祐樹の想い
◆伊藤祐樹 視点
暑い、溶ける。心頭滅却すれば火もまた涼しいわけがねぇ。燃えるでしょ、気合で乗り越えられる問題とそうでない問題ってあるよね。そして、気合で乗り越えられない相手、太陽、Q.E.D、はい、証明完了。・・・完了してるかな?
俺っちは姉貴とのじゃんけんに負け、絶賛パシられ中である。姉貴、足の筋力とじゃんけんだけはやたら強い。姉弟間ヒエラルキーを覆すことは夢のまた夢なのか!
とまあ、ようやく近くのスーパーマーケットに到着。ふう、涼しい。だらだら店内を回り、目的のものを購入。そして出口に立ち、目の前の現実を直視する。夏の空が眩しい。・・・フ。わかっていたさ。俺たちの戦いはこれからだ!!!~完~
いや、バカやってないで帰ろう。
「あ」
「ん?おお、吉田じゃん。」
「うん、あ、祐樹。えーと、おっひさー。」
「あー、だな。ライブ以来か、つか吉田、グルチャの返信返せよなー。明後日のプール、行けるん?」
「あ、二次会の?・・・祐樹、涼音ちゃんに『出家したほうがいいんじゃないかしら?』って言われてたよね。ウケる。」
「ばっか、おまえ。最高の選択だろ?宮田さんも結局は来るって言ってるんだから!慎太とか、あいつオープンムッツリという拗らせた属性持ってるからな。今頃心の中で小躍りしているはずだぜ?つか、あいつも小躍りするあまり返信来てないけどな。まあ、気持ちはわかる。」
「いや、違うでしょ。わかって・・・ないでしょ。・・・うん、そうね・・・私は・・・行かないかな?・・・ほら、私、バンドメンバーじゃないからさー」
「え?いや、そうはならないだろ?練習付き合ってくれたんだし、皆、吉田の事、仲間だと思ってるぞ?少なくとも、二次会誘うのは当然って思ってるのは間違いないだろ。」
「・・・そう、かな。・・・いや、慎太君から返信こないの、私が来ると嫌だからかなーって。・・・へへ」
・・・ああ、なるほど?
「・・・あー・・・うん。・・・暑いな。」
「ん?あ、うん、そだね。暑い暑い」
「うむ。んで、この日照りを超える為には、身体の中から冷やす必要がある!と、言う事でちょっとの時間、俺に付き合ってくれ。ソフトクリーム奢ってやるから。そこのベンチで食べてから帰ろうぜ。」
「え、いいの?気前いいじゃん。なに?何か、怖いんだけど」
「いや、お前な。人の好意を疑うんじゃないよ。」
「人の好意は疑わないよ?祐樹の好意を疑うんだよ。」
「うん?」
何この子?流れるようにディスるじゃない?俺っち人だよ?仲間にいれて?
「と、取りあえず買ってくるわ。ちょっと待っててくれ。」
・・・まったく。吉田が来ること、慎太が嫌がるわけないだろ・・・。けど、まぁ・・・多分、何かあったんだろうな。大体想像つくけど。てか、多分、凹んでるんだよな?吉田?その割には切れ味鋭くない?まあ、落ち込み過ぎて苦しんでるよりかは、ましか。
「ほい」
「やった。ありがと。いただきまーす。」
「んで?慎太が嫌がるって、何でそう思うわけ?」
「・・・いや、ま、聞くよね。うん・・・・。まぁ・・・・その・・・うん、そう、玉砕しちゃったのよね、私・・・慎太君に告白して振られちゃって!いやー、まいったなー。ほんと、やっちゃった。きっと、慎太君、今頃気まずい想いしてるだろーなーって!失敗失敗!」
・・・やっぱりか。・・・辛いはずだ。見るからに慎太に恋してたからな・・・。なのに・・・くそ、上手くいかないな。それに・・・なんだよ、明るくふるまって、無理すんなよ。・・・ちょっとくらい、俺っちに頼ってくれよ。
「あー・・・そか。うん。いや、頑張ったじゃん。それに、慎太なら大丈夫だって。吉田も知ってるだろ?あいつ、上辺じゃなくて、本当に優しい奴だから。」
「・・・私が慎太君に告白したの、驚かないんだね。」
「いや、あれだけ分かりやすければなぁ。」
「え”・・・、私、そんなにわかりやすかった?」
「慎太以外は、大体わかってたと思うぞ。慎太は・・・あいつは、奇跡的に気が付いてなかったぽいけど。」
「・・・はは、うん。そうね。慎太君、私に告白されるその瞬間まで、本当にわかってなかったみたいだった。」
・・・そうだろうな。あいつ、慎太は、鈍感なわけじゃない。そうじゃなくて、幼馴染の・・・柚葉ちゃんの事があってから、恋愛に対してきっと恐怖を持っていて、そういう好意を無意識に受け付けてないというか・・・、好意自体を信じてないところがあるから・・・。
信じてないから気づけないんだと思う。
「それでね、告白して、お断りの返事をくれた時、慎太君の顔、凄く辛そうだったんだ・・・。私ね?あんな顔させたかったわけじゃないの。どうしてあんなに辛そうだったのかわからない。・・・でも、お断りされた事以上に・・・あんな顔、させちゃったんだって・・・きらっ・・・嫌われちゃったかなって・・・。それがショックで。・・・スン。・・・へへ、ごめんね。泣くつもりなかったんだけど・・・。あー、恥ずかし!・・・へへ・・・。」
吉田が目をつむりながら、自分の顔に向かって手をパタパタ振って、涙を止めようとしている・・・。
俺っちは・・・吉田の頭をなでようとして、自分の胸に引き寄せ、抱きしめようとして、手を伸ばし・・・・・・その手を引っ込めた。
