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俺はギルドに戻って受付嬢にオススメの宿について聞いてみた。
するとギルドから宿屋の推薦はしないことになっていると、キッパリと断られてしまった。
なんだよ、ケチだな。
そう思ったら、この街の門に行けばこの街、ナメザメについての案内カタログを読めるとの情報を教えて貰った。カタログにこの街オススメの宿についても書かれているらしい。ここにはないのかと聞いてみたが、カタログは街が発行している為、ギルドとは関係ないらしい。まぁそういうことなら仕方ない、街の管轄である門に行けば見れるってことでしょ。行ってやるよ。
正直面倒だったが、せっかく教えて貰ったということで、歩いてギルドから一番近いという東門へと向かった。
十五分から二十分ほど歩き、その門にたどり着いた。
門に併設されるように詰め所のような建物があり、その中に制服をきたおじさん門番が一人いたので、カタログについて聞いてみた。
「これだろ、持ち出し厳禁だからな」
するとどこからか持ってきた冊子を投げるようにして渡された。
門番がこんなんでいいのか? もっと丁重なもてなしがあってもいいと思うのだが。大丈夫かなぁこの街。
俺は受け取ったそれを見てみる。
カタログと聞いていたので、てっきり枕にできるくらいの厚さがあるのかと思ったが、実際は薄っぺらい小冊子のような感じだった。
表紙に『ナメザメの街の全てが分かる一冊――これで完全攻略だ』と書かれている。中身は詰まっているのだろうか。
中を開いてみると、確かに色々書かれていた。
街の全体図や、名所について、またオススメのランチについてなど本当に様々だ。
その流れでというべきか、オススメの宿についてもちょろっと書かれていた。
本当にちょろっとだ、具体的には三件だった。
「『川のルールー亭』……『北の大地~宿~』……『真昼のきざし亭』……」
よくわからないが、それぞれの宿の特徴と所在地についてだけ申し訳程度に書かれていた。
だが肝心の部屋紹介や料金設定の情報がない。
こんなのじゃ判断のしようがないんですが。
「あのー、門番さん」
俺は詰め所をのぞき、先程のおじさんに尋ねてみることにした。
「ああん?」
「この中でだとどこがオススメですか?」
「……はぁ、なんだっ」
面倒くさそうに立ち上がり、カタログを覗いてくる。
「なんだ? 宿を探してんのか? この街にくるのは始めてか?」
「実はそうなんです。ここに乗ってるのがオススメってことですよね? でも値段とかがないので判断がつかなくて」
男はこれまた面倒そうに後頭部をワシワシ掻いていた。
「あー、まぁここに載ってるのはあれだ、一応街が勧めてるってだけのいわゆるお硬い宿だ」
「え?」
「まぁ街に勤めてる俺が言うのもなんだけどな、この辺の宿は街がやってる『観光促進協会』ってのに入っててだな。まぁ要するに街のお墨付きのいい宿ですよっつう建前を得てるわけだ。街からの補助もある程度出ている分設備も充実してる」
「じゃあいいんじゃないですか?」
「だが規定がある分、宿賃もそれなりに高い。快適さと安全を買うってわけだな。正直言って庶民向きじゃねぇ、俺ならまず選ばねーな。まぁお前さんが金持ちつうなら話は別だと思うが」
「いやー、僕の全財産は5300シブハルなんですけど……」
「んじゃやめといた方がいいな。軽く一泊5000シブハルくらいは飛ぶだろう。基本料金がそれかだからオプションとかついてくれば尚更だ」
「えー、じゃあ泊まれないじゃないですかー」
「まぁだがもちろんそれ以外の協会に入ってないもんなんかごまんとあるわけで、それこそグレーな宿なんかを合わせれば数えるのもキリがねぇくらいだ。普通のやつはそういう宿を探して寝泊まりしてる」
そこまで話すとおじさんはマップのページを開き、少し口角をあげる。
「仕方ねぇから俺のオススメの宿を教えてやんよ、特別サービスだぞ。普通は協会に入ってる宿を勧めるように言われてんだからな」
「本当ですか? ありがとうございます」
そうして俺は門番さんにマップ上でオススメの宿を教えて貰った。
ありがたい、やっぱり来て良かったな。
もう色々振り回されてばかりでかなり疲れたし、多少変な宿だったとしても寝転がって寝てしまおう。安ければなんだっていいみたいな節はあるし。
俺はおじさんに手を振り、その宿がある場所を目指した。
すっかり夜が訪れ、街道を歩きながら空を見上げればたくさんの星星が輝いていた。
あー、この世界にも星ってあるんだな。でも月はなさそうだな、丁度新月だったりするのか? まぁなんだっていい、とにかく綺麗だな、星も心なしか大きい気がするし、地球にいた頃よりも綺麗かも。この世界の人達はあの星が宇宙の遥か彼方からやってきてる光だってことを理解してるのかな? この世界の科学がどこまで進んでるのかわからないが、もしそれを認識しているのがこの世界で俺一人だけだったとしても、その知識はそっと胸のうちにしまっておこう。
星のひとつひとつに思いを馳せる、それは俺だけの特権でいい。
満点の星空にキラリと流れ星がなぞったような気がしたが、丁度目を瞑ってしまってよく分からなかった。




