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なんだ? なんでそんなぽかんとした顔で見てくるんだ? 最後に熊を討伐したのは俺だというのに。
「なんつったお前今?」
「いえ、だからその熊を討伐したのは僕なので、所有権は僕にあるのではないかと、そう言いたいのです。
俺の言葉を最後にしばらく間があいた。そして、
「アハハハハハッハハハハハハッ!!」
リーダーらしき男が爆笑した。
何がそんなに面白いのだろう。よくわからなかった。
「なんだコイツ! いやいやそうきたか、そうだよな、確かにレッドアイベアが最後に死ぬところを誰も見ちゃいねぇもんな!」
男はひとしきり笑った。
そしてピタリと笑いを止め、ポツリと呟く。
「んなわけねぇだろゴミが」
と言い放った。
怒気を滲ませた瞳で俺を睨んできている。
「都合よく目の前で倒れただけだろうが。そう体よく嘘が通ると思うな。レッドアイベアは俺らが戦い勝利した。逃げ出したのは最後の悪あがきに過ぎねぇ」
男は一歩踏み出してくる。
そして俺の眼前に顔を持ってきた。
「だからよぉ。お前みたいなFランクの雑魚がレッドアイベアが討伐したなんて事は、絶対にありえないことなんだ。自分が今どんなつまらないことをしたか、理解したか?」
「いえ、そう言われましても僕が倒したことは事実ですしね……」
ビックリしながらもそう返す。
といいながらも、俺が先程体験したことが泡沫の夢という可能性もあるかもしれない。飢餓状態における幻覚的な感じで……。
俺は熊の方をもう一度見てみた。
血抜きのため木に吊るされた熊の首元を見てみればやはり大量の血が吹き出ていた。穴は微妙に塞がってしまってるが、こんな即死級のケガを負いながら走ることは普通なら絶対ムリだ。やはり俺が攻撃しトドメを差している。
「ほら、熊にだって首元に穴が空いてるじゃないですか」
それを指摘すれば流石に分かって貰えるだろう。
「あぁん? はっ、マズルが血抜きで開けたんだよ。素人かおめぇ」
「ええ……本当に槍で攻撃したんだけどな」
どうする? こんなに信じて貰えないなら埒が明かないんだが。ただ俺ももう腹が減ってもたないし、実際俺が仕留めた獲物なんだから譲るわけにはいかない。そうだよ、気後れする必要はなにもない、この獲物は俺のものなんだ。
「あのなァ……アタコス、こいつ、どうする?」
「どうしても譲る気はないといった顔に見えますよ。あくまでも嘘を突き通すつもりのようです」
「もしもだ、もしこの森の中で一人の冒険者が不審な死を遂げていたとして、それで他殺を怪しむような奴が街にいると思うか?」
「いえ、こんな森奥深くです、彼を目撃した人物がいたとしても大分前のことでしょう。この場で何があったかなんて、誰も知る由はないかと」
何やら不穏な空気が流れていた。
分かる。男らの冷たい、それでいて絡みつくような、狂喜の目が俺に突き刺さってくるのを、感じる。
「どうしても譲る気はねぇんだよな……?」
「もちろんですけど……」
「ああ、そう」
「えー、ホントにやるの?」
女が若干後ろ向きな姿勢で尋ねていた。
「やれやれ、いるんだよな。常識知らずで社会に出てくるガキがよ……じゃあどうする? ……死んどくか?」
そう言い男の顔つきが変わった。
明らかに引き締まったのだ。
そして次の瞬間、男は一気に踏み込んだ。
俺の方に一気に詰めて来たのだ。
そして腰だめから、その拳を俺へと下から突き出してくる。
その拳は俺の腹を捉えようとしたところで……
バキっ。
そんな音が響いた。
男の拳が俺の腹を捉える寸前のところで、俺は自分の腹の前にバリアを張ったのだ。
なんとか間に合った。流石にDランクとだけあって素早く無駄のない動きだった。熊を倒す時にデモンストレーションしてなければとっさには使えなかったかも……。俺も成長してるのかも。
男は気づけば素早く引き下がっていた。
そして自分の拳を何が起きたのか分からなそうな顔で眺めていた。まだ理解が追いついていないのだろうか。
まぁさっきの熊のひっくり返り方を見る限り、バリアは相当に堅い。殴った反動が、そのまま拳に伝わり、多分相当なカウンターを食らっているんじゃないか。なんか骨が砕けるような鈍い音がしたし。
「……あ」
男は俺を見ていた。その顔は先程までの小馬鹿にするようなものではなく、信じられないものを見るような。戸惑いと、僅かな畏怖を抱いた顔つきとなっていた。
「おいおい、何やってんだよダグ。そこはスバンといくとこじゃねぇのか? 代わりに俺がやってやるよ」
そう言い出てきたのは仲間の男だった。
少し身長が低く、ガタイがそれなりにいい様子。
男は何も分かってない様子で、ニマニマしながら腰の剣を抜いていた。
そして歩いて俺の目の前までやってくる。
「レッドアイベアを討伐したとか言ったな? だとしたら、この攻撃も避けれるよなぁ!」
男は剣を振りかぶり、そのまま俺へと振り下ろした。
そのまま受ければ間違いなく死ぬような攻撃。
だがそう簡単に死んでやるわけにもいかない。
俺はバリアで男の攻撃を防いだ。
動体視力は男子高校生そのものだが、体はついていかなくとも攻撃を認識することはできた。そのスキさえあればいくらでもバリアを展開することはできる。
攻撃してきた男は唖然とした顔をしていた。
その首に、俺の放った槍が突き刺さった。
男の首から血が吹き出た。
デジャブだ。そう思った。




