赤い百合
グロテスクな表現、ガールズラブ、バッドエンドが許せる心の広いお方は、どうぞご覧下さい。
また、久し振りの投稿の為、拙い表現があり、分かり難い部分があるかもしれません。予めご了承下さい。
わたしの名前は、佐藤 麗美、17歳、高校2年生。
今、わたしは叶えたい事が一つある。
彼氏が欲しい!!
単純だけど、難しい。なぜなら、女子校には出会いがない。
そう、女子校だ。男子と出会い、話し、見る機会が、極端に減るのだ。
高校2年生の現在、周りが百合百合しだした。手つなぎ、ハグは当たり前、バストタッチやポッキーゲームを平然と人前でやる。
わたしが毒されるのも時間の問題だろう。というか、大分毒されている。
押しが弱いわたしは、正直、告白されたら押し切られる自信がある。
取り敢えず、自分磨きの為にダイエットを始めた。ダイエットすれば、自分に自信が付いて、流され難く、なると思ったからだ。
それに、クッションポジション(抱き心地が良いと、抱きつかれる。恐らく、太っているのが原因)では、いつ百合展開になるか分からないから。
っあ、言っておくけど。わたしが好きなのは、わたしが好きになった人、そして、わたしを好きになってくれる人だけだ。
なら、女の子もいけるの?
そう聞かれても、仕方ない。でも…
……女の子を好きになりたくない。正直、偏見が有ることは分かっている。
…それでも、わたしはわたしの王子様を見つけたいのだ。
根っこの部分に、平凡から逸脱するのが嫌だ、という思いが有る事は、否めない。
だけど、少なくとも王子様を見つけたいのは、本当だから。
物語の王子様ではない。わたしだけの王子様が、わたしは欲しい。
翌日、日曜日。わたしは髪をベリーショートにした。サッパリした。ベリーショートにすることで、わたしの頬の膨らみがより、顕になる。
後には引けない。
もう、痩せるしかない。
自分に追い打ちを掛けることで、わたしはわたしのやる気を出すことにしたのだ。
…意外と似合っている、という言葉は聞こえないフリをした。
なんやかんやありつつも、わたしは順調に痩せていった。
枢木 愛海は困惑していた。髪をベリーショートにして、どんどん痩せていく佐藤 美麗に対して。
「どったの、みーちゃん!髪切られたん!?」
「え?あぁ、うん。美容院に行ってね。」
「うにゅ!?病気したん!?」
「…え?美容院、散髪だよ。わたしが行ったのは、散髪。」
「あっ、なぁ〜んだ。み〜ちゃん、元気だったんだぁ〜心配して損したじゃんか、もう!」
「あははっ…」
「そいで、どしてショートに?意外と似合うじゃん!」
「あ、そう…なんだ。ありがと。何となく、だよ。」
「うにゅ……?」
枢木 愛海は、佐藤 美麗が不自然に言い淀む姿を見て、何かある、と確信した。そして、ピント閃いたのだ。
ーー失恋か!
