1、限界みたいです
コメディです。
深い内容は求めないで下さい(笑)
「アース!!お前、今日でクビな!!」
「えっ?なんで?」
クランハウスにアースの声が響き渡る。
「はぁ?なんで、だと?お前、自分がどれほど役に立ってないか自覚してないのか?」
クランリーダーのブラックにそう言われ、アースは立ち尽くしている。
「このクランの初期創立メンバーとして何とか3年我慢してやったが、もう無理だ!これ以上は待てねえ…それにな、新しく入って来た後輩どもに示しが付かねえんだよ!!」
(そういう事か……)
アースは分かっていた。自分がこのクランでほぼ役に立って無い事など。
「お前とこの王都で出会ったのは縁だ!間違いねえ!持つスキルも珍しいし、器用に何でもこなすお前に、皆弱い頃は世話になった。頭も良い……だがな、俺達もあの頃の俺達じゃあねえ!初期メンバーで一番ジョブレベルが低いブルーでも、もう既にレベル42になった。お前はスキルレベルは1のままだし、ジョブレベルに関してはまだ3じゃねえか?なあ、もう無理なんだよ!」
ブラックは一気に捲し立てる様に言ってから、ドカッ!と椅子に腰を下ろした。
「これは気持ちばかりの餞別だ。お前との冒険は楽しかった、俺はそう思ってる。アース、お前は違う道で頑張りゃ良い。冒険者には向いてなかった……それだけの事だ」
ドサッ!と金貨の入った布袋をテーブルに置いて、ブラックは部屋を出て行った。
「じゃあな!」
ブルーやホワイトは、チラッとアースの顔を見て同じ様に部屋を出て行った。
壁際で腕を組んでブラックの話しを聞いていたレッドが、アースの肩に手をやる。
「アース、ブラックの気持ちも汲んでやってくれ。クランを運営するというのは金が要るし、他人の人生の責任や上からの圧力にも耐えなければいけない。お前が憎い訳じゃないんだ」
「そんな事は分かっているさ。それに自分の実力は、自分が一番知ってるさ…」
アースはテーブルに置かれた布袋を自分のバッグに入れた。
「じゃあ…レッド。世話になったな」
「ああ、お前も元気でな!」
クランの副リーダーであるレッドもアースには思うところがあったのだろう。
ブラック率いるクラン『カラーズ』はこの3年間でパーティー数6つ、30人を超えるクランに成長していた。
レベルが上がらないとは言え、一緒にやって来た仲間が冒険で死ぬのを見るのは嫌だ。
アースは面倒見が良かったので、クランメンバーには結構好かれていた。
この世界の各所には迷宮都市が存在している。
『迷宮の存在する所に都市が出来てる』と言った方が正しいのかもしれない。
冒険者たちはその迷宮に湧いている魔物を倒し、未だ発見されていないお宝に心躍らせては、日々迷宮の奥底へと探求の歩を進めていくのだった。
人々は皆、15歳になると神託でジョブの恩恵に与る。
その際スキルを1つ貰えるのだが、自分の欲しいスキルが貰えるとは限らない。
冒険者になりたいのに料理のスキルだったり、ジョブは料理人なのに得たスキルは走るのが早くなるスキルだったりと、それは中々に人生を大きく左右するモノなのだ。
「結局、俺のスキルは全く成長しなかったなぁ…。さて、何処へ行こうか」
アースのジョブは『気功整体師』という一風変わったものだ。
ジョブの恩恵としては、魔力を使用せずに他人の体の調子を整える事が出来る。と云うもの。
ただ、本当に『整える』だけなので戦闘時には全く使えない。
授かったスキルは『硬化不硬化』。
簡単に言えば、物の硬さを自由に変えられるスキルだ。
しかしスキルの発動条件が、硬さを変えたい目標物に『手を触れている』必要がある。また、柔らかくするにしても硬くするにしても、持っている魔力の最大値以上の効果は発揮出来ない。
そして発動範囲も指定出来ない。
ジョブレベル42のブルーの魔力は267あるが、アースの魔力はたった23しか無かった。
ブラックが無理だ!と言った理由は痛いほど身に染みていた。
それでも何とか冒険者としてやっていけないかと、鍛錬もずっと続けてはいたものの……。
弱い魔物しか倒せず、ジョブレベルもほとんど上がらなかった。
やはり自分のジョブでは冒険者を続けるのは難しいのか…。
「少し遠いけど、町に帰るか。そこでマッサージ屋でもやって暮らせば良いか…」
アースは生まれ故郷であるグールナットへ行こうと歩き始めた。