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下校


 なんとなく、今日の授業のおかげで、みんな恋愛にいつもより前向きになった気がする。

 もともと男女の仲が悪かったわけではないが、いつもより男女で会話している。

 変な心のブレーキがなくなったのかもしれない。


「今日は、このあたりで授業おわりましょう」


 先生はいつもより早く授業を切り上げた。

 学ぶことよりも愛が大切だとでもいうように。


「では、帰り道はペアで手をつないで下校してください」


 ホームルームは先生のとんでもない言葉で締めくくられた。


 戸惑う僕らは顔を見合わせる。


「はあ?」


「先生なに言っての?」


「今日はちょっと、お腹いっぱいというか」


 あちこちから戸惑いの声が上がる。

 クラス中に、衝撃がはしりまくる。

 つまり、愛の授業は終わってなかったということなのだろう。


「帰るまでが授業です」


 まるで『帰り着くまでが遠足』みたいな言い方だった。


「男の子は、女の子の家の前まで送ってから、自分の家に帰るように」


 下校でエスコートの仕方を学べということらしい。


 まあ、下校中は先生がずっと見張っているわけではないし……。


 多分、みんなそんな感じに考えているのが、見てとれた。


「どこでヴァンパイア様が見ているかわかりません。授業とはいえ、処刑されたくなければ必ず繋ぐように」


 僕らの気持ちを察したように、先生が釘を刺した。

 

 きっちり命は鎖につながれている。


 恥ずかしいなんて言い訳した日には、殺されてしまうなんて、理不尽にもほどがある。


 みんな、おずおずと授業でペアになった相手と手を繋いでいく。


「しかたねぇな」


「そうね」


 ガリオとフェイルの二人も、恐る恐る手を繋いでいる。

 先生は、さっきのペアとは言ってなかったことに、二人は気づいてない。


 二人は顔を真っ赤にして手を繋いでいる。


 見渡すと、僕とメメリ以外は、先生の言葉に順応していっていた。

 今までの反動なのか、恥ずかしそうではあるが、みな幸せそうだった。

 愛こそがすべてだとでもいうように。


 牢獄に適合した心の進化なのだろう。


 僕は、そこまで思えなかった。

 つまり、僕はこの地での劣等種ということなのだろう。


 ほとんどのクラスメイトが手を繋いだのを確認すると先生がさらに言った。


「できるだけ、寄り道するように」


 するように?


「していいんですか」


 僕は、思わず聞き返した。


「しなさい」


 命令ですか。

 当然拒否権はない。


 僕は、いつもより、生き生きとしているクラスメイト達を横目に、メメリちゃんに近づいた。

 メメリちゃんはみんなの様子を楽しそうに眺めている。


 僕に気づくと、誘うような視線を向けてくる。


「僕らも、帰ろうか」


 にっこり笑いかけてくれる。


「ごめんね。反対方向なのに」


 長の家は、普通の集落とは真逆の方向にある。

 

「謝らなくていいよ。授業なんだから」


 僕がそういうと、上機嫌な表情から少しムッとした顔になった。

 義務感ぽく言ったのが、お気に召さなかったらしい。


「そっか、なら私を帰りながら口説いてみて」


 そんな無茶ぶりをしてくる。


「先生の指示は、手を繋いぐことだけで」


「私は、長の娘、ヴァンパイア様にだって会ったことあるんだから、口説いてくれなきゃ、手を繋いでくれなかったって言っちゃうぞ」


「それ脅しだよね」


 クスクスと笑っている。

 ちょっと冗談にしてはきつくないだろうか。


 僕はゆっくりと、差し出された手を、握り返す。

 メメリちゃんの手は、信じられないほど柔らかくて、想像していたよりも、ずっとずっと冷たかった。

 

「手冷たいね」


「それ口説いてる?」


 メメリちゃんが、非難したように言うので、僕は慌てて言葉を重ねた。


「手が冷たい人は、心があったかいんだって」


 メメリちゃんは、空いてる手を可愛く口に当てて考える。


「それはちょっといいかも。60点」


「ギリギリ合格かな。厳しいね」


 赤点じゃないだけ、ましかもしれない。


 まだ、商人との約束まで時間はある。

 どうせ、今日限りなのだから、頑張れるだけ、頑張るのがいいのかもしれない。


 いつもより自分の心臓の鼓動が早くなっているのをごまかしながら、そんなことを思った。


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