水着楽しみにしてます。
◆佐藤慎太 視点
<返信遅れてごめーん!もちろん私もプール行きます!!>
柚葉と会話をした日の夕方にリビングでぼーっとスマホを眺めていた。正確に言えばグルチャに届いた吉田さんからのメッセージを。
どうしようか二の足を踏んで返信をできないでいたら、吉田さんからのメッセージがグルチャに届いていた。
あー・・・どうすっかな。俺が行ったら吉田さん、楽しめないよな。でも他のメンバーは不自然に思うだろうし。
・・・
いや、そういう問題じゃないな。
そもそも俺のほうから、吉田さんと距離を取るなんて失礼だ。勇気を出して告白して、上手くいかなくて、なのにその相手から距離を取られるなんて、そんなのない。
俺が・・・吉田さんにとって苦しみの対象で、吉田さん自身が俺と距離を取りたいとするならば・・・それは、ちゃんと受け止めるしかない。俺のせいなんだから。
てか、吉田さん、俺が行かないと思って、プール参加決めてたら・・・ちょっと申し訳ないな。せめて、俺のほうが先にメッセージ送っておけばよかった。
まあ、考えてもしょうがない。取りあえず参加の意向のメッセージを作って・・・
ヴー・・・・ヴー・・・・
お?祐樹?
『お、もしもし。慎太?今、いいか?』
「おお、もちろん。暇してた。どうした?」
『慎太の声が聞きたくて!』
プッ
あ、指が勝手に。
ヴー・・・・ヴー・・・・
『すんません。調子乗りました。』
「身体が勝手に動いた。」
『女の子を助けた後に言うとかっこいいやつっすね。俺っち女の子だったら良かった。って、そうじゃなくて』
「おう」
『あー・・・えっと、たまたま、たまたまなんだけど・・・吉田のこと聞いたわ。』
「あ・・・」
『今日、吉田とばったり会って、ほら、俺ら同中だから家、まあまあ、近所にあるから。家の近くのスーパーでさ。』
「・・・うん。そうか」
『んでさ、慎太から、グルチャに返信なかったからさ。ちょっと気になって』
「あ、いや、悪い。ちゃんと二次会行く!ちょうど、返信しようと思ってたところだったんだ。」
『お!マジか!良かったわ。』
「まぁ、吉田さんとのこと聞いて返信なかったら、何だろうって思うよな。」
『いや、まあ、な。あとは、単純に慎太、大丈夫かなって。』
「ん?俺が?この場合、それは吉田さんに向ける言葉だろ。」
『いや、それはそうだけど、慎太だって断るのしんどかっただろうなって』
「・・・そんなことねぇよ。・・・俺がしんどいとか、言っちゃダメだろ。」
『・・・。・・・慎太さ、吉田の事、嫌いか?』
「いや、嫌いなわけないだろ。・・・ただ、吉田さんの気持ちに応えられないというだけで」
『それは・・・やっぱ、随分前に言ってた恋愛自体がキツイとか、そういう事に関係する・・・のか?』
「・・・まぁ、な。」
『あ、いや、いいんだよ。慎太が選んだ答えを否定するつもりがあるわけじゃ、ないんだ。』
「・・・」
『だけど、だけどさ・・・俺っちがどうのこうの言うのは違うってのもわかってるんだけど。・・・ちょっと・・・悲しくてさ』
「祐樹・・・」
『俺・・・俺っちな・・・実は・・・なんだけどさ、・・・吉田の事・・・中学の頃から、好き・・・でさ』
「・・・!!・・・祐樹、・・・俺・・・ごめん。マジで・・・ごめん。」
『いや!違うぞ?慎太のこと責めたいんじゃねえよ?そりゃ、ジェラシーってやつ?ないわけじゃなかったけど、でも、他の男よりお前だったらって・・・ああ!いや、そうじゃねぇよ。言いたいのは。』
「・・・」
『悲しかったのは・・・俺っちの親友だと思ってる慎太がさ、俺っちの好きな吉田に告白されて、それで苦しんでんだろうなって想像できちまうのと・・・』
「・・・あぁ」
『吉田は吉田で、慎太に、想像だけど、多分、吉田自身の良さとか、他に好きな人がいるとか、そういう事ではない部分で・・・最初から歯車が嚙み合う事のない中で想いを告げたのだとするとさ・・・』
「・・・」
『なんつうか・・・俺っちまで苦しいつうか・・・いや、スマン。何言ってるか分からなくなってきた』
「ゴメン、祐樹。俺・・・」
『いや、だから違うんだって。慎太のこと責めてねぇよ。謝ってほしいんじゃないだよ。・・・寧ろ、謝るのは俺っちのほうで・・・』
「?」
『・・・俺っちさ、吉田から話を聞いて、吉田もやっぱ、そりゃ、悲しんでて、それ見て、こんなのあんまりだって、・・・だから、俺っち、勝手にさ・・・慎太が、恋愛を、恋愛自体が苦しいって、互いに傷つけるものだって考えてる事、吉田に伝えた。もちろん、柚葉ちゃんの事は言わずにだけど』
「・・・え、いや、なん・・・それ、それさ、吉田さんからしたら、好きになった人が、そもそも恋愛自体がダメな人だったっていうほうが、望みがない相手に告白したっていうことを知ってしまうほうが、・・・より苦しませるっていうか」
上手く頭がまわらん。大丈夫・・・か?いや、俺が心配する資格なんてないかもしれないけれど、だけど俺のせいで、吉田さんをもっと、悲しませてしまっていないだろうか?