枢木 愛海の脳内で、それは最後のパズルのピースがピタリと嵌まり、絵画が完成するように、シックリときた。
だから…ドンドンと痩せていく、枢木 愛海の姿が、ドンドンと病んでいるように思えた。だから必要以上に一緒に出掛け、昼食に誘う回数を増やしたのだ。
枢木 愛海の脳内では、佐藤 美麗は病んでいた。更に、食事を食べさせ、遊ばせる事で、自分のお陰で佐藤 美麗はメンタルを保てているのだと、勘違いしていた。
元々、枢木 愛海は思い込みの強い気質を持っていた。彼女の脳裏で描かれた妄想が、彼女にとっては真実だった。
佐藤 美麗は困惑していた。自分が痩せていく様が、そんなにも疎ましいのか、それともクッションポジションがそこまで惜しいのか。
わたしは枢木 愛海に休日、平日問わずに連れ出され、高カロリーの食事を強制される。
…正直、つらい。
もし、心配しているのならば、もっと健康にいい食事を取らせようと、する筈だ。
だから、彼女はわたしに痩せて欲しくないのだろう。
何故かは分からない。
だけど、彼女はわたしの友達だ。
友達を見捨ててはならない。最低限度の道徳だ。普通である為には、守らなければならない。
守らなければ、普通の人間にはーー王子様の隣に立つ、平凡なお姫様にはーー成れない。
大丈夫、高カロリーな食事を取っていても、わたしは緩やかに痩せている。この調子で行けば、4ヶ月後には目標体重に到達しているだろう。
枢木 愛海は焦っていた。佐藤 美麗に幾ら高カロリーな食事を取らせても、毎日という訳ではない。そのせいで、痩せている。
メンタル面もよく分からない。弱みを見せないようにしているのか、愚痴の一つも零さない。
悩みを聞いても、ぎこちない笑顔で、心配しないで、と言われるだけだった。
あたしなら、愚痴を聞いてくれるとなれば、一日中喋り通す自信が有るのに。
話せない程、嫌な事なのだろう。
そう思うと、もっともっと、連れ出して、もっともっと、大切にして、もっともっと守ってあげないと、とあたしは意気込んだ。
だって、み〜ちゃんは、あたしの大事なマブダチ!困ったときは、お互い様だって!
佐藤 美麗は焦っていた。自分が痩せるほどに、枢木 愛海の束縛とまで言える程の、お出かけと近状報告の強制が激しく成っていったからだ。
そこで、自分は思い違いをしているのではないか、そう思った。そして一つの可能性に気が付いた。
枢木 愛海は、わたしが好きなのだと。
だから、わたしがモテる事、つまり綺麗になることを嫌った。だから、取られないよう、束縛を強めた。
だから、わたしが不細工になるように、高カロリーな栄養価も少ない食事を取らせようとした。
突拍子もない考えなのに、当て嵌まる部分が多すぎた。
この日から、恐らくわたしは彼女を意識し始めた。
枢木 愛海は、鬱々としていた。どんなに努力しても、佐藤 美麗は太らない。
より正確に言えば、元の体型には戻らず、更に自分の束縛に慣れていっているのだ。
これは依存だ。良くない傾向だ。分かっている。
でも、もし手放してしまえば、次の日には佐藤 美麗と会えなくなってしまう気がした。
夜眠りにつくまで電話して、朝に安否確認の電話をかけるまでの、ほんの1分ほどが、怖かった。
ふと目を離した次の瞬間、彼女が死んでいるのではないか?テレビの中継で、自殺した女子高生として報道されるのではないか?
そんな妄想地味た考えを吟味して拭って潰して飲み込んで咀嚼している内に、本当にそうなる気がした。
瞳を閉じれば、彼女の死体が色濃く質量を持って黒々と浮かんだ。
あぁ、と。手を伸ばした先に、生きている彼女がいて、安堵する。
安堵する。
安堵する。
安堵する。
安堵する。
安堵する。
安堵する。
安堵する。
安堵する。
安堵する。
安堵する。
安堵する。
安堵する。
安堵する。
安堵する。
安堵して……あたしは彼女から離れるのが、泣き出したいほど恐かった。
佐藤 美麗は安堵した。やっと、自分の理解者が出来たことに。
元々、わたしは普通じゃなかった。だから、異常な自分を隠すために、普通を演じて、個性的な友人を隠れ蓑にする事にした。
でも、駄目だった。やっぱり、異常を隠すことは出来なかった。
わたしを理解してくれるかもしれない、好きでいてくれる存在を、無視していられる程に、わたしは我慢強くなかった。
