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特別企画~シャルロットのかわいい血知の日~


 さわやかな朝だというのに、ヨアヒムはなぜかしぶいコーヒーを飲み、その味覚を表情で表現しようとして、逆にひきつった笑みを浮かべていた。


 「ヨアヒム元帥。 何朝からわけのわからない顔をしているんですか?」


 「全く、これだから少将は困る。 私は今現代社会のファンタジー小説ならば一度は表現される、『にが虫のかみつぶしたような顔』の練習をしているのだ。 邪魔をするな。」


 そう言って、ヨアヒムはまたコーヒーを一口すすると、今度ははぐきをむき出しにして、あごを突き出したりひっこめたりを繰り返した。


 「やーめーろ! お嬢様が怖がっているじゃないですか。」


 ヨアヒムは前方から歩いてきたシャルロットを見て、急いでよだれに融合しかかっていたコーヒー汁をじゅるじゅるとひっこめた。


 「おっと失礼。 それよりも、問題はそんなことではない。 ついにお父様中将が動き出したぞ!」


 「どういうことですか?」


 「クロード知らないの? 今日はお父様中将の日なの。」


 「ま、まさか、お父様中将のかわいいかわいい血知の日ですか? でも、今日はそれとはまったく関係のない日ですよ?」


 「そんなことを気にしていたのか、クロード少将。 血知の日は嵐も同じ。 突然やってくるのだ! 粛清に定休日など存在しないようにな!」


 「なんであんたそんなにエラそうなんだよ…。」


 にっこりとうなずくシャルロットに悪い影響が出るのではないかと思い、クロードはすぐに彼女を抱きかかえた。


 「く、クロード?」


 「いいですか、提督。 今日はお父様中将に会ってはいけません! この私が必ず阻止します。」


 「どうして?」


 「どうしてもです!」


 シャルロットのむすっとした顔などお構いなしに、彼は彼女を戦艦で一番目の届きにくい船蔵貯蔵庫へと連れて行った。






 つかつかと一人の男が艦内を歩いていた。


 まがまがしいオーラを放ち、腰に下げたサーベルを握りしめ、彼はソワンとすれ違った。


 「おお、お父様中将か? どうしたのだ、全身血だらけではないか?」


 「ふふふ。 まだのんきに艦内をうろつく羊が一匹。 しかも糞湾くそわんではないか…。」


 「なんだと!」


 ソワンはお父様中将の真っ赤に染まった軍服を見てはっとした。


 だが、すでに手遅れだった。


 「お父様中将刑法 第66条2項、被疑者、糞湾くそわんはいかなる理由があろうと、その異臭を半径5メートルいないにばらまいた際、即処刑されなくてはならない! 血知の日の洗礼をうけよ!」


 赤い斬撃が放たれ、艦内中が血で染まった。


 「こ、これは一体どうしたことだ…!!」


 たまたまソワンのいた場所を通りかかったタスタニフが、目を丸くした。


 血が滴るというより、窓が艦内中にちりばめられた窓の破片が飛び散り、そこで凄惨な事件が起きたことを物語っていた。


 「お父様中将刑法 第34条12項、偉大なる血知よ。 我に断罪の力を授けたまえ!」


 すぐそばでは何かに向かって祈りをささげるフランソワの姿があった。


 「一体何の神に祈ってんだよ! 刑法としてそれは成立するのかよ! ていうか、明らかに邪神じゃないですかそれーーー! いつものジャスティスはどうなったんですか?」


 「クロード、何か知っておるのか?」


 「宰相、今日はお父様中将の血知の日なんです! 早く逃げなくては、粛清されてしまいます! 提督の元へ避難しましょう! って何してるんですか宰相?」


 「いや、今日が血知の日なら、お父様中将に何かプレゼントをあげなくてはな。」


 タスタニフはのんきに包装された箱を祈っている彼に投げつけた。


 ドーーーーンという爆発音とともに、艦内に揺れが走った。


 「なるほど、さすがは宰相! これでお父様中将の暴走も…。」


 「はははは…。 甘いぞ! 偉大なる血知のパワーを授かった私には、そんな攻撃は通用せん!」


 硝煙の中からフランソワが反撃に移った。


 「お父様中将刑法、第13条13項、被告人タスタニフは最大限の労力を行使し、今現在確認できる劣化した細胞の数だけ斬撃を受けなくてはならない! 散るがいい! ぬん!」


 フランソワがいきむと同時に、なぜかものすごい速さでパソコンのタッチタイピングを始めた。


 「な、なんだ…??」


 フランソワの目はみるみるうちに充血して、真っ赤に染まった。


 それを確かめると、今度は攻撃方陣にサーベルではなく、顔面をセットした。


 ― 「ブシューーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」 ―


 なぜか砲撃ではなく、血液が大量に照射された。


 「ふはははは! お父様中将刑法、第81条5項、結膜炎をそのまま放っておいた者は、速やかに艦内の攻撃方陣で血液をみだらに噴出させなくてはならない!」


 「な、なんだそりゃーーーーーーーーーっ!!」


 「お父様中将刑法、第78条4項、クロードが地面に落としためし粒は、いかなる理由があろうと転売せず、速やかに持ち主の臓器に強制的に埋め込み、こびりつけなくてはならない! ふはははは! 見るがいい! これこそ真の粛清だ!」


 艦内のあらゆる場所が血で染まってゆく間にも、フランソワはかたかたとパソコンを打ちまくっている。


 「一体なんの脈絡があってそれを言ってんだよ! 関係ないだろう! あと、そのわけのわからない刑法の棒読みをやめろーーーーー!」


 「わあーーーーきれーーーい!!」


 あまりの物音に耐えきれなくなったシャルロットがついに出てきてしまい、クロードは終わったと思った。


 「提督! 見てはいけません!」


 「どうして、すごくきれいなのに…。」


 シャルロットはそう言ってフランソワに近づいた。


 「俺の娘に近づくな!」


 「お父様中将刑法、第42条42項、悶えるアンドリューは、速やかに文字通り粛清によってゲロを吐きながら悶えなくてはならない!」


 間一髪のところで現れたアンドリューが、フランソワに切り刻まれた。


 「あんた結局処刑がしたいだけだろ! そうなんだろ!」


 「わーい、お父様強い強い! クロードも粛清しちゃえ!」


 「待っていてください、提督。 すぐに終わらせます。」


 「ちょっと、ちょっと待て! どうして娘はよくて私はダメなんですか! ちょ…!!」


 笑顔で粛清の呪文を唱えるフランソワに、一人残された彼は凄惨な叫び声をあげた。


 「お父様中将刑法、第999条999項! 苦ROADに血の粛清を!」


 「ぎゃあああああああ!!」


 こうして、艦内の粛清によってすべてが終わった。


 ただ一人を除いて。


 「ん? なんか言ったか?」


 何事もなかったかのように、ヨアヒムがコーヒーをすすっていた。


 

 超久しぶりです。そして次の更新は分かりません…。

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