメイドも、誰も」


「なるほど、その信じなかった人達はヘレン様とは仲が良くなかったのですか?」


「いえ、お父様も私を愛していましたし、仲の良かったメイドも何人かいましたし、学園にも仲の良かった友人もいました」


「では、ヘレン様が疑われた時、その人達は最初からヘレン様を犯人だと信じて疑わなかったのですか?」


「はい、違うと言っても誰も信じてくれませんでした」


「それって、おかしくないですか?」


「え?」


 イスカの言葉にヘレンは首を傾げる。


「ヘレン様と仲が良かったのなら、最初から信じないのはおかしいですよ、証拠も何もなくただ証言だけだったんですよ?」

 

「確かに、仲が良かったなら最初は否定するはず、ヘレン様がそんな事するはずがないとか何かの間違いだとか言ってヘレン様の無実を主張するはず、証言だけでまだ可能性の段階なら尚更無実を信じるはず」


 イスカとファイの言葉を聞いてセドリックもヘレンもハッとする。


「確かにその通りだ、だとすれば皆がヘレン嬢を信じないのにも何か理由があると言う事か」 


「そう言えばヘレン様、新しい妻と義妹が来てから周りの人達の様子がおかしくなったとおっしゃいましたね?」


「はい」


 マイヤーの問いにヘレンは頷く。


「そして皆が義妹に味方するようになった点を考えると、その義妹が何かしたと考えるのが自然かと」


「なるほど、トマス、これらの話で何か思い当たる事はあるか?」


 セドリックはトマスに問う。

 トマスは現在執事長をしているが元魔導士であり魔法などの類には詳しいのである。


「一つだけ思い当たるものがあります、魅了と言われる精神に干渉する類のもので魅了された者はその者の頼みなどを何も疑問を感じずに聞くようになります、これの厄介な点は操られていると言う自覚がないと言う事です」


「そんな恐ろしいものが存在するのか、では聡明な陛下や王妃、それに他の貴族達が全員マナーもなっていないヘレン嬢の義妹に味方しているのも」


「おそらく魅了されて操られていると考えてよろしいかと思います、魅了と言うのはそんなありえない事も可能にしてしまう、強力な洗脳魔法なのです」


 トマスの説明に全員が恐ろしいと感じている。

 ヘレンも口に手を当てて信じられない顔をしている。

 まさか自分の義妹が父や母だけでなく家の執事やメイド達、さらには友人や婚約者、それどころか陛下や王妃まで洗脳するなど、バレたら完全に国家転覆の罪で死罪が確定するものである。


「ヘレン嬢、君の知り合いはもしかしたら洗脳されて君に酷い仕打ちをするようになった可能性がある、そこで君はどうしたい? このまま何もせずにここで暮らすのも良いし、もしくは」


「私は、もし皆が洗脳されているのなら、救いたいと思います」


 セドリックの言葉を最後まで聞く前にヘレンが言う。


「もし、あの子が国家転覆の気がなかったとしても、それでもあの子が王妃になってしまえば、この国は本当に終わってしまいます、ならばそれを止めるのが姉である私の役目です」


「そうか、トマス、魅了を解く方法はあるのか?」


「魅了を解く方法は使った本人が自ら解く以外に方法はありません」


「と言う事は義妹を捕らえる必要があるが、義妹に会った時点で魅了を使われたら終わりだな」


「それならご心配いりません、魅了が掛けられた後なら無理ですが、掛けられる前なら対処する方法があります」


 そう言ってトマスは指輪を取り出す。


「この指輪は魅了などと言った精神に干渉する類のものを倍にして相手に返す効果があります、これを使えば魅了の力を倍にして相手に返す事ができます、そして返した場合洗脳の類ならこの指輪の所有者が代わりに命令する事ができます」


「そうか、それと運が良い事に実は陛下から来るようにと手紙が来ている、殿下も一緒にいるからおそらく婚約者の義妹もいるはずだ、これで何とかなるかもしれない」


「ですが、一つ問題がございます」


 トマスが気まずそうな顔をして続きを話す


「もし、魅了が解けた場合、魅了されていた者達は魅了されていた時の記憶が残るのです、つまり、正気に戻った場合、ヘレン様にして来た酷い仕打ちを一生記憶に持って生きて行かなければならなくなります」

