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会計の棚にあったお金を奪った俺だったが、直後にまたもや来客が訪れた。
少女を先頭に謎のグループが話しかけてきたのだ。
「何やら悪さをしてる人物がいるって聞いたんだけど、あなたってことでいい?」
「うーん、たぶん人違いだと思うけどな」
「そんなことはないわ。逃げていく人から聞いたもの。一人の少年が人を殺してるーってね」
「なんだよ、そこまで知ってるならどう頑張っても俺が犯人ってことになっちゃうじゃないか。なんでわざわざ尋ねるような真似するんだよ」
「一応の確認よ、言葉もなしに攻撃するって人としてどうかと思うし」
「まぁそれはそうだね、でも君たちは何者なんだ? 俺は確かに人の持つべき人徳からは多少はずれている行為をしているのかもしれない。その自覚はあるよ。でもそれはひとえにお金が欲しいという純粋な気持ちからなんだ。そんな俺を止める資格が君たちにはあるっていうの?」
「何言ってるのか分からないけど、資格ならあるわよ。私たちは冒険者。冒険者は街の平和を守るために日々戦ってるの。ま、仕事って側面が強いことは認めるところだけど、街を脅かす化け物が出たら倒すのは、私達の当然の責務なのよ」
「それなら尚更わからないな。俺は化け物ではないよ、欲に踊らされる醜い一人の人間さ」
「人を殺すような奴が人間だなんて、笑わせてくれるわね。ま、化け物と会話しても仕方のないことだから、別になんだっていいんだけど。さ、それじゃとっとと駆除しちゃいましょうか」
そう言って少女は剣を構えた。
身の丈に合わない太めのロングソードだ。
背後の面々も思い思いに武器を構えている。
なるほど、どうやら本気で俺を潰しにきてるようだな。
「仕方ない、やるしかないか」
俺は槍を生じさせた。先程衛兵二人を撃沈させたものとどうようの魔法だ。
幾本もの槍が少女らに向かって飛んでいく。
少女らは面食らったような顔をしたが、何ができるわけでもなく槍たちに消し飛ばされていった。
槍攻撃を解除すると、そこにあったのは装備品の残骸と、血糊のベットリと付いた木の床や壁があるだけだった。
「えー、終わりか」
もしかしてあれなのか、俺のこの魔法はめちゃくちゃ強かったりするのか?
なんか紆余曲折あったが、いろいろなやつと戦闘できたってのはかなりの収穫かもしれないな。
「よし、これ以上追手が来てもあれだし、そろそろどっか行くかな」
「中の者! 動くなああ!」
するとまたもや外から男の野太い声が聞こえた。
ああ、次から次へとホント面倒くさいな。
もう空を飛んで逃げちゃおうかな、うんそれがいい、変に巻き込まれること何も意味を見出さない。ただ同じ現象がだらだらと続くだけだ。それを人は生きていると言わない。人は進歩がなくなった時点で死んでいるも同然なのだ。
「『大砲』」
俺は大砲を真上に向けて放った。
大きな穴が空き、人一人が余裕で通れるだけのスペースができた。
「『空を飛ぶ』」
俺は続いて空飛ぶ魔法を唱える。
わざわざ口に出しているのは、使う魔法が増えてきたゆえの混乱を防ぐためだ。
こうして魔法ごとに名称を決めておけば、頭の中で整理もしやすい。
ふわりと宙へ浮かんだ俺は、そのまま空へ躍り出る。
一応周囲をぐるりと確認してみれば、先程の数人単位では済まないような大勢の人間が、俺がいた店の周囲に集結しつつあるのが分かった。
なんだこれ、百人はくだらないんじゃないか、大げさだなぁ。
「待てこら! 何処へ行く!」
男の声が空にいてもよく響く。
まぁいうてもそんなに高度を上げてるわけじゃないからな。せいぜい二十メートルくらいかな。
ああ、これはもう逃げる判断をして正解だったかもな。
こんな大人数を相手にやってられない。
しかもことが大きくなればまだまだ増援は訪れるだろう。
区切りが全くなくなってしまう。
ということで、俺は連中らを無視して踵を返した。
どこか、そう、別の街に飛んでいくのだ。
そこで新たに仕切り直すとしよう。
「貴様! 顔は覚えてるからな! 指名手配して、地獄の果てまで追いかけてやる!」
その声で、ぴたりと移動仕掛けていた俺の体が止まった。
……え、顔を……覚えてるだと?
なんだ、どういうことだ、この距離で俺の顔を視認したということ? そんな視力があるのか? そこまで目が悪くない、寧ろ視力検査は良い方の俺ですら下に見える人の顔までは見通せないぞ。いや、でもここは異世界、飛び抜けた能力を持っている人物がいてもなんら不思議ではないか。
それに俺は店で複数の客に顔を見られている。
まぁそれがどうということもないだろうが、もし、万が一にも俺の存在が世界中に知られ、指名手配犯扱いされ始めたとしたら? 俺は当然窮屈な暮らしを余儀なくされるだろう。それはいただけない。俺は魔王討伐の準備を滞りなく完了する必要があるし、異世界の娯楽なんかもいろいろ振れてみたい。異世界らしいこともしてみたい。
それができなくなる可能性が今確かに存在するとしたら……
「潰すしか……ないのか」
この街を。
根こそぎ、俺の存在を知るもの、全てを、消し去る。
それしか……ない!




