美女と野獣だったり?男前だったり?
よろしくお願いします!
今日、わたくしは嫁に行く。
童話のような夢を見ていたわけじゃないわ。
ただ――――
「アヤメ様の嫁ぎ先、公爵家で家柄は申し分ないけれど、公爵様が……市井の言い方ですと、ブサイクと言う話ですわ」
「あら?私が聞いた話だと、公爵様は男前ですけど?」
――――どっちなのよ!!
童話みたいに、超男前の王子様を理想としているわけじゃないわ。わたくしだってジルホーク公爵家の娘。そのうち政略結婚をするものだと思っていました。
でも、容姿は気になるのよ!!
侍女たちの噂でも二つに分かれるウワサ話。
判断に困るわ、心の準備ってものがあるでしょ。ブサイクだろうと男前だろうと心構えが必要なのよ!
いっその事、普通の人ならば……
あれ?性格についての噂話は聞かないわね。どうしてかしら?
たいてい、性格も噂話として聞かれるものなのに。
そう言えば、わたくしの事もウワサになっていたりするんでしょうか?
あ、お父様がもみ消しそうですね。
「お嬢様、このようなドレスとアクセサリー、髪型でよろしいでしょうか?」
「ええ、本当は公爵様の瞳の色とかに合わせてドレスの色とかを決めたいところだけど、嫁ぐこと自体急だったし、公爵様の容姿がわからないんじゃどうにもね?」
侍女が困っているみたい。困らせたいわけじゃないのよ?
公爵様の容姿がわからないんだもの、仕方ないじゃない。わたくしだって、公爵様の髪や瞳の色をドレスやアクセサリーに合わせたいわよ?でも出来ないんだもの。
「お父様、お母様、ではアヤメは行ってまいります」
「こらこら、帰ってくるように言うもんじゃない」
「そうよ?ここは憧れシチュエーションよ?」
あれ、恥ずかしいからヤダなぁ。
「今まで、お世話になりました。で、いいですか?」
「アヤメに期待してもそんなもんだろう」
「そうねぇ。わからないことがあったら、手紙でも書きなさい。それじゃあねー」
淡白な親だなぁ。
うちの両親からも公爵様の情報は入らず、一人馬車で考えてた(それが冒頭部分)。
ブサイクだろうと添い遂げないといけないし、男前で性格がブサイクって事も考え得る。顔も性格もブサイクってこともあるし、逆に顔も性格も男前ってこともある。
うーん、どうしたもんか?
考えているうちに寝てしまったようだ。片道1時間程度なのに……。
なんか男前の人が馬車から降りるときにエスコートしてくれるんですけど!
「お手を失礼してもよろしいですか?」
「はい!お願いします!!」
なんなら挙手でもしたい感じの男前なんですけど。
「ベグ公爵家にようこそ。私はこの屋敷に勤めている門兵です。以後お見知りおきを」
男前だから覚えるけど、なんかガッカリー。
「このまま、応接室にご案内しますね。おっと、貴女をエスコートしなければ主人に怒られます」
厳しい人なのかな?
「かといって、くっつきすぎないでくださいね?それはそれで怒られるので」
独占欲、強すぎない?
「ここが、ベグ公爵家の応接室になります。奥様をお連れしました」
「入れ」
ん?フードを深くかぶっていてよくわかんない。
「ジルホーク公爵家より本日こちらに嫁ぎました、アヤメと申します。以後よろしくお願いいたします。嫁としての務めをきちんと果たす所存でございます」
うん、挨拶はちゃんとできたと思う。
うおぉ――――
予想の斜め上をいくわね。
公爵様は完全に獣ですね。理性的ですけど。
「私の名はジョンソンだ。アヤメに限りジョンソンと呼んで構わない」
「ではジョンソン様と」
それより、容姿!
「あぁ、この容姿か。すっかり慣れてしまっていて忘れていた。多分屋敷の者も忘れている」
門兵の方も忘れてたんですね。恐らく噂の男前というのはベグ公爵家の門兵さんをジョンソン様本人と思ったんだろう。
「これはな、ちょっと呪いにかかっていてこうなった」
なんですの?「ちょっとそこまで買い物」的に『ちょっと呪い』発言ですけど?
「解呪方法はないんですの?」
「あるにはあるがなぁ。あ、先祖代々この呪いなんだよ」
何で『呪い』に関してこんなに軽いノリなんでしょう?