 

「そうか、ヘレン嬢と仲が良かった者達はその罪を今後も背負っていかなければならないのか、ヘレン嬢、君はどうしたい? 記憶が戻ったら君と仲良くしていた者達はきっと君に謝罪するだろう、家族ならまた一緒に暮らそうと言うかもしれない、そうなった時、君はどうしたい?」


「私は」


 ヘレンの意思を聞いてセドリックはヘレンの意思を尊重する事にしたのだった。

 

 それから王城に呼ばれたセドリックは王と謁見する事になり、話をしている途中で同席していたヘレンの義妹が悲鳴を上げる。

 トマスから渡されていた指輪をしていた事でその指輪が発動して義妹にその力が倍になって返って来たのだ。


(まさか、何の躊躇いもなく使うとは、ヘレン嬢と違ってなんて強欲な女なんだ)


 内心でセドリックはヘレンの義妹を蔑んだ後、義妹に向かって魅了の力を全て解けと命じ、義妹は今まで使っていた魅了の力を全て解くのだった。

 そして王や王妃に王太子、そして多くの貴族やその令息、令嬢達が混乱してセドリックが落ち着かせるのだった。


「王都も今は落ち着いたようですね」


「ああ、そして今日もたくさんのヘレン嬢への謝罪の手紙が来ているが」


「いつものように取って置いて、ヘレン様が読む気になったら読まれると言う事でよろしいですね」


「ああ」


「申し訳ありません、セドリック様」


「気にしなくて良い、君だって心を落ち着かせる時間が必要だから」


 あれから数日が経過し義妹は国家転覆の罪で死罪となり今はその日が来るまで牢屋で厳重に幽閉され魅了が使えないように施されている。

 ヘレンの父親は娘にして来た仕打ちが記憶に残りそのショックで立ち直るために時間が必要であり今は療養している。

 しかし義母の方は相当なショックを受けて寝込んでいる。

 ヘレンにした仕打ちもそうだが、それよりも愛情を持って育てた実の娘に洗脳されていたと言う事実の方がショックは大きかったようである。

 王太子は魅了が解けた途端ヘレンに謝罪と再び婚約をしたいと言う手紙を送るが、元々二人の仲はそんなに良くなかったのもあり、何よりヘレン自身が会う気がないと言うので二人の婚約は戻す事もなく現在新しい婚約者を探しているが中々見つからないようである。

 ヘレンと仲の良かったメイドや友人もヘレンに謝罪の手紙を送って会いたいと書かれているが、ヘレン自身も洗脳されていたとはいえ自分に対して行った仕打ちを思い返すとどうしても簡単に許す事ができなかったため、ヘレンも落ち着いて考える時間が必要と考えて現在は謝罪などの手紙はヘレンには読ませずセドリックが預かる事になっている。


「ヘレン嬢、落ち着くまではここにいると良い、落ち着いて謝罪を受け取って会いたいと思ったら私に言うと良い」


「ありがとうございます」


「さてと、後は君の婚約者を新たに探さないとならないな、婚約が解消されて君と婚約したいと申し出て来る家がたくさんあるのだが」


「あの、それでしたら」


「どうした?」


 セドリックが問うとヘレンは顔を赤くして答える。


「あの、セドリック様、セドリック様が私の婚約者になっていただく事は可能ですか?」


「え?」


 二人の新たな関係がこれから始まる予感がするのだった。

 


 






 


読んでいただきありがとうございます。


悪い噂があっても本当かどうかはわからない、関わる事になるのならちゃんとその人を見るのが大事と言う感じで書きました。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 純粋に気になるのは王宮に魅了に対する脅威を感じる人や知識を持った人はいなかったの?辺境の執事が知っていて魅了無効だか反射だかのアイテムを入手出来ているのに仮にも王族が、そういったものを…
[良い点] セドリックが冷静で噂に惑わされないしっかりした人物だったのがよかったです。話も面白かったです。 [一言] よく魅了されていたからと言って簡単に許す物語ありますが普通は許せないですよね。
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