第6章 提督の標的はじじいと爆弾だった
この小説は突如として更新されます。 もう狂おしいくらいに不定期です。
上空はつねに空気が冷え込む。
「なんか、こう寒いと雪が見たくならない?」
ある日突然に彼女に質問された宰相は、嫌な予感がした。
「雪でございますか。 しかしながら、それには一度冬になるのを待って街へと降りなくてはなりません。」
「えー冬まで待つの? つまんない。」
「そう言われましても、わたくしどもは自然の神ではございません。 何か雪を造りだせれば話は別ですが…」
そのとき、フランソワが入ってきたのに気づいた宰相は、出会いがしらに質問した。
「おお、お父様中将ではないか。 ちょうどいいところに。」
「何か御用でしょうか? タスタニフ宰相。」
「実はな…」
シャルロットに聞こえないように、彼はそっと耳打ちする。
「ねえ、何話してるの?」
「い、いえ、なんでもございません。」
この老人には、提督には絶対に知られてはならない秘密があった。
実は、戦力向上のために、持ち出した新兵器を艦に搭載しており、彼女にいたずらされると困るからだ。
が…
「ねえ、あの丸いの何? 食べ物?」
すでに彼女は知っていた!
「いえ、食べ物では…」
「宰相。」
「ああ、あ。 ええ、そうです。 しかしあれは提督のような小さな方がお食べになりますと、ひどく腹をくだしますゆえ、忠告したかったのでございます。」
フランソワの助言もあり、なんとか砲弾につめる爆弾だと思われなかったようだ。
「へえ、へんなの。 紙吹雪なら雪みたいにきれいなのに…」
しかし彼女はその瞬間、ポンと手を打って、即座に走り出した。
「お嬢様、朝食の方はもうよろしいのですか? 行ってしまわれた。」
「おい、いや。 おいではなく、どうしてこのようなところに、お嬢様。」
艦の機関室の作動具合をチェックしていたソワンは、突然現れたシャルロットにびっくりして、つい部下に声をかける口調でたずねるところだった。
「紙フブキ!」
そう言ってシャルロットは手を上に上げて万歳のポーズをとる。
「はあ?」
「紙吹雪は?」
「そんなものありません。 爆弾でしたらございますが、あいにく今はドカーンを見せられるほどひまではありません。 お許しを。」
「違うの。 私、雪が見たいの。」
雪と聞いてソワンも頭を抱えた。
「雪、ですか。」
そしてポケットから小さな予備の爆弾を取り出す。
「雪と呼べるようなものではありませんが、これならどうでしょう。」
すでに使わなくなった紙きれを、爆弾に穴をあけて押しこむと、彼は外に出て火をつけ、空中に放り投げた。
パン!
「わあ…」
爆発の衝撃で、紙きれは粉々になり、まるで粉雪のように散って行った。
「すごいすごい! もう一回見たい!」
「これ以上は無理です。」
「ケチ。」
彼女はまたはしりだした。
どこへいったのかというと、新兵器の置いてある武器庫だ。
「どんな味がするんだろう…」
彼女は好奇心から、その丸くて白い大きな弾を触った。
ズシリとして、堅く、とてもたべられそうにはない。
「煮てからつかうのかな?」
シャルロットはそれを触っているうちに、弾が火薬臭いことに気づいた。
間違いなく「食べ物」からにおいがしてくる。
「これって、食べ物じゃない! もう、タスタニフ嘘ついた。」
確かソワンも小さな同じものを持っていたことを思いだして、これは爆弾だとはっきりした。
「でも、えへへ。」
シャルロットはさらに走り出す。
「お嬢様。 どうされました?」
「クロード、紙貸して。」
「紙ですか。 一体何に使うんです?」
「内緒。」
にたにたと彼女は笑って、鼻歌交じりに大量の紙を持って行った。
そして自分の部屋にあったろうそくごとしょく台を持っていくと、武器庫に再び足を運び、爆弾の一つをそのまま外に向けて転がし始めたのだ。
「う、うわああー!」
外を巡回していた兵士数人が、シャルロットの存在に気づいて、びくびくと震えている。
「何! お嬢様が?」
「はい、今兵士が爆弾を転がしているところを見たそうです。 早く対処しなくては大変なことに…」
その時だった。
バーン!
艦内に猛烈な振動が走り、そばにあったテーブルがひっくりかえった。
「あははッ! きれい! 紙フブキだ!」
「お嬢様! 何を。それはクラスター爆弾です!」
「でも楽しいよ?」
そう言って彼女はすでに次の爆弾に火をつけようとしている。
「皆伏せよ!」
宰相は床にかがんで、ローブで身を隠す。
―「ばばばっばあっばあーーーーーん! タスタニフ散れーーーーっ!」
爆発した瞬間、火薬に入っていたガラスの破片が拡散して、艦のすぐそばで飛び散る!
さらに爆発に混じって、爆発音とは思えない妙な発音も混じってきた。
「今わしのことを散れとぬかすやつがいなかったか?」
「これは最新式の爆弾です宰相。 爆発音で相手の悪口まで表現できるようになっているのです!」
確かにタスタニフには精神的なダメージが大きかった。
当然、紙吹雪もより細かくなり、もはや雪というよりパウダー化していた。
「バルモレンスク総員に告ぐ。 お嬢様を止めるのだ! あと、宰相の悪口を設定したやつ、あとでしょっぴいてやる。 以上だ。」
ついにソワン上級大将からそんなふざけた命令が下った。
しかし…
「バツばばばばっばばばーーーーーーん! 油ゴミじじい散れーーーーーーっ!」
「うおッ!」
爆弾の威力はすさまじく、揺れに耐えられない兵士たちは、なかなか彼女のもとまで近づけない。
「油ゴミとはなんじゃあああああ!」
タスタニフはカンカンに起こっている。
「ばばばっばばばばっばーん! 変態じじい潰えろーーーーーっ!」
「お嬢様ーーーーーっ!」
彼はマイクで爆弾の音声を変更しているシャルロットに出くわした。
「誰からそんな女の子イメージを壊すような言葉を教わったのですかーーーっ!」
「いやああああ! ごめんなさーーーーい!」
やがて爆弾もなくなり、艦内には静けさが戻ったが、彼女は宰相からこっぴどく叱られた。
そしてここにも、とある変態が一人、シャルロットの艦をねらってやってきた。
「なんてことだ…」
声色からして中年の男だと察しがついたが、なぜか妙な仮面をつけていた。
黄色い金の仮面だったが、なぜか額の部分にマジックで、「シャルロットLOVE」と書かれている!
男は戦艦に乗っており、兵士たちに命令した。
「今こそ、シャルロットとえくささ~いず!」
彼は片手を上に突き出して、実に意味不明で気持ち悪いポーズをとっていた!