2、故郷の変化
アースが生まれたグールナットは王都から歩いて2週間は掛かる。
しかし、アースは3年前にも一人でその道のりを歩いたので問題無いと思っていた。
「いやぁ、おじさんありがとう!!オルーフェンまで乗せて貰えるだけでも嬉しいよ!」
「良いって事さ。荷物を積むのも手伝って貰ったしな!旅は道連れってヤツだな」
運良く次の町まで行く荷馬車に乗せて貰えた。
荷物の量はそれほど多くないが、樽に入った何かの液体なので重い。
アースが見かねて積み込むのを手伝ってやったら、乗せてくれる事になったのだ。
「兄ちゃんは冒険者か?何処まで行くつもりなんだ?」
「グールナットへ。生まれ故郷なんだ」
「ほ~そうかい。こりゃまた、遠い所まで帰るんだな」
そうして御者をしているおじさんの後ろの荷台に座り、たまに会話をしながら馬車は進んで行った。
「ありがとうおじさん!ホントに助かったよ!」
「ああ、兄ちゃんもこの先気を付けてな」
オルーフェンまでは3日掛ったが、道中は特に何事も無かった。
王都に近いという事もあってか、盗賊たちもあまり居ないみたいだった。
そんな感じで特別急ぐ道のりでも無かったが、10日ほどで故郷のグールナットへ着いた。
何故か3年ぶりに帰った故郷は、人で賑わっていた。
「あれ、こんなにたくさん人が居なかったのに…」
寂れた田舎町がいつの間にか大きな街へと変貌していた。
かつてアースが暮らしていた孤児院はどうなっているのだろう?
何となく早足で孤児院へとアースは向かっていた。
「な、なんだよ!あれは?」
アースが目にしたのは、貴族の屋敷も真っ青の大きな建物だった。
一瞬、自分は全く違う所へ帰って来てしまったのかと思ったが……。
その建物から見覚えのある女性が出てきた。
「パインさん!」
「………アース?ああ、すっかり大人になって!!」
アースが声を掛けるとパインは門を開けてくれた。
そしてそのままハグしてきたパインをアースが受け止めた。
「もう、勝手に出て行ってしまって……。みんな凄く心配していたんだから!」
「はは、ごめんごめん!」
何も言わずに出て来てしまった事を今更思い出したアースだったが、それよりも屋敷の方が気になったのでパインに聞いてみた。
「それよりもさ、この屋敷は何?なんであの孤児院がこんな屋敷になってんの?」
「もう、3年ぶりに会ったのに感動の再会くらいしてよね!プンプン!」
相変わらずの天然振りだとアースは何だかホッとした。
「ほら、ちゃんと生きてたんだから良いじゃない?」
「確かに死んでたら会えないけど……まあいいわ。とりあえず中へ入って。詳しくはそこでお話しします」
パインの後ろから屋敷へ入ったアースは更にビックリした。
外観も凄かったが、中はもっと凄かった。
完全に侯爵か何かの屋敷だった。
「町に人が多かったでしょ?実はこの町にも迷宮が出現してね、私が最初の発見者だったの。でね、迷宮発見者という事でたくさんの報奨金が出たから、このお屋敷を建てたの!」
「この町に迷宮が?そうなのか……。しかし、孤児院にしては立派過ぎないか」
諦めたはずだったが、その言葉を聞いて胸の奥が少し疼いていた。
パインはその迷宮をどうやって発見したのだろうか?
「そうね、でも良いじゃない!ところで、アースくんは今までどこで何をしていたのかな?」
「俺は……」
中々言葉を言い出せずにいると、奥から子供たちが出てきた。
「いんちょうー!腹減ったー!!」
「ハラへった!」
一番後ろから出てきた少女がアースの姿を見て立ち止まった。
「アース……兄ちゃん?」
「よう!元気だったか?チェリー!」
ダッ!!っと走り出したチェリーはアースの胸に飛び込んだ。
「アース兄ちゃん!バカバカバカ……!何も言わずに出て行って!僕たちがどれだけ心配したと思ってるんだよー!!」
「おお結構大きくなったなチェリー。みんなの面倒見てるんだな、偉いぞ!」
「なに言ってるんだよ、このおバカ兄貴!!」
チェリーは泣きながらアースの胸をポカポカ叩いていた。
「チェリーは皆のお姉ちゃんよ。ユリシスと一緒に子供たちの面倒を見てくれてるわ」
「ユリシスが?そうなのか、あいつもそんなに成長したのか……」
とりあえず自分が育った場所が残っていて良かったと、胸を撫でおろすアースだった。