特別企画~シャルロットのかわいいクリスマス~
― これは、クリスマスに向けて造られた記念である。 ―
度々度々度々度度々(ドドドドドドドドド)。
艦内に響くアイドリングの音は、全ての兵士が耳にしたことだろう。
「な、なんだこの音は! どこから響いているんだ?」
彼らは最初は戸惑っていたが、やがてそれがレリーフのスピーカーから流れている事に気づいた。
「ィイェェェス! みんな楽しんでるか~~~~い! シャルロットだぜーーーっ!」
「提督の声だぞ? どうなってるんだ?」
しかし、事態に気づいた宰相がやってきて、彼女を止めようとする。
「お嬢様! これは一体?」
彼女は目に黒いサングラスをつけ、なぜかバイクのタイヤの部分にスキーの板を無理やりつけて改造したオリジナルマシーンに乗っていた。
度々度々度々度々度。
さらにアイドリングに必要な音も、何やら漢字のような怪しげな効果音を発生させている!
「あ、タスタニフだ。 見てみて! ヨアヒムさんにつくってもらっちゃった!」
彼女の後ろには、あろうことか飛行機のパイロット姿のヨアヒムが、レンチをいじって機械の最終チェックを行っている。
「ヨアヒム元帥! よすのだ!」
しかし彼は…
「へへへへ。 暴走した俺のダンディーなハートはもう止められないぜ! それと、呼ぶ時は夜亜卑無と呼べ。 いくぜ提督! 暴走クリスマスの始まりだぜーーーっ!」
「だぜーーーーーっ!」
シャルロットもすっかり彼のペースに乗せられている。
「いやー。 やはり本場ドイツ人の工業力は素晴らしいですね~。」
「クロード。 関心している場合か! 二人をとめるのだ!」
「分かってますって!」
彼は両手を広げた。
「止まりなさい! 君たちの暴走行為はすでに我々警察もコンプリートしているし、迫力のないシーンをビデオとして残す作業は退屈そのものだ! そんな中途半端な走りで捕まって後悔するぐらいなら、もっと過激なアクションで、世間をわかせて見やがれ!」
「おう!」
「扇動してどうする! このバカ者が!」
宰相が彼を叱った瞬間…
「文! ブンブン文ヴぉんヴぉんヴぉーーーーーン!」
提督たちがついに暴走を始めた。
「って、今の漢字なんなんですか? いくら小説家になる夢が作者にあるからって、文はないでしょう!」
「どけどけ苦労奴!」
「って、私の名前も漢字に直すと不幸そのものじゃないですかーーーーっ! 私がイジラレきゃらなのにも、実はこんなところに原因があったんですかーーーーー!」
彼は二人にひかれそうになるのをよけながら、宰相に言った。
「ちなみに、わしは漢字に直すと他素多煮負災衝だそうだ。」
「災衝ーーーっ! 不幸なのは私だけではなかったんですね?」
感心している場合ではなかった!
二人はスピードを上げて艦内を走り回る。
「ぬっ! あれは…。」
フランソワも彼らに気づいて近づいていく。
「はっはー! 血がたぎるぜー!」
「いかん、止めなくては!」
彼は剣を出す代わりに、あるものを取り出した。
ヘッドホンとマイクだ。
「あ、前方にお父様はっけーーーん!」
シャルはそのとき彼のリズムに酔いしれた。
「よし、みんな、レッツダンスだ!」
フランソワはそばにいた兵士を呼び寄せると、ラップのリズムに合わせて踊りだした。
「どうして英語が下手なんだイェ! クリスマスに補習だイェ! アラビア語なら得意だイェ! 中国どうとか言ってるけど、中東をあんまりなめんじゃねえイェ! オイルマネーをモってすりゃ、世界征服可能だイェ!」
「提督はのりのりのご様子です!」
「よし、いいぞ、もっと続けろ!」
しかし、それが帰ってあだとなり、調子にのったシャルは走りながらドリフトを始めた。
「ぎゅん、ぎゅん! きききききききーーーー!」
「うわあああーっ!」
兵士たちは驚いてあらゆる方向に散ってゆく。
「お、お嬢様! 何を!」
ソワンも事態に気づいて慌てる。
そこへ先ほどのラップ集団。
「おい、フランソワ。 何をやっておるか! お嬢様を止めんか! があああっ!」
彼は踊っていたフランソワの手から滑って飛んできたワインのコルクを額に受け、気絶した。
「やってしまった…。」
「あ、ジュースだ!」
「お嬢様、それは違います。」とタスタニフ。
しかし彼女はそれをごくごくと飲み、赤い顔になって笑い始めた。
「あははははははーっ。」
「しまった。」
他の兵士たちはシャルロットが酔ってしまったと気づき、すぐに撤退する。
「あれ、何この機械? それ!」
シャルロットがバイクのエンジンに興味をもったのか、残りのワインを思いっきり振りまいた。
「危ない! ふせろーーーー!」
ばあああああん!
「こちら戦艦フリゲントラント! バルモレンスク、被害を報告せよ! もしもし、応答せよ!」
― 完 ―
「ちょっとまてい! まだ終わっておらんわ!」
ソワンが生きていた!
「というクリスマスのお話なの。 どう、お父様。」
「………。 さすがはお嬢様。 素晴らしいですなー。 ちなみに本のタイトルは何です?」
シャルロットは笑顔で答えた。
「かわいいかわいいクリスマスだよ。」
かわいい要素がどこにもなかった!
「あ! そうだ! お正月ば~じょんも作ろうっと!」
「…。 そうですか。 まあ、いいんじゃないですか………。」
― 「諸君、フランソワだ。 毎年この時期になると、浮かれた者がついつい事故を起こして、取り返しのつかない事態に発展したケースが多々報告されている。 理性ある諸君! 真似はするなよ?」
「要は、クリスマスだからって、調子に乗りすぎるなよ、と言いたいのですね?」
「苦労奴。 お前も最近調子に乗っているな。 私の目にもはっきりと見えるぞ。」
「あの、私、何かしましたっけ?」
「提督といちゃいちゃしおって。」
「災衝! ご、誤解です!」
「ふふ。 残念だったな。 私のプレゼントはお前を不幸にすることだ。 メリー苦労奴!」
「ぎゃあああああああーっ!」
クロードはフランソワの超必殺技、黒い正義を喰らった!
「というわけで、不幸になりたくなければ、ゲームをやるときは画面を明るくし、こまめに休憩をとることだ!」
「それって、クリスマスと関係ないですよね?」 とクロード。
「ならば、不幸になりたくなければ、サンタのプレゼントに期待しないことだ!」
「わあーーーーーっ! ダメですよ! 子供の夢を壊しちゃ!」
「夢? 夢はいつからロマンティックなものと決まっているのだ? クリスマスにどす黒い夢を見てしまったら、お前のハートにブラック正義が宿っている証拠だ!」
「もはや意味不明になってますから! では、いろいろと面倒になりましたが、皆さんメリー苦労奴、もとい、メリークリスマス!」
物語は本編へと続く。
フランソワの警告は、まあ、軽く流してください。