わたしは、枢木 愛海がわたしへ依存して来ていることに気が付いた。
枢木 愛海は、元から、わたしとなら、付き合っても良いのに、と言っていた。
わたしは、その言葉を表面上は冗談だと流していたが、その実、気がついていた。
枢木 愛海に、無自覚だがその気持ちが有る事に。
それでも、異常を隠したかった。普通を演じて、普通に恋して、普通に家庭を持って、普通に死ぬ。そんな、平凡な当たり前を望んでいた。
だが、目の前にぶら下がった餌を前にして、わたしを愛しているが故に努力する枢木 愛海を見て、冷静を保てるほど、わたしは我慢強くなかった。
だから…わたしは、枢木 愛海を依存させるように振る舞った。わたしは枢木 愛海と違い、共感能力は低いが、頭は良かった。知識の悪用と人の顔色を伺うことには長けていた。
枢木 愛海はヤンデレの資質を持っていた。
あたしが病んでいく様を、望まれているのだと分かってからは。
あたしがみーちゃんが好きと自覚した後からは。
捨てられないようにトコトン自分を卑下した。
下げて、下げて、下げて、下げて……慰め、同情、憐憫、侮蔑、親愛、友愛、軽蔑、情愛、憎悪……何でも良かった。見つめてくれさえいれば、みーちゃんにあたしが映ってさえいれば。
だから、病んで、束縛、リスカして、病み垢の病んでるアピールも欠かさずに、全身全霊、愛されようとした。でも……
ーーあぁ〜あ。……あたしの勘違いだったわ。
佐藤 美麗は焦っていた。何故なら、ダイエットに成功した佐藤 美麗は、知らない先輩の女の子からキスされたから。
何より、その現場を病んでしまった、より正確に言えば、病ませた枢木 愛海が見ていたからだ。
走り去っていく枢木 愛海を追いかけるが、生憎わたしに体力はない。あれだけ病んだ枢木 愛海は選択することは、一つだけ。
ーー自殺だ。
重力のままに引きずられ、ブラリと手足を弛緩させる。V字型に食い込んだ縄に掛かる首の上には、精気のない枢木 愛海の青白い顔。
数秒にも満たない想像。なのに、吐き気を催すほどにリアルだった。
ーー駄目だ。コレは、駄目だ。わたしの理想に、孤独死の文字はない。
枢木 愛海は泣いていた。首釣用のロープと足台の前で。手首には、構って欲しくて付けた愛おしい傷痕が沢山焼き付いている。
優しくソレを撫で付けた後、あたしはロープに手を掛け、頭を入れる。台座を勢い良く蹴飛ばすと、あたしの体は重力に従って落ちた。
グッ、と首が閉まる。一瞬、嘔吐感に襲われる。首が痛い、視界がぼやける、酸素が薄い、世界が歪む。眩んで、霞んで、徐々に全てがぼやけていく中、手を包まれた気がした。
其方を見ると、確かに人肌とボヤケてはいが、愛おしい顔がある。
「……っ」
み〜ちゃん…と、声にならない声で、心底幸せそうに枢木 愛海は呟いて、彼女の世界は白く濁り落ちた。
佐藤 美麗は安堵した。間に合った、と。
「ありがとう。」
わたしは青白い肌で幸せそうに眠る枢木 愛海に心底からの笑顔を向けた。
「死ぬときは、二人一緒だよ。」
先程、スーパーで購入した業物の包丁の包装を破り捨て、キラリと鈍色に輝くソノ先端を、枢木 愛海の喉へ向け、刺す。
「…ヒュッ」
小さく、空気の漏れる音がした。これで、枢木 愛海は絶命しただろう。
愛おしい瞳で、枢木 愛海を見つめた後、徐に赤く染まった包丁をわたしへ向けた。
一瞬、鈍色の包丁に、自分の血潮に染まった顔が見えて、笑みがこらえ切れなくなった。
枢木 愛海の血だと思うと、途端に愛おしくなったのだ。
「一緒になろう。」
問いかけるように、語るように、眠りに誘う子守唄を歌うように、朗々と言葉を告げる。返事は求めていなかった。
枢木 愛海に刺したのと同じ位置へ刃先を向ける。シッカリと包丁を握り締め、刺す。
ビュッ!と血潮が吹き出した。佐藤 美麗は枢木 愛海の髪を愛おしそうに撫でていたが、やがて膝から崩れ落ちた。
遠くなる意識の中、笑顔のまま死んでいる枢木 愛海を最期まで佐藤 美麗は愛おしそうに見つめていた。
「本日未明、〇〇県〇〇市の集合住宅で、女の子二人が血まみれだと通報があり、警察では、自殺・事故の両面で捜査を進めています……」
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