6、協会長ハンマー
その後はオーク達が襲ってくる事も無く、オークロードの魔石と斧を戦利品として持って帰った。
階層の入り口から出る時の数字の表示が『60』を示していたので、結構深くまでチェンジされたんだなーとアースは考えていた。
ハーツとユリシスは、あの揺れが階層チェンジだとは分かっていないだろう。
「アース兄貴、とりあえず俺のクランリーダーに会ってくれよ!」
迷宮の入り口である冒険者協会の部屋へ戻って来た時、ユリシスはアースにそう言った。
「ユリシス!!!お前たち無事だったのか?」
「タン!」
アースが答えるより早く聞こえてきた声に反応したユリシスだったが、恐らくは迷宮で逸れてしまった仲間だろう。
「ツラミーにテールも!良かった、皆いなくなった時にはどうしようかと思ったよ!」
「ええ、私達も何が起こったのか分からなくて……。気が付いたら3階層の出口付近に飛ばされて、とりあえず一旦外へ出ようとここへ戻って来たのよ!」
「ハーツ、お前の服ボロボロじゃん?大丈夫かよ?」
それぞれに仲間が助かった事を喜んでいる。
「ねえ、この人は誰?」
「俺の兄貴だよ。アースって言うんだ!」
ユリシスの言葉で一斉に5人の視線がアースに集中した。
「アースだ、初めまして。ユリシスとは孤児院で一緒に育った仲でね。兄貴とは呼ばれているが、血は繋がってはいないんだ」
「そんな事はどうでも良いじゃないか!兄貴は俺のピンチに助けに来てくれたじゃないか!なあ、ハーツ、そうだろ?」
ユリシスは同意を求めてハーツの顔を見る。
ハーツも腕組みしながら、うんうんと首を縦に振っている。
「それは間違いねえな。その人が来なかったら、俺もユリシスも『オークロード』に殺られてのは間違いねえもんよ~」
「「「「オークロードーー!!!!」」」」
冒険者協会にその声は大きく響いた。
建物の中に居た人々の視線は間違いなくこの場所に集中している。
「ユリシス、まずは魔石を換金して此処を出ようか…?」
カウンターに向かって歩き出したアースの前に背の大きな男が立ち塞がる。
「兄ちゃん、ちょっとさっきの話しについて詳しく聞かせてくれねえかな?なあ?」
「大した話しじゃないですよ?」
「それでもさ?ここじゃあ何だから、こっちへ付いて来てくれ。茶くらいは出すからよ?」
「はい、分かりました」
アースとユリシス含む5人は謎の男の後に続いて、ぞろぞろと付いて行った。
5人は顔を青くしてビクビクしている。
「ここだ、入ってくれ!」
「お邪魔しま~す」
アースが一番にその部屋に入って行くと、一人の女性が書き物をしていた手を止め立ち上がった。
「あらこんにちわ!どうぞ、その辺に座って!」
「おいスパーナ、こいつらにお茶を入れてやってくれ」
「はいはい」
スパーナと呼ばれた女性は、そう言って扉を開けて外へ出て行った。
ソファに座ったアースだったが、両隣りにハーツとユリシスが座ったので、残りの3人はソファの後ろに立っていた。
「悪いな、全員が座れるほど大きくなくてよ。そんなに時間は掛からねえ筈だからよ!」
その男は大きな体をドカッ!と椅子に下ろして、ふーっと一息着いた。
カチャと扉が開いて先ほどの女性が、トレイに紅茶を人数分乗せて戻って来た。
「あ、緊張しなくても良いわよ?体が大きくて怖い顔しているけど、彼はこの冒険者協会の会長なのよ。多分何も知らされずに連れて来られたんでしょ?」
「ええ、その通りですね。良く分かりましたね?」
「そうね。いつもの事だもの!この人、学習能力無いのよね!」
プゥー!!とアースの後ろで吹き出す声が聞こえる。
アースも笑ってはいけないと思ってはいたが、顔が少し緩む。
「スパーナ、もう少し言い方を考えてくれ。仮にも会長に対して『学習能力が無い』は無いだろう?会員やクランの奴らに示しがつかんではないか!」
「あら?ホントの事だもの!それとも私が悪いのかしら?」
「あー分かった分かった、俺が悪かったよ!」
会長はお手上げだと言わんばかりに、肩を竦める。
「改めて…俺の名前はハンマー。このグールナットの冒険者協会の会長だ。彼女は副会長のスパーナ。覚えておいてくれ」
「よろしくね!貴方たちは…確か、ビービーキューのクランメンバーだったかしら?」
ハンマーの隣りに座ったスパーナがユリシス達を見てそう言った。
俺以外の5人は首を縦にコクコク振っている。
「でも貴方は知らない顔ね。新しいクランメンバーかしら?名前をお聞きしても?」
「アースと言います。この街に戻って来たばかりですが、前は王都で冒険者をやってました」