祐樹の恋心と友愛 / 2人の看病
◆伊藤祐樹 視点
慎太の家に向かっている間、俺はすごく複雑な気持ちになっていた。
吉田の表情や慎太の事を心配する言葉の数々・・・あぁ・・・これやっぱりアウトだわ。
ずっと吉田の事を見ていたからわかる。すくなくとも慎太に好意を持っているのは間違いなさそう。これはくるなぁ・・・
吉田の事が好きだ。吉田は俺っちの事を異性として見ていない事は、中学の時からわかっていた。だけれど、それでも吉田に一番近い男は自分だと思っていたのにな。いやまぁ、自惚れかもしれないけれど。
もう心のなかは、嫉妬で大火事ですよ。メラメラしちゃう。真っ白い灰になっちゃうんだから。俺っちが灰になっても悲しまないでね。・・・何とか自分を鼓舞するために、ふざけてみるけど、心の痛みは治まらない。
けれど、慎太に対して敵愾心がわくか?で言うと不思議とそうならない。苦しいけど、辛いけど、それでも慎太だったら納得できる。他の男よりかは100万倍いいと思える。
慎太は外見とか表面的な言葉じゃなく、その人自身を大事にできる。ただ惰性で相手に合わせるのではなく、相手の事を本当の意味で考え、寄り添う事ができる優しいやつだ。
吉田の事を考えれば・・・応援するのが俺の役目・・・だよな。上手く自分の気持ち・・・抑えられるだろうか。それに慎太が恋愛に対して前向けるかの問題もある。俺っちは吉田はもちろん、慎太にも幸せになってほしいって思ってる。
「解熱剤、リンゴ、イオン水、氷枕にタオル・・・このくらいかな」
「吉田が女子に見える」
「んな!360度どこからみても女子。ピッチピチの女子高生ですけど!?」
「きょうびピッチピチは言わないなぁ」
何て能天気なんだ。心配そうにしているくせに、吉田の口から出てくる言葉はいつも気の抜けたものばかりだ。こっちは吉田の事で頭を悩ませてるっていうのに。でも不思議と気持ちが楽になってくる。
「とりあえず慎太の家、ここな。」
地図アプリで慎太の家の場所を教えてやると・・・・
「おっけおっけ。祐樹が個人情報流したって伝えておくね。」
「事務連絡すら罠が仕掛けられてるの?息つく暇もない感じ?」
何て答えてきた。やっぱりあれだな。吉田との会話は楽しいな。
いろいろバカなやり取りをしているうちに、ようやく慎太の家が見えてきた。
「とりあえず慎太に電話するか」
―プルルル
―プルルル
・・・・
・・・
・・
「出ないな、寝てるかな?玄関のベル鳴らしてみるか」
―ピンポーン
・・・・・
・・・・
・・・
―ピンポーン
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「まいったな、ドア空いてないだろうし」
・・・ガチャ
「え、ドア空いて・・・・え”!?」
慎太が玄関で倒れて・・・!?
「慎太君!!!!!」
まっさきに吉田が慎太の所に駆けつけると胸がチクっとする。
いや、今はそんなこと言ってる場合じゃない。
「慎太!大丈夫か?」
「・・・う、祐樹か。悪い、鍵開けようと思って」
良かった。意識がある。
「いや、慎太、なんでこんなとこで寝てるんだよ!ほら、肩かせ、お前の部屋まで行くぞ」
何とか部屋に連れていき、吉田にも協力してもらってイオン水と解熱剤を慎太に飲ませた。しかし結構やばいな。慎太のご両親か妹ちゃんが返ってくるまでいたほうがいいかもしれん。
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◆佐藤慎太 視点
おぉ・・・・また寝てた。
「お、起きたか。熱どうよ?」
「あー、ちょっと計ってみる。・・・・・・・・・37度8分まぁまぁだな」
「いや、まぁまぁでは無いな。解熱剤飲んでそれかよ?」
「それでもさっきよりかはましかな。助かった」
そういや、さっき吉田さんも来てなかったか?いや、幻影の可能性がある。祐樹だけだと男だけのお見舞いという現実を受け入れられない己の欲望の可能性を否定できない。
「心の声がぶつくさ漏れてるぞ。お前が呼んだくせに現実を受け入れられないとか、俺っち泣いちゃうよ?」
「あ、スマン。つい本音が。」
「あれ、追撃されちゃう感じ?ナニコレ?何かに目覚めそう。って冗談はさておき、吉田、来てるぞ。氷枕買ってきたんだけど、肝心の氷がなかったからコンビニで買ってきてもらってる。」
「え”本当に?悪いことしたな」
「あれ?何その気遣い?俺っちにはないのかな?全然気遣ってくれてOKだぞ?カモン!」
「今、祐樹への気遣い、品切れで。ちなみに納入される予定はない。」
「目覚めそう!目覚めちゃうから!」
やばい。親友がきもい。消毒したほうがいいかもしれない。
「でもま、慎太、元気でたっぽくて安心した。」
「まあ、薬飲んだからな。」
「ああ、いや、体調もだけど、精神的に参ってたろ?」
「ん?ああ、そうかも・・・。あの幼馴染の彼氏が駅で詰め寄ってきたときの夢見たからかも。」
「あ、悪い・・・」
「いや、いいよ。寧ろあの事知ってるの祐樹だけだから、ため込まずにすんで良かったくらいだわ」
祐樹は俺が音楽始めたタイミングからの付き合いってのもあって、柚葉との別れの下りから、田中の話まで知ってくれている唯一の友人だ。こいつだけには気を遣わずにいられる。
「今、何時だ?」
「今は俺っちの体内時計によると、17時だな。ちなみに、世の中的には15時」
「大分寝てたな。というかスマン。起きるの待ってくれてたよな。」
「気にすんなって。お、吉田帰ってきたな。」
「ただいま!あ、慎太君起きたんだね!大丈夫・・・じゃないよね?今、氷枕用意するから」
話ながら吉田さんが素早く氷枕を作ってくれた。
「あー、冷やっこい」
「良かった。慎太君、玄関で倒れてた時、心配でドキドキしちゃったよ。背筋冷えたっていうか」
「いや、本当にごめん。迷惑かけたね。」
「迷惑だなんて!思ってないから。ただ心配だっただけで・・・」
「てか、吉田さんも来てくれるとは思わなかったよ。あー、ただあんまり俺に近づかないでね」
「えっ・・・嫌・・・だった?」
「いやいや、風邪うつしたくないから」
「おや?俺っちは?俺っちはいいのかな?」
「それは違うよ。祐樹。ただ単に祐樹には風邪がうつることが無いというだけで」
「それはあれ?〇〇は風邪ひかない的な?あれ?目から汗が?何だろ?潤っちゃうなー。おめめ、潤っちゃう。」
祐樹がいるとその場の雰囲気、いつも明るくしてくれて助かる。
「何はともあれ、二人ともありがとう。今度改めてお礼するよ。」
「病人がそんなこと気にするなって!」
「そうだよ。困ったらいつでも呼んでよ。あ、私のLIFEの登録しておいてほしいな。慎太君のも教えて?」
「あ、そしたら俺っちが後で教えとくよ。慎太いいよな?」
「頼むわ。ごめん、ちょっと疲れてきた。鍵は開けっ放しで帰っちゃって大丈夫だから、、、少し、、寝てもいいかな?」
「こんな時まで気遣うなって!ちゃんと寝ろよ!お休み」
さっきまで心にあったしこりのようなものが解きほぐされた気がして、2人が来る前よりも安心して眠ることができた。