「好き合っているもの同士の口づけだな。ちなみに、偶数回でこの姿になる」
「先祖代々面倒な呪いですね。ご先祖は、呪われるほど何をしでかしたんでしょう?」
「それがわかればなぁ。はっはっは」
「そんなわけで、公爵様は社交の場に出ていないのですよ。最近そんなことも言ってられなくて。王宮での舞踏会だ。王からの招待状には逆らえないからなぁ」
「それで私と結婚というわけですね。わかりました。貴方の本来の姿も気になります」
「口づけなど、母上としかしたことないから本来の姿など私も知らないぞ。もちろん屋敷の者たちも」
うーん、わたくしは彼を愛せるでしょうか?性格はさっぱりしていて好ましい。容姿は獣だからなぁ。
「こちらが今日から奥様が暮らす部屋になります。侍女は3人いますので、御用の際はそこのベルを鳴らしてください」
おぅ、考え事をしているうちに部屋に進んだ。
やっぱり旦那様、ジョンソン様の部屋と扉ひとつで繋がってるのね。
「ジョンソン様!王宮の舞踏会はいつでしょう?」
「来月だったかな?」
よしっ、間に合う。
「ジョンソン様はダンスはできますか?」
「嗜む程度だな」
要・練習か……。
「来月が舞踏会というので、急ぎ口づけをし、ジョンソン様の瞳・髪の色を確認、あぁジョンソン様の体形も採寸して、ドレス・礼服をオーダーしないといけませんね」
「君はこの姿の私を好いてくれるのか?」
「はっ?わたくしはベグ公爵家に嫁いできたのですよ?」
「そういえば、政略結婚だったな。好きも嫌いもないよな……。よし決めた!私はアヤメに好いてもらうように努力をしよう」
どうせ、今夜が初夜ですから口づけくらいするでしょう?
Side ジョンソン
どうしたら、私を好きになってくれるだろうか?
アヤメは美しい。見た目の容姿もそうだが、芯の強い性格。彼女を嫌いになる男などいるだろうか?否。
アヤメ付きの侍女曰く、『キュンとするシチュエーション』というものが存在するらしい。
そのシチュエーションが続けば彼女も私の事を好いてくれるだろうか?
努力するとは言ったものの、どう努力すればいいんだ?
高いところのものを取ろうとしているのを助けてくれると、キュンとするらしい。(侍女談)
しかしながら、悲しいかな。アヤメは背が高かった……。
世の中にはギャップ萌えと言うものがあるらしい(侍女談)
しかしながら、私はギャップがない!
うーん、アヤメの事もよく知らないし、アヤメも私の事を知らないだろうから、サロンで二人だけのお茶会を開いてみよう!
**********
うーむ、呪いなのか……。今の姿でも別にいいけど、舞踏会とか行くならダメかなぁ。ウワサ話が光よりも速く王都中に広がるからなぁ。まぁ、今日初夜だしいっかぁ。
結果、ジョンソン様はかなりの美形であることがわかった。初夜は……、美形と獣の姿がクルクル変わってちょっと面白かったんだけど。
……感想がオカシイ。通常、初夜の事を思うと赤面したりするはず!私、面白いとか思ってる……。ここはひとつ、早く呪いを解かなくては!
どうすればいいんだろう?解呪師?いるの?存在するの?なんか貴重な道具が必要とか。
うーん、公爵家が長年呪いを解こうとしてるんだけど、わかってない。なんだろう?
あ、そういえば!昨日ジョンソン様にサロンに誘われたんだ。お茶会みたいな?二人で?
ジョンソン様……、美形で採寸もしないとなぁ。舞踏会まで結構忙しい。ダンスの練習もしないといけないし。サロンでその話もしよう!
Side ジョンソン
アヤメとはどんな話をすればよいのだろう?
ああ、そうだ!今度舞踏会だ!採寸しなきゃだし、ダンスの練習もだなぁ。
あ、今獣の状態だ。
昨夜……何故、人間の状態で止められなかったんだ? いや、アヤメの誘惑というのか?なんだけど。
一度は口づけしなきゃなぁ。
**********
「ジョンソン様、昨夜ぶりです。お仕事で忙しいでしょうにお茶会のお誘いありがとうございます」
私は疲れてるし、ちょっと寝てたかったのも本音なんだけど。私がジョンソン様に言ったのも本音。
「仕事も大事だが、私はアヤメとの時間も大事にしたい」
「それなのですが……」
「「舞踏会用の採寸およびダンスの練習しないとならない(ですわ)」」
やっぱりジョンソン様も気に留めていたんだ。王家が主催の舞踏会だし?
「それで、アヤメに相談なんだが……あの……口づけをもう一度してもかまわないか?」
なんて初心なのー!!自分が汚く思える。
「イヤですわ、私はもうジョンソン様の妻ですよ。口づけの一つくらいかまいませんよ?わざわざ宣言をされるなんて。ジョンソン様は紳士でいらっしゃる」
えー、今夜は床を共にしないのかしら?
