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目の前から巨大熊が突っ込んできたので、バリアで弾いた。
熊が衝撃で大ダメージを負ったらしく、地面に倒れ痙攣している。
なんだろう、頭から突っ込んだし脳震盪にでもなってるのかな? まぁなんだっていいや。
俺はその後魔法で槍を放ち、熊の首元に穴を開けトドメを差した。
よし、なんだか分からないが、これで食料確保。完璧だね。
「ひとまず腹が減ってもたない、薪でも持ってきて火をつけてバーベキューといこう!」
「――おい、こっちだぞ!」
と、思った矢先、遠くから人の声が聞こえてきた。
なんだ? こんな所に人? 結構森も深いはずだけど……
見てみれば声のした方向から一人の男が駆け寄ってきた。
簡素な金属製の鎧に、軽量タイプの兜、腰には剣を差していて武装している。
そいつは俺を見て目を丸くしていた。
「え、誰だおまえ」
そんなことを言われた。男は二十歳前後くらいの容姿に見えた。
いや、それはこっちのセリフといいますか……
「こんな所まで来てたんですか」
「くだらない悪あがきしやがって。まぁ仕留めれたんならいいが」
そして男に遅れて後方からさらに人間がぞろぞろと現れた。
男三人に、女が一人の計四人。男の一人は台車のようなものを引いており、その上には獣の死体と思われるものが恐らく二匹分くらい積まれていた。
彼らは伸びてる熊を見て口々に言葉を発していたが、その流れで当然のように俺に目を移してくる。
「この人は?」
「さぁ、知らねぇ。ここに来たらいたんだが」
最初に来た男は頭をポリポリ掻きながら俺の方を見てくる。やばい、自己紹介しないといけない感じかかな。
「で、誰なんだよテメェ」
「私は神ですよ」
「ああ?」
意味不明と言った顔をされた。
「冗談です、僕はたまたまこの森に足を踏み入れている者でして……」
「こんな森に一人でか?」
「結構深くのはずよね」
最初の男に続き、女も首をかしげている。赤い髪で、ゆったりとしたローブで身を包んでいる。この人も二十歳前後の容姿だった。手には杖を持っている。
因みに残りの男らも思い思いの装備を身に着けていて、完全に武装集団といった感じだった。
「冒険者なんじゃないですか?」
メガネを掛けているどことなく生意気そうな顔の男が提言する。
「ああ、そういうことか、そうなのか?」
「あ、はい、そうですね。一応冒険者やってます」
「所属は?」
……所属?
「分かんねぇかよ、活動してる街のことだよ」
「ああ、それならナメザメの街……ということになるんですかね?」
「ランクは?」
「今日なったばっかりなので、Fランクです」
ぶっ。
後ろにいた人たちの誰かが噴き出した。
「ああ、なんだなんだ、初心者冒険者さんか。そりゃなっとくだな」
目の前の最初に現れた男が大仰に手を広げた。この人がリーダー格なのだろうか。
「どうだ? 先輩冒険者の狩りの現場を見てビビったか? おい、マズル、これの血抜きやっとけ」
は、はいいっ! と後ろにいた台車を引いていた男が熊の元まで駆け寄っていき、ナイフで熊を切り裂き始めた。血抜きってなんだ? まぁいいや、そんなことより。
「あの、あなた方は一体誰なんですか?」
「あぁ、そりゃ今日なったばっかなのひよっこじゃ知らねぇよな。俺らは泣く子も黙るDランク冒険者、『怒涛の拳』だ。よく覚えとけよ」
リーダーらしき男はドヤ顔で教えてくれた。
Dランク……冒険者だと?
「え、冒険者なんですか」
そりゃそうか、俺以外にも冒険者は日々活動してるはずだもんな。
「なんだよそのしけた反応は……Dランクなんだぞ、聞こえてたか?」
「恐らく知らないんだと思うぜ。Dランク冒険者の価値ってもんを」
別の低身長で横に太い男が口添えする。
「ああ、そういうことね。これまた納得」
リーダーらしき男は手で額を抑えながら大げさなリアクションを取る。
「一応教えてとくとな、Dランク冒険者ってのは冒険者の中でも優れた者しか辿り着けない領域にいる逸材のことさ。まさしく俺らみたいだな」
「おいおい、マズルはFランクだろ?」
「いや、一応パーティーとしてはDランクパーティーの一員ってことになるからな、あんな奴でもな」
「そりゃそうか」
わははと互いに笑い合う男たち。マズルってのは今血抜きとやらをしてる男のことか? 何が面白いのかさっぱりだった。
「ともかく、お前みたいななりたてホヤホヤの新人野郎なんて手も届かないようなレベルの存在ってことだ。Fランクの頭でも理解できたか?」
リーダーらしき男はニヤけながら聞いてくる。
なんでそんなに上からなのかは分からないが、冒険者ならではのしきたりというものがあるのかもしれない。大人しく、はいと頷いておく。
「よく覚えとけよ。うし、じゃあレッドアイベアも討伐したし引き上げるか。血抜き終わったか?」
「ま、まだですよぉ」
「おせぇぞ、とっととしろ。終わり次第積んで帰るぞ」
え? 積むってもしかしてこの熊をか?
どうしてだ、討伐したのは俺のはずだぞ。だとしたら普通は俺がこの熊の所有権を持つはずじゃないのか。
「てかやっぱり俺の与えた剣戟が効いてたらしいな、結局はこのざまだぜ」
「いえ、私の矢の当たりどころが良かったんだと思いますよ」
「すみません、この熊は全部持って帰るおつもりですか?」
俺は尋ねてみた。
「ああそうだが? つーかこれ以上気安く話しかけてくんな鬱陶しいから」
「ぷふ」
女が笑ったのが分かった。
可愛そう、みたいな感じの面白がる目で俺を見てくる。
「いえ、そうはいきませんよ。その熊は僕が討伐しましたので」
「……は?」
リーダーらしき男が、ぽかんとした顔で俺を見てきていた。