俺なんかを好きになったばかりに、苦しませてるんじゃ・・・
『ゴメン。慎太。俺っちが・・・慎太が言うように、吉田からしたら自分の想いの行き場がなくなるような事を言ったかもしれない。だけど・・・だからこそ慎太、後で殴られてもいい・・・、吉田と付き合えとか言うつもりじゃなくて・・・恋愛がどうのとか、そういう事じゃなくて、“吉田”の事を、“吉田自身”の事をちゃんと見てほしい』
「どういう・・・」
『慎太の考え知っていて、そのくせ、慎太の苦しみをちゃんと理解しきれないのに、しかも余計な事して・・・言う資格ないかもしんねぇ。』
「・・・」
『けど、恋愛がダメだからって理由じゃなくて、せめて、吉田自身の事を見て、吉田自身の事を考えて慎太の想いを伝えてほしい』
「いや、でも祐樹が俺の本音を伝えたとは言え、もう気持ちに応えられないって言った手前、俺の事はもう、眼中にないっていうか、少なくとも忘れる努力をしていて、前を向き始めてるかもしれないだろ?」
『・・・・・・・・・あぁ。』
「それに今更、俺が何か伝えても、迷惑じゃないか?それに、正直、そんなにすぐに吉田さんへの想いへの結論・・・出せる気がしない。時間経って伝えても、それこそおかしいっていうか」
『・・・・だな』
『「・・・」』
・・・ああ、まったく・・・祐樹は・・・損な性格してるよ・・・
「・・・要するに、あれだよな・・・恋愛に対する気持ちとか、そういう事じゃなくて、“吉田さんの想い”に対して、ちゃんと向き合えって言ってるんだよな」
『・・・おう。』
「それって、祐樹にとって何かメリットあるのか?俺に殴られる覚悟で黙っとけばいいこと話して、俺が吉田さんの気持ちにもし応えたら、好きな子を取られて・・・何したいんだよ。」
『メリットとかじゃねぇ。納得できねぇってだけの話だ。ただの自己満足だよ』
「・・・・・・・・・・・・1つ約束しろ」
『おお』
「祐樹も自分の気持ち抑え込むようなことするな。俺に言ったんだから、お前だって自分の気持ちと向き合えよ。それでちゃらでいいよ。」
『・・・・・・・・・うわ、イケメンみたいなこと言われた。』
「おまえ、殴るぞ」
『暴力反対!暴力は何も生まない!』
「大変だ、指が通話終了ボタンに向かって勝手に動いて・・・」
『いやいや!慎太、本当にやるからな。・・・いや、わかった。いや?俺っちだって別に諦めてたわけじゃないからな?』
「本当かよ?すげぇ自分の気持ち抑え込んで遠慮してたんじゃねぇの?・・・・・・・・・変な気、まわすなよな。・・・それと、サンキューな。吉田さんの事もだろうけど、俺の事も考えてくれてたんだろ?・・・さっきちゃらでいいとか、言ったけど、そもそも謝る必要ないって。」
『いや、慎太、そういう事は思っても言うなよ。男友達から感謝されるとぞわぞわするっていうかさ』
「女友達の場合は?」
『よっしゃーーーー!!!!!!!!うひょひょ!!!!ってなる。』
「納得」
『あ、納得されちゃった。』
「ちなみに、俺の答えが見つかって吉田さんに伝えた時、キモがられたら、その時は祐樹の事、殴りに行くわ」
『それはやむなし。どんとこい!・・・・いや、でも、俺っちも遠慮しないってのは、わかった。頑張ってどうにかなるかわからないけど、まあ、頑張るわ。』
「だな」
まあ、祐樹もなかなか無茶苦茶な事を言うよな。恋愛を横に置いておいて、好きという気持ちに対する答えを探すって・・・矛盾してる。
正直、よくわからなくはある。わからなくはあるが・・・恋愛に対する考えを理由に吉田さんを見ずに吉田さんの想いに応えないという事が、誠実でない事は・・・ちゃんと理解できた。
相変わらず恋愛に対する考えは変わらない。恋愛って何なのか、何の意味があるかはわからない。けれど、今はわからなくていいと、柚葉が言ってくれた。
柚葉が心を救ってくれ、そして祐樹が俺の間違いを教えてくれた。真摯な想いに向き合わないのは違うと。・・・本当に、まわりに助けられてばかりだな。
・・・まずは向き合ってみよう。よくわからないフィルターを外して、ちゃんと相手を見よう。
祐樹との通話を終わらせて俺はスマホに指を滑らせ、
<俺も返信遅れたー。水着楽しみにしてます!>
と、自分の正直な気持ちをしたためたメッセージをグルチャに送信したのだった。
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