「寝台を共にしてもだな。其方が好きすぎて止まらなく、こんな姿で終わってしまった」
なんか凹んでらっしゃるけど、発言は過激。
「私の唇でよろしければどうぞ」
ジョンソン様は美形になった。
うっ、眩しい。
「ジョンソン様は美形でらっしゃる。きっと舞踏会ではいろんな令嬢がジョンソン様に群がるんでしょうね!」
「そんな令嬢はそこらの雑草だ。見かけでしか人を見ない輩だ。私の身分と見かけに寄ってくるんだろ?迷惑な話だ。それより、アヤメ!其方にだって令息が群がるのではないか?其方は美しい」
あら、嬉しい。
「うーん、二人で離れないでいましょうね。そうすれば、周りにも牽制になるし」
「そうだな、それがいいか」
「では、ダンスの練習でもしましょうか!」
「アヤメはスパルタだな。ははは」
「笑ってもだめですよ!」
……謙虚に言っただけだった。ジョンソン様……ダンス上手いじゃんー!私の方がダンスが下手だから、私の練習になってるんですけど……。
「ジョンソン様……ダンスが非常に上手ですよ。私はジョンソン様の足を踏んでしまわないか、不安ですわ」
「君に踏まれてどうにかなるほど、ヤワじゃないよ」
採寸に至っては、王都一の仕立て屋に頼んだのだが……なんかぽーっとしてない?ジョンソン様は私の旦那様よ!
「服飾の各所にアヤメの色、アメジストだな、を入れてくれ」
「では、私のドレスにはジョンソン様の碧眼の色と同じ色を取り入れなくてはなりませんね」
「ふふふっ、お二人とも新婚でお熱いですね。ご希望に添えるように全力を尽くしますわ。なにせ美男美女からの依頼!仕立て屋として腕がなります!ここだけの話、貴族家はお金にものをいわせてけっこう無理を言わせるんですよ。仕立て屋としては、仕事だから作るんですけど、内心は『流行だけど、貴女の体形には似合わないでしょう』とか思うところがあったりするんです。でもあなた達は完璧!久しぶりに全力で取り組みます。あぁ、完成品を身に着けて下さるのが楽しみです」
「ありがとう。私もジョンソン様が綺麗な衣装を着ている姿をみたいわ」
「私だってアヤメが美しいドレスを着ている姿を見たいぞ。さぞかし美しかろう」
「あらあら、楽しみにしていて下さいね。私も全力を尽くすので」
「アヤメ、ドレスに合わせてアクセサリーや靴も用意しないといけないんじゃないか?」
「あら、失念していましたわ」
「恐れながら!私の方でドレスに合わせて手配を指定と思います。もちろん公爵様に必要なものも手配致します」
「頼もしいな」
「ええ」
舞踏会当日、ジョンソン様は仕立て屋さんが全力を尽くしてくれたカイか後光がさしているようだった。
そして……予想通り関係のない令嬢が群がった。
「公爵様!わたくしと1曲ダンスを!」
「公爵様!こちらの皿は食しまして?なかなか美味ですよ?」
うーん、正直ウザい。
「私は妻以外興味がない。アヤメ、さぁダンスホールにでも行こうか?」
スマートだ!実にスマートに私をエスコートしてダンスに誘った。私は私で関係のない令息に囲まれてたし。
ダンスをすれば、ため息(?)が聞こえるし、なんか玉座の方からも聞こえるんだけど、幻聴か?侍医に診てもらおう。
「アヤメ、私は上手くダンスが出来ているだろうか?」
とっても出来ていますよ!私よりも上手いですからね……。
「ええ、私はジョンソン様の足を踏むことはないかしら?不安だわ」
「アヤメに踏まれるなら本望だよ」
それは……変態宣言ですね。
「彼女とダンスをしてもいいだろうか?」
おーっと、殿下が……それも王太子殿下からの申し出!断れないんじゃない?
「殿下といえども妻を手放すことはできないですね」
「はははっ、君の『妻を溺愛している』噂は本当だったか」
そんな噂があったのか、赤面してしまう。
「私からの申し出ならどうかな?君の奥方と1曲踊りたいのだが?」
「陛下、お戯れを。陛下には愛する王妃殿下がいらっしゃるではありませんか?」
「あぁ、ジョンソンは新婚だったな。悪かった」
「王家の者が軽々しく頭を下げるものではありませんよ、陛下のイタズラではありませんか?」
「うむ、まぁそうだな。ジョンソンのガードは固い。久しぶりに王宮に顔を出したというのに」
「私は陛下の玩具ではありませんよ」
舞踏会から帰ってきた。ほんのちょっとの時間のために、高いドレスとか新調するのは正直心が痛む。すでに部屋着(?)に着替えたから。
陛下はジョンソン様の素顔を知ってたのか……かなり謎に包まれてたんだけどなぁ。あの様子だとそれすらも楽しんでたんだろうな。
「アヤメ、もう着替えてしまったのか?」
「あら、そういうジョンソン様だって」
「もうちょっとアヤメのドレス姿見て居たかったな。できるなら、私が脱がせたかった」
うわー、なんてことを!人間のキラキラしい姿で寝台へのお誘い?えぇ、わかりますよ。あの口づけ以来、なーんもしてないですからね!うーん、夫婦だしいいといいえばいいかなぁ?公爵として世継ぎも必要でしょうし。貴族って面倒だなー。
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