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「ここだよ」


 宿に泊まることになった俺は、早速おばさんに部屋に案内されていた。


 部屋は階段を上がって二階の少しだけ歩いたところにあった。

 中を覗いてみる。

 広さは六畳ほどだろうか。

 クローゼットにベッド。ちょっとした椅子というか机というか何かちょこっと置けそうな家具。

 それくらいしかない非常に簡素な部屋だった。

 向かいに窓が一つあり、僅かな星明かりが差し込んできている。

 おばさんがカンテラを持ってるからまだなんとか見えているが、それがなくなれば殆ど暗闇に落ちてしまうことだろう。廊下を歩くときだって躓かないように必死だった。


「荷物はクローゼットに、ってアンタは持ってなさそうだから関係ないね。因みに金庫の類はないから、貴重品は肌身離さず持っとくんだよ」


 おー、ここが俺の部屋になるわけだな。まぁまぁな部屋じゃないか。あぁようやく落ち着けるわけだ……なんやかんやで歩きっぱなしだったし。おばさんがどこか行ったらとっとと寝るとしようかな。


「ありがとうございます。因みにお風呂はどこなんですか?」


「風呂なんてありゃしないよ、貴族の館じゃないんだ、そんなのどこの宿にあるってんだい」


「え……」


 ないのか、そんな……まさかこの世界のお風呂はすごく贅沢品だったりするのか? 俺はこう見えても風呂が大好きなんだ。風呂に入ることでこそその日の疲れを洗い流すことができる。風呂がない日々なんて、鶏肉のないチキンナゲットと一緒だぞ。


「体を拭いたいならオプションでタオルと湯を付けることだね」


「お姉さんはどうやって体を洗ってるんですか?」


 一応気をつかっておばさんとは言わないでおいた。


「ああん? あたしのことかい。はっ、分かりやすいお世辞は冷めるから止めたほうがいいさね。熟年者からの忠告だ」


「すみません……でも普通は風呂に入ってなかったら信じられないくらい臭いニオイがするはずですよね? でもお姉さんからは何も臭わないので」


「そりゃ香水を湿らせたタオルで拭ってるからね。そんなこと聞いてどうすんだい、とにかく、うるさくするんじゃないよ」


 そう言い残しそそくさとおばさんはどこかに行ってしまう。

 はぁ、マジかよ、風呂がないとかマジであり得ない。風呂ぐらい簡単に作れるだろ。穴掘って湯を入れればそれだけで完成だもんあんなの。よく昔の風呂とかもドカンの下で薪をくべて火を焚いてやってるじゃん、それすればいいんじゃん。でも結局あれも労力がいるのかなぁ。そもそもお風呂をそんなに重要視していない文化なのか……駄目だな、考えてもないもんはないんだ。


「……あれ? ここ異世界だよな? 火を起こすんだったら魔法を使えばいいんじゃ……」


 俺はそこに思い至った。そうだ、ここは日本じゃない、異世界だ。ということは魔法がある。


 ならば炎魔法かなんかを使って沸かせば圧倒的に楽なんじゃないか? 水も魔法で作ればいいし、風呂の器も土魔法的なので作れるだろ。でもそれをしないってことはそれだけこの世界に魔法使いが少ないということか。


「待てよ、魔法なら俺も使えるぞ」


 閃いた。

 俺が魔法を使って風呂を作ればいいんだ。

 これは完璧過ぎる案だな。

 全てが解決する。


 しかし俺は魔法を使う気は起きなかった。

 すごく眠かったからだ。

 お腹も大分減ってるけど、それよりもさらに眠さが勝つ。

 うん、今日はもうこのまま寝てしまおう。一日くらい風呂に入らなくたってなんとかなるだろうし、明日の朝になれば宿で朝ごはんを用意してくれるらしいからそれで胃も最低限は持つだろ。


「よし、いざ、ベッドイン!」


「何やってんだい」


 俺がベッドにダイブしていると、背後におばさんがいた。


「なんですか、急に恥ずかしいじゃないですか」


「ふん、これ置いてとくから使いな」


 おばさんは部屋に入ってすぐのところに桶と白いタオルを置いた。

 え、なんだ、湯気がたってるからお湯だよな? もしかしてだけどオプションってこと……? え、頼んでないんですけど、もしかして勝手に頼んだことにしてぼったくる気かこの宿屋!? そ、そんなこと許されませんよ!


「あ、あの、僕そんなオプション頼んでないんですけど……」


「ただのサービスさ、金はとんないから自由に使うといい」


「え……? いいんですか?」


「私らが沸かした分のあまりさね。ついでだから持ってきただけだよ、桶とタオルは貸出だからね、勝手に持って帰るんじゃないよ」


 そう言って鼻を鳴らし再び去っていった。

 ちょっと待って……これってもしかしてさっきお風呂の話をしてたから気を遣ってくれたってこと……? やばい、何その神対応。もしかしてあれなのかな、お姉さんって嫌々ながらでも言ったのが効いたのかな? 正直言っててキツかったけど、どんなお世辞でも言っとくもんなんだな。



 その後、俺はありがたくタオルをお湯で濡らし、体を拭った。

 まぁお湯は普通に熱く、意外と気持ちよかった。

 髪が洗えないのは残念だけど、そこはまぁ追々考えるとしよう。


 体もスッキリした俺は、早速ベッドで寝ることにした。

 ベッドは思っていたより固かった。

 例えるなら畳の上にシーツだけ敷いたみたいな感じだ。

 正直日本にいたときに使っていたものとは比べ物にならないくらいの代物だったが、この世界の標準はこんなものなのかもしれない。

 いつかお金持ちになってふかふかのベッドで寝てやるんだ。



 一応寝ている際、何者かの襲撃にあったりするかもしれないと不安がよぎったので、寝ている俺に触れてきたものは容赦なく高圧電流が流れるような魔法をかけておいた。



 トイレは廊下の突き当りにあったので、そこで済ませ、早速寝ることにした。歯磨きは道具もないしめんどうなのでサボる。

 これでようやく異世界初日が終わりか……なんだか長かったな……。これからこんな日々が続いていくのか……。


 それだけ考えたところで、ものすごく眠くなり、俺は意識を睡魔に委ねた。

 おやすみなさい。

 これじゃ羊を数える余裕もないな。ぐぅ。

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