(・・・俺っち最低だな。弱って泣いている相手に付け込んで、自分の欲求を満たそうとして・・・マジでバカだわ。・・・今は、吉田の事が優先だろ・・・。)
頭を切り替えろ。心を殺せ。
今、考えるべき事は“慎太の心の傷を伝えるべきだろうか?”という点だ。
“伝える事が慎太にとってプラスになるか”
“伝える事が吉田にとってプラスになるか”
慎太にとっては・・・そもそも、言うなっつう話だよな。勝手な推測混じりで心の傷を知らない所でさらされるなんて、たまったもんじゃねぇ。
だけど・・・どうしたら慎太は、乗り越えられるんだろう?恋愛が全てだとは思わない。だけど、あいつは恋愛の悲しい側面ばかり見て、結果を考えて、言葉に表せないような幸せな時間すらも否定する。
確かにある温かな側面を見ようとしない。きっと、吉田と付き合えたら、そういう素敵な側面も見れるかもしれない・・・。
・・・吉田にとってはどうだ?伝えれば慎太が吉田を嫌いになったなんて事は無いとわかるだろう。まぁ、冷静になれば伝えなくてもわかりそうなものだけど・・・今スグには・・・無理なんだろうな。
だけど、伝える事で、吉田の苦しみが長引く可能性がある。そもそも“吉田自身”を拒絶したのでは無く、“恋愛”を拒絶したと理解したら、区切りを付けようにも、つけられなくなる。
俺っちだったら、そこで迷子だ。
でも、吉田は真剣に恋して、向き合っているのに何も知らなくて、最初から舞台にも上がれてないとか・・・
・・・ああ、頭ぐちゃぐちゃするな。
「・・・へへ、何、祐樹が難しい顔してんのよ。・・・大丈夫よ。私ね?バカだから、まだ慎太君の事、好きなんだ。もう、びっくりしちゃうよ!あんなにハッキリ言われたのに。全然、気持ち、おさまらない。それで、思ったの。・・・それでいっかって。好きなままでいいやって。」
・・・
「まだスグに慎太君と会うのは怖い。だけど・・・ちゃんと話そうって。祐樹も含めてさ!また・・・クラスで3人で、楽しく笑いたいって、そう思うの。せっかく芽生えた想いだから、もうしばらく大事にしようって思ったの。だから私は大丈夫。」
・・・・・・・・・強いな。すげーよ、吉田。辛いはずなのに、逃げないんだな。
・・・慎太ゴメン。ちゃんと殴られに行くわ。もしかしたら、正しくないかもしれないし、慎太も吉田も悲しませるだけかもしれない。
でも、嚙み合わない歯車がぶつかって壊れていくより、ちゃんと嚙み合わせて、ちゃんと回して、その先どうなるか分からないけれど、次に繋がる力に変わるって、そうあってほしいから・・・。だから俺は・・・吉田に伝えたい。
「吉田・・・あのな?・・・・・・慎太は吉田を嫌ってなんかいないよ。」
「・・・え?」
「理由は言えない。ただ・・・慎太は恋愛はしても意味がないって。恋愛は互いを傷つけるだけだって考えてる。」
吉田・・・動揺してるな。まあ、こんな話すればな。
「多分、今も吉田の気持ちに応えられなくて、吉田を傷つけたって、でも恋愛してもいつかは傷つけるって、あいつの事だからそう思って、吉田との関係を壊してしまったって、自分を責めてるんじゃないかと思う。」
・・・
「俺っちも、何が正しいかわからない。だけど、あいつが苦しんでいること、吉田には伝えたほうがいいって、そう思った。余計なお世話かもしれないけど、余計に苦しませるような事を、言ったかもしれないけど、だけど・・・」
「祐樹。余計なお世話だなんて、そんなことない。教えてくれて、ありがとう。今は・・・戸惑ってる。本当はどうして慎太君がそう思うのか、知りたくてたまらない。だけど・・・、私は聞かない。」
どこか後ろめたい気持ちになりながら、未だに伝えた事が正しかったか不安を覚えながら吉田を見る。
「今ね、祐樹の言葉を聞いて、一つ、わかったんだ。」
わかった?
「私、慎太君の事、ちゃんと見れていなかったんだなって。祐樹が言ってくれて、慎太君が私を嫌になってないってわかって、でも、そうなんだってわかったら、嬉しいって思うと同時に、慎太君の気持ち、見れてなかったって思ったの。慎太君が苦しんでいる事も気付けていなかった。」
・・・
「だから、今度はちゃんと“慎太君”を見てみようと思う。だから、ありがとうだよ?祐樹。私に前を向かせてくれて。・・・・・・よし、決めた。祐樹?ちゃんと二次会、慎太君、引っ張ってきてね!まずは、私が傷ついてないところ、しっかり見てもらわなきゃ!あんな事で慎太君との関係、壊れないよってわかってもらわなきゃ!」
「いや、吉田、完全にズタボロだったよ?救急車呼ぼうかと思ってたもの。」
「ちょ!祐樹、そういうところだからね!」
何が正しいかわからない。だけど、俺っちには少なくとも言葉を発した責任がある。
「まぁまぁ・・・あー、それで、吉田。慎太の事、何かあったら相談してくれ。俺に何が出来るかわからないけど、・・・協力する。」
「うん!ありがと!祐樹!」
良かった。元気を取り戻した吉田を見て、ほっとすると同時に、心がズキズキと痛んでいた。
ク・・・1日開けてしまいました。祐樹・・・自分を大切にしたって誰も責めないよ。
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